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カレントアウェアネス
No.315 2013年3月20日
CA1788
カレントアウェアネス・ポータルのいまを“刻む”:情報収集活動と未来へのアイデア
関西館図書館協力課:依田紀久(よだ のりひさ)
関西館図書館協力課:林 豊(はやし ゆたか)
関西館図書館協力課:菊池信彦(きくち のぶひこ)
はじめに
国立国会図書館(NDL)関西館の設立から10年。東京に置かれていた図書館研究所から関西館に新設された図書館協力課に引き継がれた『カレントアウェアネス(CA)』の編集業務(1)はその間に大きく様変わりし、「カレントアウェアネス・ポータル(CAポータル)」という情報ポータルサイトへと発展した。
本稿では、その成長を振り返りつつ現在のコンテンツの構成を説明する。その上で、CAポータルに掲載されるすべてのコンテンツの土台となっている「カレントアウェアネス-R(CA-R)」の情報収集活動の実態を紹介し、図書館界の情報発信の活性化に向けて期待することを述べる。最後に、「カレントアウェアネス」という名称に託されている想いと、「図書館界の(ほぼ)すべてがここでわかる!」というCAポータル開始当初に担当者が抱いた“夢”について、未来に向けてのいくつかのアイデアを提示する。
1. カレントアウェアネス・ポータルとは
CAポータルは、1979年に創刊されたNDL館内向けの情報誌CAの発展形として、2006年に開設された。CAポータルのウェブサイトを開くと、赤色に白抜きで書かれた「カレントアウェアネス・ポータルは、図書館界、図書館情報学に関する最新の情報をお知らせする、国立国会図書館のサイトです」という一文が眼に入るだろう。CAポータルの目的を端的に示したものであり、1979年のCA創刊時に掲げた方針(2)と比べ、表現の変更はあるが、ほぼ変わらず一貫している。
CAポータルの名称は図書館情報学上の用語「カレントアウェアネスサービス」に由来している。「カレントアウェアネスサービス」とは、「図書館その他の情報機関が利用者に対して最新情報を定期的に提供するサービス」のことだが(3)、CAポータルにとっての「利用者」とは、いわゆる図書館の一般的な利用者ではない。図書館員や図書館情報学等の研究者、出版情報産業界の人たちを主な「利用者」、すなわち想定読者と捉えている。この「利用者」に図書館の「いま」を伝えるのが、CAポータルである(4)。
CAポータルは、季刊誌CA、メールマガジン「カレントアウェアネス-E(CA-E)」、そしてブログCA-Rという、“CA”の名前を冠する3つのコンテンツ、そして例年テーマを設定して実施している調査研究事業の成果物の、合計4種類で構成されている。もちろんだれでも無料で利用できる。運営を担うのは、職員3名からなる調査情報係である(5)。
“CA”の名前を冠する3つのコンテンツの概要を端的に紹介すると、まずCAは、季刊の情報誌として年4回刊行しているものである。既に述べたとおり1979年に創刊されたもので、CAポータルのコンテンツの中では最も歴史が長い。2002年のCA-Eの誕生により、CAはそれまでの月刊から季刊へと刊行頻度を下げ、同時に、レビュー誌としての機能を明確化するという姿勢を打ち出した。2003年9月以降、一般記事(3,000字程度)、動向レビュー(6,000字程度)、研究文献レビュー(10,000字程度)、という3種類の記事を掲載している(6)。今号(No.315)を含めると記事総数は1,791本である。CAの到達点については、今号の村上記事で詳しく論じられている(CA1787参照)。
CA-Eは、原則月2回刊行しているメールマガジンで、2002年に創刊されたものである(E1000参照)。1号あたり6本前後の記事を掲載し、1記事あたりの分量は1,000~1,500字程度、多い場合でも2,000字弱と、CAに比べてコンパクトになっている。執筆は主に調査情報係3名が担当しているが、NDL内外の関係者に依頼することもある。2012年末には図書館情報学を専攻する大学院生を主な対象として、研究文献の紹介記事執筆者の公募を開始する等(7)、係以外の執筆者の比重を増やしつつある。2013年2月7日現在、記事総数は1,396本、配信登録者数は6,192名となっている。
