CA2011 - 動向レビュー:電子書籍を中心とした公貸権制度の2005年以降の国際動向 / 稲垣行子

PDFファイル

カレントアウェアネス
No.350 2021年12月20日

 

CA2011

動向レビュー

 

電子書籍を中心とした公貸権制度の2005年以降の国際動向

中央大学日本比較法研究所:稲垣行子(いながきゆきこ)

 

1.はじめに

 公貸権とは、公共貸与権(Public Lending Right)とも呼ばれ、著作者が公共図書館や学校図書館の図書資料の無料貸出について報酬を請求する権利をいう。この権利は「著作者の著作物が、図書館の図書の貸出により引き起こされた収入源の損失に対して、報酬を著作者に与える権利を認める(1)」ものである。英語には有償のRental Rightと無償のLending Rightの用語があり、有償と無償の貸与を区別している。したがって公貸権は、著作権法上の貸与権と関係のある権利のように思われるが、著作者の報酬請求権であり、経済的な権利である。

 公貸権の起源は1946年導入のデンマークに始まり、北欧諸国ではデンマークを含め合計5か国が導入した。その理由は、「北欧諸国に共通する要因、すなわち、読書人口が少ないこと、使用言語が少数言語であること、翻訳機会が限定されることから輸出の機会が少ないこと、それに、図書館活動が盛んであること」などが挙げられる(2)

 その後欧州連合(EU)理事会は1992年11月19日に、「貸与権及び貸出権並びに知的所有権分野における著作権に関係する権利に関する1992年11月19日のEU理事会指令」(3)(以下「EU指令」)を採択した。このEU指令により、EU加盟国は1994年7月1日までに有償の貸与権及び無償の貸出権等の創設が求められ、国内法に規定するための必要な措置を取り、実施することが義務付けられた(第15条)(CA1579参照)。しかし、EU指令が発令された当時、図書館の無償の貸出への報酬請求権である公貸権を実施している加盟国が存在していた。公貸権を実施している加盟国には特別な問題として貸出権の制限を認めた(第5条)。

 EU指令では、貸与権と貸出権を次のように定義している。有償の貸与とは、限られた期間、直接的または間接的な経済的または商業的優位性のために使用できるようにすることを意味し(第1条(2))、無償の貸出とは一般にアクセス可能な施設を通じて行われる場合、直接的または間接的な経済的または商業的優位性のためではなく、限られた期間使用できるようにすることを意味する(第1条(3))。

 公貸権制度の要件は、①根拠法、②報酬の算定基準(貸出回数または所蔵冊数により算出)、③権利の対象者、④公貸権の性格(市民権の有無・言語要件など)、⑤対象施設、⑥対象資料(書籍に加え、国によりオーディオブックなどのオーディオ関係資料を含む場合あり)の6つである。制度導入をしている諸国は、各々の要件を組み合わせて実施している(4)

 公貸権に関する最近の話題として、公貸権制度を導入している諸国において電子書籍を公貸権の対象資料に加える動きがある。国際図書館協会(IFLA)は、「公貸権に関するIFLAの立場(2005)(5)」(以下「IFLAの立場(2005)」)と、電子書籍の章を追加した「公貸権に関するIFLAの立場(2016)(6)」(以下「IFLAの立場(2016)」を発表した。

 2019年12月31日には、台湾の教育部及び文化部が国立公共資訊図書館及び国立台湾図書館において、2020年1月1日から2022年12月31日までの期間に、公貸権を試行導入すると発表した(E2266参照)。台湾の場合は電子書籍を対象資料に加えていないものの、このようにアジアでも公貸権導入の動きがある。

 本稿では、「IFLAの立場(2005)」が公表された後の公貸権制に関する国際的な動向について、述べていく。

 

2. IFLAの立場(The IFLA Position on Public Lending Right)

2.1 「IFLAの立場(2005)」

 2004年8月、第70回国際図書館連盟(IFLA)大会においてIFLAの評議会が開催された。その席上で公貸権に関する決議案が提出されたが採択には至らず、審議については引き続き著作権等法的問題委員会(CLM)に委ねられた(E252参照)。2005年4月にはCLMにより「IFLAの立場(2005)」が発表された(E318参照)。主な内容は次の2つである。

