カレントアウェアネス-E
No.505 2025.07.17
E2808
2025年ISO/TC 46国際会議<報告>
ISO/TC 46国内委員会・安形輝(あがたてる)
2025年5月19日から23日まで、オランダのデルフトにあるオランダ規格協会(Royal Netherlands Standardization Institute:NEN)を会場として、ISO/TC 46(International Organization for Standardization/Technical Committee 46)の国際会議(E2161ほか参照)が開催された。TC 46は「情報とドキュメンテーション(Information and Documentation)」を担当する専門委員会である。今回の会議ではTC 46総会とその下に置かれた分科委員会(Subcommittee : SC)の各総会及び作業部会(Working Group : WG)がハイブリッド形式で開催された。日本からは筆者と各SC国内委員会の主査が対面あるいはオンラインにて参加した。
●TC 46総会の概要
TC 46総会では、定例的な審議以外に、近年の技術動向を反映し、人工知能(AI)とSMART規格(機械による適用、読取り及び移動転送が可能な規格)が取り上げられた。
議長諮問グループ(Chair’s Advisory Group : CAG)において、TC 46全体の戦略的課題として、生成AIをTC 46全体や各SCの標準化活動にどう活用していくかを検討していることが報告された。また、規格開発のオンライン化(Online Standards Development : OSD)への移行が課題となっていることが説明された。
中国からは2つの新規提案がなされた。学術出版におけるAI生成コンテンツ(AI Generated Contents : AIGC)の利用に関するガイドラインの策定と、研究データを対象とする論文形式であるデータ論文(Data Paper)の標準化である。
TC 46総会の決議において、データ論文については、中国の国内規格を基に、「識別と記述」を担当するSC 9が「一般原則」に、「技術的相互運用性」を担当するSC 4が「相互運用性とメタデータ」に関する規格案を策定するため、2つの新業務項目提案(New Work Item Proposal : NWIP)を提出することとなった。
決議では、数年にわたって検討が続いている、情報とドキュメンテーション分野の用語及び定義に関する規格(ISO 5127)関係についての議題がいくつかあった他に、AI活用に関するアドホックグループが作成した報告書に対する意見募集を行うこと、OSDへの移行を円滑に進めるための支援などが承認された。
●各分科委員会における議論
TC 46総会期間に開催された(日本からの参加がないSC 10を除く)各分科委員会についても概要をまとめておく。
- SC 4(技術的相互運用性)
図書館間相互貸借(ILL)に関する規格(ISO 18626)について、決済機能の欠如といった課題に対応するため、全面的な改訂を開始することが決議された。また、社会科学関係のデータ標準を開発するDDIアライアンスからの提案を受け、複数の規格に共通する仕様を公開仕様書として発行する作業が開始されることになった。さらに、国際標準図書館識別子(ISIL ; ISO 15511)の国際登録機関を務めるデンマークが2026年1月をもってその役目を終了することから、後継となる機関の公募が決定した。
- SC 8(品質・統計・実績評価)
学校図書館の国際統計に関する作業項目(ISO/TR 25279)について、当初の技術報告書(TR)から国際規格(IS)として策定する方針に変更することが提案され、承認された。また、博物館の重要指標に関する規格(ISO 21246)の定期見直しを行い、改訂作業を開始することが決議された。
- SC 9(識別と記述)
ドイツ規格協会(DIN)から、各種メディアの配布チャンネルを識別するGMId(Global Media Identifier)と、規格文書自体の分類に関するICS(International Classification for Standards)の2件を、新業務項目提案とすることになった。また、シソーラスとその相互運用性に関する規格(ISO 25964)について、現在改訂作業中のパート1に続き、パート2の改訂に向けた予備業務項目(Preliminary Work Item : PWI)の準備を開始することが指示された。
- SC 11(アーカイブズ/記録管理)
AIと記録管理の関わる領域の活動が活発化しており、「AI対応環境における記録管理」と「記録管理へのAI機能の適用」の2部で構成される技術仕様書(TS)の策定が進行中である。また、ブロックチェーン及び分散型台帳技術(Distributed Ledger Technology : DLT)を記録管理に活用するための要件に関する予備業務項目を用意することが決議された。
●まとめ
今回の会議では、TC 46の活動全般においてAIに関わる提案やAI活用に関する議論が多くあった。また、中国が複数の規格を提案し、存在感を高めている印象を受けた。
次回のISO/TC 46国際会議は2026年5月に開催される予定だが、開催地は未定である。
Ref:
ISO/TC 46 – Information and documentation.
https://www.iso.org/committee/48750.html
DDI Alliance.
https://ddialliance.org/
柳澤健太郎,奥田倫子. 2019年ISO/TC46国際会議<報告>. カレントアウェアネス-E. 2019, (373), E2161.
https://current.ndl.go.jp/e2161
奥田倫子. 2018年ISO/TC46国際会議<報告>. カレントアウェアネス-E. 2018, (351), E2047.
https://current.ndl.go.jp/e2047
国際標準テキストコード(ISTC)を利用するメリットとは. カレントアウェアネス-E. 2010, (170), E1044.
https://current.ndl.go.jp/e1044