CA-Rは、最も若く、CAポータルと同じ2006年に誕生したメディアである。ブログとしての特長を生かし、機動力のあるコンテンツとして、誕生以来毎勤務日に欠かさず更新が続けられている。1日あたりの配信数は10本程度であり、2013年2月7日時点の記事総数は15,105本を数え、CAポータルを代表するコンテンツにまで成長した。
CA、CA-E、CA-Rは独立したコンテンツ群のように見えるが、実は一体的に運営されている。CA-Eの記事は、主にCA-Rに掲載した記事の中から2週間に1度の係会議でテーマを選択して決めている。またCAに掲載する記事のテーマは、図書館情報学研究者や現職の図書館員からなる年4回の編集企画会議において決定しており、その会議にかけられる記事の候補も、CA-Rに蓄積した情報から多くを抽出している。もともとCA-Rは、CA-EやCAのための情報収集活動において係内に蓄積していた情報をブログ形式で公開したものであり、言い換えれば、業務負荷を増やさずに新たなコンテンツを拡大できたということである。
CAポータルに対する利用者の評価は、総じて高いといってよいだろう。2012年に実施した利用者アンケートでは、CAポータル全体の満足度は「満足」「どちらかといえば満足」を合わせて96.0%であった。また、週に1度以上利用する利用者は71.4%に達する(8)。これを裏付けるように、2012年の記事アクセス数は年間7,886,850件、ページ内検索回数は93,289件となっている。また、2010年1月に開始したTwitter(@ca_tweet)のフォロワー数は2013年2月7日時点で8,133にも上っている。CAポータルの主な利用者である図書館関係者のための、図書館に関する最新ニュースをキャッチするメディアとして一定の地位を確立しつつあると自負している。
2. カレントアウェアネス-Rの情報収集
次に、ブログCA-Rで発信する記事の材料となるニュースを調査情報係がどのように収集、選別しているか、その方法について具体的に紹介したい。既に述べたとおり、CA-Rとして蓄積された情報は、CA-EおよびCAの企画を立てるための“種”であり、CAポータル全体の活動を支える重要な役割を果たしている。
CA-Rの情報発信については、「情報がはやい」「どうやって探しているのか」と利用者から聞かれることがしばしばある。我々が日々チェックしている国内外の情報は各自数百件から千件ほどである。実のところその情報収集は、以下に示すように誰でもどこの図書館でも可能ないたって一般的な方法に過ぎないものである。ただ、調査情報係では、限られた時間のなかで、情報を広く、迅速に、かつ効率よくキャッチするよう努めており、ノウハウが蓄積されつつある。以下に紹介するのは、日々の積み重ねの中で出来上がった、現在の方法である。
2.1 情報収集のためのツール
調査情報係では、以下のようなツールを使用している。
(1)RSSリーダー
RSSは、ウェブサイトの更新情報を通知するための手段のひとつである。このRSSを登録し、効率的に管理・閲覧するためのツールがRSSリーダーと呼ばれるもので、“Google Reader”等がある。担当者は各自、数百件程度のRSSを登録し、日々、こまめにチェックしている。登録しているサイトには、主要な図書館や図書館関連団体の他、INFOdocket、Library Journal、Digital Koans、LISNews、Library Technology Guides、情報管理Web STI Updates、実業史研究情報センター・ブログ 「情報の扉の、そのまた向こう」、はてなブックマーク・タグ「図書館」を含む新着エントリー、笠間書院 kasamashion ONLINE、等がある。
(2)はてなアンテナ
もちろん、RSSのような仕組みを取り入れていないウェブサイトも数多くある。そのようなウェブサイトの更新情報をチェックするツールのひとつに「はてなアンテナ」があり、全国各地の図書館・博物館・文書館や、業界団体等の公式サイトのURLを登録し、更新をチェックしている。
(3)はてなブックマーク