①誰もが自由に無料で利用できる公衆に開かれた図書館サービスを危うくするような貸出権の原則には賛成しない。
②公貸権は、文化への報償制度であり、また著作者の経済的・社会的な支援制度である。その財源を図書館予算から拠出することや、図書館利用者の負担とすることはしてはならない。

 2016年に更新された「IFLAの立場(2016)」は、「IFLAの立場(2005)」を踏襲し、電子書籍を公貸権の定義のあとに追加している(7)

 

2.2 電子書籍に対するIFLA の立場

 「IFLAの立場(2016)」において、IFLAは、電子貸出(digital loan)の補償(compensation)に、印刷書籍や有形オーディオブックの補償モデルをそのまま当てはめるべきではない理由や、電子形式ならではの3つの課題について言及している。

①電子書籍の貸出は、限られた期間と限られた貸出数により図書館に許可されている。許可が更新されると、使用料が著作者に支払われる。これは、一度購入したらその後は使用料が発生しない買い切り型の印刷書籍や有形オーディオブックには当てはまらない。

②EUでは現在、EU指令の後継版である「貸与権及び貸出権並びに知的所有分野における著作権に関連する特定の権利に関する2006年12月12日の欧州議会及び理事会指令」(8)(以下「EU指令(2006)」)により公貸権が管理されているが、国により解釈の違いが生じ問題が起こっている。
 EU指令(2006)によれば、加盟国で公貸権が導入されている場合、公共図書館における書籍の貸出は著作権者が有する貸出権の権利制限対象となる。ただし、電子書籍の扱いについて記載がなかったため、オランダ国内ではその解釈をめぐり公共図書館協会(Vereniging Openbare Bibliotheken:VOB)と複写権徴収団体(Stichting Leenrecht)とで意見の相違が発生した。VOBは、ハーグ地裁に提訴した。ハーグ地裁は(現行法の下での)電子書籍に対するEU指令の適用について、2014年に欧州司法裁判所(ECJ)に裁定を求めた(9)(10)

③複製や権利の所有に加えて電子書籍の貸出を計算する総合管理は、データの一部が第三者の電子書籍供給者によって保持される可能性があるため、印刷書籍よりももっと複雑になる。
公貸権のプログラムは、図書館データベースの機械的検索を行い、著作権所有者の年間発行部数に加えて、タイトルや資料の所蔵冊数、年間貸出数を計算できるかどうかにかかっている。(これら3つの措置は、異なる国で公貸権報酬を計算するために使用される。)
 電子書籍の場合、このデータの一部は図書館データベースではアクセスできないが、電子書籍供給者のデータベースには保持される。特定の図書館データにアクセスするために、第三者である商業供給者との取引が必要になり、公貸権を実行する際に、財政的な面の負担を増加させることになる。

 オランダの公共図書館の電子書籍への貸与権の適用(つまり公貸権への適用)をめぐる訴訟は、「IFLAの立場(2016)」が作成された時点では、結論が出ていなかった。ECJは2016年11月10日に「EU指令は技術の発展を考慮しながら解釈されるべきであり、アナログの書籍のみの解釈に限定されるものではない(C-174/15)」と判示した(11)。つまり紙の書籍のように、1作品の同時閲覧者数を1人に制限できるのであれば、EU指令(2006)が適用されるのである。

 しかし、欧州における図書館専門職は、この画期的な判決結果の利益を最大限に利用していなかった(CA1979参照)ようである。

 英国も、「IFLAの立場(2016)」が公表された時点では、次のようであった。電子書籍とオーディオブックの貸出については、2010年のデジタル経済法により著作権法(Copyright Designs and Patens Act 1988 (c.48))が2014年に改正され、第40条のA(12)と第40条のB(13)が追加された。第40条のAにより公貸権の対象に電子書籍の貸出が導入された(40A(1)(b))。

 また第40条のB(1)により、特定されている図書館(同条(2))などの施設内の専用端末装置を用いて公衆に著作物(著作物および複製物の条件は同条(3)にて規定されている)を伝達することとなっているため、リモート貸出は対象外となる。

