カレントアウェアネス-E
No.505 2025.07.17
E2806
「退館のお知らせは生演奏!」:学生の表現の場としての図書館
東京藝術大学附属図書館・西山朋代(にしやまともよ)、 立澤知寿穂(たつざわちずほ)
東京藝術大学附属図書館上野本館では「退館のお知らせは生演奏!」と題して、閉館前の5分間に学生たちが各自選んだ曲を演奏するイベントを開催している。
演奏場所は上野本館の2つの建物のうち2018年に竣工したB棟である。1階がラーニングコモンズ、2・3階が書架となっており、中心部にある吹き抜けの階段スペースで演奏すると建物全体に音が響く。イベントは2022年2月から開始し、2025年6月現在までに58組、139人の学生が演奏を行った。普段は静かな空間を求められる図書館内での演奏は、他では見られないユニークな取り組みだと自負している。
開催経緯については国立大学図書館協会のウェブサイトに取材記事が掲載されているので、そちらを参照していただきたい。学内外で知られるようになった本イベントではあるが、成立させるために欠かせないのはやはり学生(演奏者)に参加してもらうことである。そこで、本稿ではイベントを知ってもらう・参加してもらうための広報に焦点を当てていきたい。
●企画と開催の実務
イベントは、図書館が17時に閉館する、大学の春季・夏季休業中の平日開館日に実施している。1日1組(1~6人程度)で、演奏時間は16時50分から5分間、曲目は自由である。演奏者は学内で公募しており、応募条件は、本学の学生・教職員および附属高校生であること、演奏終了後10分以内に撤収・退館できること、B棟の音響を考慮した選曲・演奏であること、の3点である。開館時間前の試演も受け付けている。
演奏時間が閉館直前になったのは、学習や研究、作曲をする利用者の妨げにならない時間帯を考慮した結果であり、5分間という演奏時間は気軽に参加してもらうためである。
●広報について
イベントを実施するにあたり、以下の順で発信を行っている。
- 演奏者の募集
募集のお知らせは、実施期間初日の約1か月前から開始している。開催時期は授業がないため、学生が帰省との調整をしたり、一緒に演奏する友人を集めたりする時間を設けられるように気をつけている。
募集方法は館内にポスターを掲示することに加え、公式SNS(X・Instagram・Facebook・Tumblr)にポスター画像付きの投稿をしている。最も拡散しやすいXのみ引用リポスト等を使用して何度かリマインドをするよう心がけている。また、演奏日は先着順としているため、募集枠が埋まったときも都度Xの投稿とFacebookのコメント欄でお知らせをして、日程が重複をしないようにしている。
ありがたいことに、これまで「申込みなし」という状況に陥ったことはない。何度か応募が少なかったときもあったが、その場合は顔見知りの学生に声をかけた。
- 開催告知
演奏者と演奏日が決定したら、初日1週間前には各SNSや館内掲示で開催の広報をする。拡散力の高いXでは、投稿をすると演奏者本人が関係者に宣伝をしてくれることもあるため、演奏者1組に対して1投稿で紹介し、加えて2~3日前にリマインドも兼ねて全出演者を掲載したポスター画像を添付して再度投稿している。
- 当日
午前中のうちに「本日の演奏者」をXとInstagramのストーリーに投稿する。演奏曲の著作権が切れていれば、公開用の動画を撮影してよいか、演奏者に確認の上で動画を撮影する。演奏中の写真、および演奏終了後の記念写真についても、SNSでの公開が問題ないかその場で確認し、その日のうちにXとFacebookに「終演しました」の写真付き投稿(顔は出さない場合もある)をする。
- 動画の公開
動画を撮影した場合は、図書館側で演奏前後の不要部分をカットする程度の編集を行い、演奏者にメールで公開の可否を確認する。公開の許可が出た際は、FacebookとTumblrに掲載し、XにはそのURLを投稿する。動画を公開する場合の著作権については、古典作品であっても編曲者がいればその著作権も確認がいるため注意が必要である。
- まとめ
現在のところSNSでの発信によるトラブルは起こっていないが、こまめな発信と著作権・肖像権の確認は、企画を実施するにあたり、強く意識するべき点だと思う。「退館のお知らせは生演奏!」は、開催告知・募集だけでなく、当日の様子や演奏の公開を行うことで、イベントの周知と次の参加者に繋がるような広報のサイクルを目指している。
●「発表の場」として魅力ある図書館へ
図書館は学びをインプットするだけの場ではなく、アウトプットもできる場でもありたいという担当者の思いがあり、「退館のお知らせは生演奏!」は学生協働の前例がない当館での第一歩となった。学生協働が図書館のトピックとなって久しいが、実際に学生を巻き込むには、図書館職員と学生の双方に時間と積極性が必要である。本イベントは演奏する場を図書館が提供するという形式のため、一般的な「協働」とは少し異なるが、学生と図書館の双方にとってWin-Winの状態であり、「協働」のきっかけとして有効であると考えている。図書館が魅力ある「発表の場」となれば、学生と図書館の距離が縮まり、学生側からの自発的な企画を呼び込む可能性が生まれるかもしれない。そうしてできる双方向の協力関係によって、図書館はより活性化されるのではないだろうか。
Ref: “藝大附属図書館 退館のお知らせは藝大生による生演奏! 東京藝術大学附属図書館特集”. YouTube. 2025-03-07. https://www.youtube.com/watch?v=smexhCbrN1c “東京藝術大学「退館のお知らせは生演奏!」”. 国立大学図書館協会. https://www.janul.jp/ja/projects/ga/interview/geidai “@geidailib”. X. https://x.com/geidailib