「はてなブックマーク」は、ソーシャルブックマークサービスと呼ばれるサービスの代表的なものである。自身のブックマークをブラウザではなくウェブ上で管理し、他のユーザと共有するもので、ブックマークに対してタグやコメントを付与できるのが特徴である。はてなブックマークを利用している図書館関係者は少なくなく、彼/彼女らが「図書館」タグを付けてくれたウェブページをチェックすることで、思いがけない情報を入手できることも多い。
(4)Googleニュース、Yahoo!ニュース
およそ図書館に関する新聞記事が掲載されない日はほとんどないと言って良く、新聞も重要な情報源である。「Googleニュース」や「Yahoo!ニュース」のようなアグリゲータを利用することで、数ある全国紙や地方紙のなかから、「図書館」という単語を含む記事を一括して検索できる。
(5)Googleアラート
「Googleアラート」は、Googleが新たにクロールしたウェブページのなかから、あらかじめ指定したキーワードを含んでいるものをリストアップし、メールやRSSといった形式で提供してくれるサービスである。例えば「図書館」「電子書籍」「デジタル化」「著作権」といったキーワードを登録している。
(6)ソーシャルメディア
“Twitter”や“Facebook”をはじめとするソーシャルメディアでは、多くの図書館関係者が盛んに情報を発信している。それらを見ていると、他の方法では取りこぼしてしまう情報に出会うことが多い。はてなブックマーク同様、「人」というフィルタリングによって効率的な情報収集ができるという側面もある。また、公式アカウントを開設する図書館が増え、ニュースの第一報がツイートであったり、公式ウェブサイトには未掲載だが重要な情報が投稿される等、ソーシャルメディアの重要性は増していると感じている。
(7)メーリングリスト
国際図書館連盟(IFLA)、米国図書館協会(ALA)、米国情報標準化機構(NISO)、OCLC、JISCといった海外の主要機関・団体は、トピックに応じて様々なメーリングリスト(ML)を開設している。情報交換の主なチャンネルのひとつとして使われており、日々多くの情報や議論が飛び交っている。MLのアーカイブがウェブで公開されていることも多く、情報源として引用しやすいのもありがたい。
(8)雑誌、電子ジャーナル
CA-Rでは「文献紹介」として、図書館情報学の情報誌や学術誌に掲載された記事・論文の概要を取り上げることもある。最新号のチェックは各タイトルのRSSの他、目次集約サービスJournalTOCs等で行っている。
(9)「あとで読む」系サービス/キュレーションサービス
情報収集では、情報の海のなかからある程度の量に絞り込んでいく段階と、それらを精査・吟味していく段階のふたつに分けると効率的である。一つ目の段階において、あとで詳しくチェックする情報を一時的に保存しておくツールが「あとで読む」系サービスと呼ばれており、“Pocket”等がある。
また、一つ目の段階を自動で行ってくれるキュレーションサービスと呼ばれるツールも存在する。登録したソーシャルメディアやRSSリーダー等の情報を元に、関心がありそうな情報を選択的に表示してくれるもので、英語の情報であれば“Zite”、日本語では“Gunosy”等を利用している。
現在の調査情報係では、以上のようなツールを用いている。これらは図書館界で情報発信活動を行っている方々(E1308、E1314、E1320、E1327、E1332参照)と多くの点で共通する方法と言えるだろう。
もちろん、これらのツールに固定しているわけではなく、担当者はそれぞれ情報収集のために使えるツールは積極的に取り込んでいくよう努めている。また、この他、外部からメール等で情報を提供していただけることも少なくない。積極的な情報発信によって情報ポータルとして魅力が高まったおかげだろうか。集まってくる情報が増えてきているという事実は、書き添えておきたい。
2.2 収集した情報の評価・選別
このような方法で収集した情報には、当然、読者に対して伝える価値の高いものと、そうでないものがある。記事として取り上げるかどうかの価値判断はしばしば難しく、頭を悩ます作業である。
