カレントアウェアネス-E
No.505 2025.07.17
E2807
COAR Annual Conference 2025:地域組織委員会からの報告
北海道大学附属図書館管理課・前田隼(まえだじゅん)
オープンアクセスリポジトリ推進協会・坂本拓(さかもとたく)
東京大学附属図書館情報サービス課・斉藤涼(さいとうりょう)
東京大学附属図書館柏地区図書課・宮井杏佳(みやいきょうか)
電気通信大学学術国際部学術情報課・上野耕平(うえのこうへい)
名古屋大学附属図書館事務部東山地区図書課・村西明日香(むらにしあすか)
京都大学附属図書館研究支援課・山岸瑶果(やまぎしはるか)
大阪大学附属図書館箕面図書館課・菊谷智史(きくたにさとし)
神戸大学附属図書館情報管理課・有馬良一(ありまりょういち)
九州大学附属図書館事務部eリソース課・金子芙弥(かねこふみ)
国立情報学研究所学術基盤推進部学術コンテンツ課・林豊(はやしゆたか)
●はじめに
2025年5月12日から14日まで東京・学術総合センターにてオープンアクセスリポジトリ連合(Confederation of Open Access Repositories:COAR)の年次大会を開催した。初のアジア圏における開催で、23か国以上から192人が参加した。本稿では、大会運営に携わった地域組織委員会のメンバーから、3日間の全9セッションのうち、オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR)が企画した3セッションの様子や全体の運営等について報告する。なお、全体報告についてはCOARのレポートに譲る。地域組織委員会は、本大会開催に当たりJPCOARの運営委員会が設置したもので、大学図書館からの志願者11人(係員から係長クラスの現役職員)で構成した。
●セッション運営
1つ目のセッションでは、「日本の学術コミュニケーションの現状」と題し、即時OA義務化を主な論点とした日本の学術コミュニケーションの動向について、政策、学術情報流通基盤整備、そして図書館コミュニティといった多角的な側面から議論を行った。特に印象的だったのは、質疑応答で「文化変革」が強調されたことである。優れたインフラや政策を実際に機能させるためには、経営層を含む大学全体の意識改革と人的資源の確保が不可欠であること、また、オープンサイエンスを推進するためには、研究者自身の主体的な行動が重要であることが強調された。このセッションは、後続のCOARによる海外動向紹介のセッションへ円滑に接続することを意図しており、海外からの聴衆を交えた活発な議論を促すことにつながった。
2つ目のセッションは「オープンアクセスの現在地:日本の多様な視点から未来を探る」と題し、地域組織委員が国内のOA意識調査の報告、リサーチ・アドミニストレータ―(URA)や研究者が自身がOAとどう関わっているのかの事例紹介を行い、図書館以外の立場からOAを論じる貴重な機会となった。地域組織委員にとってはOA意識調査結果の分析を行うことで研究者の意識を概観する契機となり、国際会議での登壇という貴重な経験にもつながった。OA意識調査からは、研究者の関心がゴールドOAに集中し、グリーンOAへの理解が十分でない現状が浮き彫りとなった。本セッションは即時OA義務化開始を目前に控え、研究者コミュニティへの働きかけの重要性を再認識してもらうことを目的としていたが、パネルディスカッションにおいても、OA意識調査をなぞるように、研究者からグリーンOAの理解が得られていない状況が明らかとなり、研究者へのアプローチが重要な課題であることが改めて明確になった。COARの理念をオープンサイエンスの主体である研究者にどのように伝えるかは、今後も継続して考えるべき課題である。
3つ目のセッションである「Yes/Noフリップによるオープンディスカッション」では、運営側で用意したOAやオープンサイエンスに関連する設問について、パネリストと会場参加者がYes/Noフリップを用いて考えを表明する会場参加型セッションを行った。ディスカッションは、登壇者が自らが掲げたフリップの理由を述べるかたちで進行した。そのなかで「出版社版の論文をセルフアーカイブできるよう出版社に働きかけるべきだ」という設問に対して、海外の登壇者から「そのためには法的枠組みを整備する必要がある」という発言があるなど、日本と海外(特に欧米)の文化や背景による考え方の違いが可視化される設問もあり、全参加者が主体的に当該テーマについて考え、また多様な視点からの意見を知る機会となった。
他、会期を通じてポスターセッション(英語)を開催し、国内から26件の参加があった。レセプションパーティやコーヒーブレイクの時間には飲み物を片手にポスターを囲んで盛り上がる姿が多く見られ、互いに初対面である日本人と海外からの参加者との交流のきっかけを生み出していた。
●全体運営
広報・参加申し込みについて、COARは海外向け、JPCOARは国内向けと分担し、JPCOARのウェブサイト上に案内ページや参加申込フォームを用意した。随時更新されるCOARの情報と齟齬が無いよう連動させることに苦労した。広報物についてはまずポスターをデザインし、それを基に会場案内や名札等を作成した。また、開催直前には国内向けに見どころを紹介するオンラインイベントを2回実施し、その結果、現地参加者数の増加につながった。
レセプションパーティでは参加者の多様なバックグラウンドを考慮し、ヴィーガン対応やハラール対応について強く意識して食材の選定を行った。また寿司や日本酒、日本の菓子などを用意したが、これらは非常に好評であった。昼食については会場近辺の飲食店情報をGoogleマイマップに登録し、ランチマップとして参加者に提供した。
会議全体を通して通訳・オンライン配信を手配した。全セッションで同時通訳を外注し、会場ではレシーバーを通じて日英音声を、配信では対象を日本人に絞って日本語音声を提供した。高額な費用がかかるため、通訳音声のアーカイブ公開は行わなかった。また、通訳の質を確保するために依頼していた講演資料の提出がセッション直前となったり、当日に講演形式の変更が生じたりといった対応を求められる一面もあった。
●おわりに
学術会議は各セッションでの講演・議論に最も中心的意義があるが、コーヒーブレイクやレセプションといった参加者交流の場も重要なものである。地域組織委員はセッションの運営のみならず、そのような場を通じて日本人と海外勢との交流を促進し、時には自らも参加することで、交流を深めることができた。
全国区で大学図書館職員がチームを組むことで国際会議の運営を行った一例として、参考にしていただければ幸いである。なお、日本側が企画した上記の3セッション以外の内容については、JPCOARのウェブサイトに動画や資料が掲載されているので、ぜひ参照されたい。
Ref:
“COAR Annual Conference 2025”. JPCOAR.
https://jpcoar.repo.nii.ac.jp/coar2025
“Presentations from the COAR Annual Conference 2025”. COAR. 2025-05-26.
https://coar-repositories.org/news-updates/coar-annual-conference-2025/
“Report from the COAR Annual Conference 2025”. COAR. 2025-05-22.
https://coar-repositories.org/news-updates/report-from-the-coar-conference-2025/