カレントアウェアネス-E
No.218 2012.07.12
E1308
情報発信活動インタビュー(1)「情報管理Web」STI Updates
インターネット上には図書館業界の情報を積極的に収集し,継続的に発信しているひとたちがいる。彼らはどのような問題意識を持ち,どういった体制・手法で,何を感じながら日々の活動を行っているのか。インタビューを通してその裏側を探ってみたい。第一弾の今回は,科学技術振興機構(JST)情報提供部の広報普及担当主任調査員である岩村文夫さんに「『情報管理Web』STI Updates」についてお話を伺った。
●活動の概要について教えてください。
ご存じのように,JSTは国の政策の下,研究開発に係る情報を総合的に活用するための基盤を整備し提供しています(詳細は事業の紹介「科学技術情報の流通促進」をご覧ください)。JSTでは,情報事業推進や事業計画立案などに資すると思われる国内外の情報を各自が不定期にイントラネットで紹介し,情報共有を図っていました。これらの情報を内部だけに留めず,2007年11月下旬,日刊でニュース記事の外部発信を開始したのがSTI Updatesです。STIは科学技術情報という意味です。STI Updatesは,2006年4月に無料公開した「情報管理Web」(月刊『情報管理』誌を掲載するサイト)の拡充コンテンツとしての位置付けで,日々の動きは前者,ニューステーマの背景などの深掘りは後者でという相互補完の形で情報を提供しています。
●情報収集・発信の方法について教えてください
STI Updates開始当初は国・地域別に5,6名で担当していましたが,現在は実質私1人が専任で担当しています。
情報収集はインターネットに100%依存しています。毎朝20余りの特定ウェブサイトにRSSリーダー等でアクセスし,重要性・継続性・信頼性などの観点から記事ネタを7~15件ほどピックアップします。網羅性と更新頻度の高いDigitalKoans,ResourceShelf,Connotea,Information Today,INFOdocketといった英文ニュースサイトなどをチェックしています。その後,半分程度に絞り込み,午後に記事執筆し,「情報管理」誌編集事務局長のチェックを経て夕刻に一括掲載します。それ以外にも,諸外国の国家機関のサイトなど,更新頻度が比較的低い約130の特定サイトにほぼ隔週でアクセスし,記事ネタを探します。
ニュース記事化の対象は,デジタル時代における「情報」の収集,加工,整備,流通,利用,保存などに関する国内外の「動向」です。「情報」は,研究(助成)機関,大学,図書館,出版社,学協会などが取り扱う資源のことで,学術情報が中心です。また,「動向」は,政策あり,知財などの法律,規格,技術,統計,計画,活動あり……です。最近は,公的助成研究成果のオープンアクセス(OA)化に特別な関心を払っています。各国の政府,研究(助成)機関,大学(図書館),出版社,学協会などが次から次へと方針を打ち出す,研究者もOA化に向けた提言を行う。もはやOAは時代の潮流ですね。特に興味深いのは米英です。米国では,議会に法案が提出されるたびに多くの関係団体が支持・不支持派に二分され,それぞれ権益を守ろうと意見表明しています。英国では,OA化と出版社のビジネスモデル担保の両立を図る方策を検討せよとの大学・科学担当大臣の指示を受けたチームが先日,検討報告書を公表しました。国の如何を問わず,全ての関係者が納得できるような解は果たして…。日本でのOA論議活性化への参考になればと思い、今後も海外動向を継続的に紹介するつもりです。
●活動を通して得られたものや課題などについて教えてください。
まず工夫していることから挙げますと,次のとおりです。(1)記事で全容は伝えられなくても大筋は分かるような紹介を心掛けています。(2)記事タイトルは,正攻法のものばかりではなく,多少俗っぽくして読者の関心を引くようにすることもあります。(3)論文盗用などの研究不正は,採り上げ慎重論もありましたが,メディア報道もあり,学術コミュニケーションのデジタル化による功罪の例として紹介しています。(4)午前中に必ずアクセスするカレントアウェアネス・ポータルに採り上げられているものは,なるべく重複を避けるようにしています。
次に苦労・懸念している点。(1)記事ネタ収集は全面的にネットに依存していますが,和文,英文サイト以外は全くお手上げというのが実情です。このため,採り上げるニュースに偏りがあります。(2)以前採り上げたのに今回は……というものも多くあります。一貫性を欠いていることは重々承知していますが,目新しい動向ではないものはその都度採り上げなくてもよいのではという弁解もあります。(3)何度か採り上げた後,フォローアップできていないものも。(4)記述内容に精粗があります。(5)記事化したい候補が多いときは,時間と労力の都合でやむなく割愛しています。後日余裕があれば紹介しますが,日の目を見ないことが多いです。
最後に嬉しいこと。(1)STI Updatesの公開開始後,「情報管理Web」への訪問数が急増しました。それなりのvisibilityがあることが分かり,大変嬉しく思いました。(2)また,前述のように改善すべき点も多いのですが,好意的に見てくださっている読者が少なからずいらっしゃることも励みになっています。TwitterやTweetBuzzなどで読者の反応を時々キャッチしています。(3)どの記事だったかは思い出せませんが,国内の研究機関の読者から,海外ニュースをかいつまんで紹介するやり方にお褒めのメールを頂いたことがあります。大変嬉しく,また,身の引き締まる思いをしました。
●情報の発信者に期待すること,伝えたいことはありますか?
オンライン情報は,見つけ易く,コンテンツは簡明で,写真・図表・動画などで視覚に訴え,よくorganizeされたものを期待します。特に日本国内の場合は,(アライド・ブレインズ社などが実施している)ウェブサイトクオリティ(アクセシビリティ)調査で高評価を獲得できるようなサイトを構築し,提供していただければと思います。
●ご自身の読者に期待すること,伝えたいことはありますか?
科学技術情報の流通という視点で研究界,学界,出版界などの動きの一端をご覧いただければと思います。今後ともご愛読くださいますようお願いいたします。
(協力・科学技術振興機構・岩村文夫さん)
Ref:
http://johokanri.jp/stiupdates/
http://www.jst.go.jp/shoukai.html