その成り立ちから、CA-Rはネタのストックという性格が強く、CA-EやCAの企画案として使えるかどうかという基準が当初から存在していた。2006年の開始当時のCA-R記事を見ると、本文が非常に短く、あたかもメモ書きのような印象すら受けるのはそのためである。CA-Rは、CA-EやCAで重要な情報を届けるためのベースとして、国内の図書館界でホットな話題を意識し、読者を頭の片隅でイメージしながら「重要」だと考えるものを取り上げている。これは、利用者の情報ニーズに合致する最新情報を届けるカレントアウェアネスサービスの基本であると考えている(E1365参照)。
しかし、何が「重要」なのかという判断はとても難しい。またCA-Rという毎日発信するメディアにおいて「重要」という基準だけでは、担当者としては少々息苦しさもある。実のところ、当時もいまも、「おもしろい」や「こんなのあるんだ」といったシンプルな判断基準を大切にしている。情報を見つけたときの「すごい!」という感動を多くの読者に伝えたい。この新しい動きをみんなで共有することで図書館界に何か良い変化が起こって欲しい。そんなふうに思えるかどうか、それがこれまでにCA-Rに関わった担当者に共通する最も重要な判断基準となっている。図書館ねこデューイのエピソード(E574、E881参照)や、ぬいぐるみのお泊まり会(E1127参照)は、そんな意識を象徴する記事と考えている。
また、歴史を重ねるにつれ、図書館界の“新聞”というだけではなく、“アーカイブ”としての役割も強く意識するようになってきている。いまこの情報を“点”として刻んでおかなければ、時間が経ってからCAポータルを検索したときに一本の“線”が見えづらくなってしまうのではないか。こうした意味合いで係内ではよく“刻む”という表現を使っている。いわば、未来の利用者を意識した評価の基準である。実際、線がつながった時はじめてCA-EやCAでの記事化が図られることもしばしばである。
とはいうものの、どのような情報に興味を惹かれるかは担当者ひとりひとりの個性や趣味、学問的なバックグラウンドにも影響される。これはCAポータルの“味”の一つと言えるかもしれない。
2.3 情報発信者への期待
日々の業務を通じて、国内外の図書館界において情報発信を行っている多くの方々の活動あってこそ、CA-Rの情報収集が成り立っていることを強く感じる。欲を言えば、さらなる充実を望むところでもある。そこで、より多くの図書館や図書館員に情報発信活動を行って欲しいとの期待を込め、情報を発信する人たちに対して「こんなふうにしてくれたら……」と思うことを、3点紹介しておきたい。
1つ目は、まずはとにかく情報やニュースを積極的にウェブで発信していただきたいということである。我々は、自分たちのサービスや取組について、それらが定着して順調に行われていればいるほど“普通”なものに感じ、わざわざ情報発信する価値はないと考えてしまいがちである。しかし、必ずしもそうではない。ある図書館にとって当たり前のことが、別の図書館にとって参考になるということは少なくない。また、ウェブで発信した情報は、その図書館の利用者だけではなく、自治体や所属機関、他の図書館の職員等、さまざまな人たちが見ることができる。情報発信は、そういった人たちに影響を与えることのできる活動である。
2つ目は、各ニュースに対して独立したURLを持つウェブページを作成していただきたい、ということである。そこには発信元や日付(作成日や最終更新日)を必ず記入し、ニュースの内容を適切かつ端的に表すタイトルを(HTMLの<title>タグ内にも)付けてほしい。ファイル形式はPDFよりもHTMLのほうが望ましい。これらは、情報の信頼性を示すために必要なことであり、はてなブックマークやTwitter等のソーシャルメディア上で情報を拡散・流通させていくためのテクニックでもある。
3つ目は、ウェブサイトにはRSSで更新情報を提供していただきたい、ということである。ウェブサイトの改修が必要等といった事情で難しい場合には、外部のブログサービスやTwitterを利用してニュースを発信するという方法もあり得るだろう。RSSの導入により網羅的な情報収集がしやすくなるだけではなく、後述するようにアグリゲータによる情報の集約といった活動へとつながっていく。
このような工夫をしていただくことで、CAポータルとしても取り上げやすく、また他の情報収集活動を行っている人たちにも便利になると考えている。
3. 未来へのアイデア
最後に、30年前につけられた「カレントアウェアネス」という名称と、CAポータル開始当初の担当者がこの事業の遥かなる目標として残したフレーズ「図書館界の(ほぼ)すべてがここでわかる!」に向き合ってみたい。
3.1 カレントアウェアネスサービスとしての評価と応用
前述のとおり、CAポータルは利用者から多く利用され、また高い評価を受けるようになってきている。すなわち、情報過多とも言える社会の中、図書館員等の情報のプロフェッショナルにとっても、CAポータルという現代版の「カレントアウェアネスサービス」が、役に立つと評価されているのである。そうであるならば、前節までに紹介したCAポータルの運営形態(“CAポータルモデル”とする)は、図書館の行う一般利用者へのサービスにも応用できる可能性があるのではないだろうか。
CAポータルモデルは、まとめて表現すれば、速報性のあるメディア(CA-R)を土台にしつつ、発信までの工程数と記事あたりの情報量の異なる複数のメディア(CA-R、CA-E、CA、調査研究)を組み合わせて、“いま”を伝え、さらに“いま”に至る文脈を容易にたどれるよう、すべての情報をウェブ上にアーカイブし提供する、という運営の仕組みである。
例えば、いわゆる課題解決型サービスでの応用が考えられる。公共図書館の中にはビジネス支援サービスを提供しているところがあるが、そこでは地域で起業したいと考えている人をターゲットに、新しい資料の紹介や必要な情報の調べ方、各種イベントや新しい助成金の案内等、様々な情報提供が実施されている。ここにCAポータルモデルが活用できるかもしれない。つまり、図書館が日々収集しているそれらの情報を、CA-Rのようにブログで発信し、定期的にまとめてCA-Eのようにメールで配信、そして業界動向等をその道の専門家に執筆してもらいCAのように配布するというスタイルである。
このようなCAポータルモデルの応用は、自治体の議員向けの法・行政情報等の提供、看護師等医療・福祉サービス従事者に対する医療情報等の提供、地域活性化のために活動しているNPOの人たちに対する情報提供等、様々な分野で考えられると思われる。
3.2 「図書館界の(ほぼ)すべてがここでわかる」ために
NDLとしてCAポータルにかけられる人的リソースには限界があり、現状でも図書館界のあらゆる情報を遺漏なくキャッチできているわけではない。現在の仕組みではCAポータルに大きなコンテンツ群を取り込んでいくことは難しい。その具体的なものが、利用者アンケートでも寄せられた「国内の図書館関係イベントの情報」や「図書館の日常業務に役に立つ情報」である。
イベント情報については、一部CA-Rで記事タイトルに「【イベント】」を付けて紹介をしている。しかし数多く存在するイベントの情報をきめ細やかに拾っていくことは体制上困難であり、例えば地域に閉じたイベントは基本的に掲載していない。この点においては、各都道府県等、地域ごとに情報を集約するようなウェブサイトが立ち上がることを期待したい。例えば、関西地域のイベントに関する情報のアグリゲーションに取り組む“リブヨ・ブログ”(E1332参照)や長野県域の図書館に関する情報のアグリゲーションに取り組む“nalib.net”(E1327参照)等の活動があるが、このような活動が他の地域にも広がると、CAポータルはそれらの情報をつなぐ役割も果たせるだろう。
また、図書館の日常的な業務に役立つ情報についても、あまり提供できていないと考えている。例えば、新しい図書の展示方法を試行した際の利用の変化に関するデータや評価等、日常業務の改善に関する様々なエビデンスを示す情報は、あまり提供できているとは言えない。また、図書館が行っている利用者に対する調査の結果、あるいは図書館サービスの評価結果も同様である。これらについては、このような情報の生産に関与することが重要であり、例えば、CA-Eで積極的に取り上げる、あるいはCAの動向レビュー等に並ぶ1つのカテゴリーとして新設する等して、強化を図ってもよいものではないかと考えている。
3.3 「図書館界の(ほぼ)すべて」を外にも伝えるために
前節で触れたことは、いわば図書館界を利用者として想定したときに、拡充していくべきと考えられるコンテンツである。一方で、昨今の図書館の置かれている現状を思うと、図書館界の情報はその外部にも積極的に伝えられていくべきである。現状、図書館界の外の人たちが図書館についての情報を入手するのは容易ではないとも言える。その理由は、図書館に関する雑誌類にウェブ上で自由に利用できるものが少ないことによる。周知のとおり、国内で図書館界の情報を伝えるメディアは、『図書館雑誌』等紙媒体のみでしか利用できないものが多い。このような状況の中で、CAポータルが、図書館のアドヴォカシーに一定の役割と責任を負っていると感じさせられることが多々ある。より多くの図書館界の情報がウェブ上で無料で利用できるようになることを期待するとともに、CAポータルとしても、図書館界以外の人たちが手軽に図書館についての情報を入手できる場として、改善できることがないか模索しているところである。
なお、2012年にNDLウェブサイト上で実施したアンケートでは、CAポータルを「利用していない」が37%、「存在を知らない」が25%という結果であった(9)。CAポータルの一般的な認知度はまだまだ低く、社会の図書館界への理解促進、すなわちアドヴォカシーツールとしての役割を果たしていくためには、“のびしろ”は大きいと考えている。
これらは一朝一夕で解決する類の問題ではないが、以上の3つのアイデアを未来への議題として提示しておきたい。
おわりに
以上、CAポータルの現在の姿を“刻み”、ノウハウを紹介した。本稿が図書館界の情報発信活動の充実化への一助になれば幸いである。また未来へのアイデアについては、我々だけでできるものではなく、今後お知恵をいただきたいと願っている。
(1) 平野美惠子. 図書館研究所での編集業務を終了するにあたって. カレントアウェアネス. 2002, (271), p. 1.
http://current.ndl.go.jp/node/1221, (参照 2013-02-15).
(2) 宮坂逸郎. 発刊にあたって. カレントアウェアネス. 1979, (1), p. 1, (参照 2013-02-05).
(3) 日本図書館情報学会用語辞典編集委員会編. 図書館情報学用語辞典. 第3版. 2007年, p. 38.
(4) 上田貴雪ほか. 図書館の「いま」をどのように伝えるか: 国立国会図書館の「Current Awareness Portal」の試み. 情報管理. 2006, 49(5), p. 236-244.
http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.49.236, (参照 2013-02-07).
(5) この他、現状、非常勤調査員1名から特にCA-Eの校正と季刊誌CAの企画について助言を得ている。
(6) 橋詰秋子. 特集: レビュー誌の現在; 動向レビュー誌『カレントアウェアネス』の役割と新たな展開. 情報の科学と技術. 2004, (54)3, p. 121.
http://ci.nii.ac.jp/naid/110002826901, (参照 2013-02-05).
(7) “「カレントアウェアネス-E」<文献紹介>執筆者募集”. カレントアウェアネス・ポータル. 2012-12-28.
http://current.ndl.go.jp/cae/contributor, (参照 2013-02-07).
(8) “カレントアウェアネス・ポータル利用者アンケート結果レポート2012”. カレントアウェアネス・ポータル.
http://current.ndl.go.jp/files/enquete/2012report.pdf, (参照 2013-02-05).
(9) “平成24年度国立国会図書館ホームページ利用者アンケート調査単純集計”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/pdf/12enquete_hp.pdf, (参照 2013-02-05).
[受理:2013-02-15]
依田紀久, 林豊, 菊池信彦. カレントアウェアネス・ポータルのいまを“刻む”:情報収集活動と未来へのアイデア. カレントアウェアネス. 2013, (315), CA1788, p. 5-9.
http://current.ndl.go.jp/ca1788