 2014年の改正により、図書館などの施設内の専用端末を利用して電子書籍の貸出が公貸権スキームに含まれたが、施設内で電子書籍の貸出を行える図書館がなかったため、実際には機能しなかった(14)

 また電子書籍については、上記のように図書館の施設内でのダウンロードであり、遠隔地でのダウンロードは制度の対象外であると考えられていた。そして公貸権に基づく支払いは、図書館の施設外への貸出に係るものであるため、この時点では電子書籍についての支払いは発生しないと考えられていたようである(15)。英国のその後については3にて扱う。

 

3.電子書籍を対象資料に

 近年、英国、カナダ、デンマーク、ニュージーランドが、電子書籍を公貸権の対象に導入あるいは導入を検討しており、今後同様の国が増えていくと思われる。本章では、上記各国における導入の経緯を紹介する。

 

3.1 英国の場合

 英国では1979年に公貸権が導入されたが、2008年のリーマンショックより赤字財政になり、公貸権制度の予算がカットされることになった(CA1754参照)。そして公貸権制度を管理する公貸権事務局(PLR Office)は閉鎖された。1979年公貸権法と1982年公貸権実施要項は、2013年公的機関命令{The Public Bodies (Abolition of the Registrar of Public Lending Right)Order 2013 No.2352}(16)により改正され、公貸権制度の実行及び責任者である公貸権登録官を廃止し、第3条により2013年10月英国図書館(BL)に制度の管理が移管された(17)

 ブラウン労働党政権は、デジタル経済の重要性から国家戦略を試み、2010年にデジタル経済法(Digital Economy Act 2010(c.24))を法制化した。第43条に公貸権の対象拡大(電子書籍の導入)として新規定が盛り込まれたが、補償金を受け取れるなどの実施はされていない。

 この法律はDigital Economy Act 2017(c.30)(18)として2017年に改正され、2018年6月30日に施行された。著作者は電子書籍とオーディオブックの貸出に対して補償金を受け取れることになった(19)。さらに、この貸出にはリモート貸出も含まれることとなった(20)。2018年から導入された電子書籍の補償金の支払いは、2020年に行われた(21)

 また、2018年6月30日の著作権法改正により追加された第40条のA(1ZA)は、英国に次のような問題を生じさせている。著作権権利者団体は早くから、電子書籍貸出について、無料・無制限の貸出を認めない方針であり、図書館側も電子書籍貸出の制限(40A(1ZA))に合意した。出版社がライセンス契約を図書館に与えると決めた電子書籍のみを貸出する法律に制限されている状態になった(CA1979参照)のである。

 

3.2 カナダの場合

 カナダの公貸権制度は、1986年より根拠法を持たずにプログラム(22)として運営している。プログラムでは、電子書籍の登録が2016年から開始され、オーディオブックの登録も2019年から始まっている(23)

 

3.3 デンマークの場合

 デンマークでは、本のための図書館の資金は、金融法を通じて提供され、その資金は図書館費法(Lov om biblioteksafgift)の規則に従って分配される(24)

 2017年に図書館費法を改正(LOV nr 676 af 08/06/2017)し、電子書籍・物理的なオーディオブック、インターネットオーディオブックを公貸権の対象とした(Ⅰ§1を改正)。施行は2018年1月1日である。電子書籍やインターネットオーディオブックへの図書館資金の助成金は2018年より段階的に計上される。2018年は助成金の4%(Ⅰ§1 にStk.2を追加)、2019年と2020年は助成金の6%(Ⅰ§1 にStk.3を追加)、2021年は助成金の8%(Ⅰ§1 にStk.4を追加)が計上される。この改正の時に、図書館資金の管理が、デンマーク図書館庁から、宮殿文化庁に変更になった(Ⅰ§2, stk.1, nr.4 og 5)(25)

 

3.4 ニュージーランドの場合

 1973年ニュージーランド著者基金として公貸権を導入したニュージーランドは、2008年に著者基金に代わるものとして、ニュージーランド著者法(New Zealand Authors Act 2008(26))に基づき、公貸権制度が設立された。

 2019年には内務省の規制審査で公貸権制度の改善の必要性を確認し、2020年3月より、公貸権制度の見直しを行っている。見直しの項目は、「公貸権制度の政策意図」・「資金調達」・「規制」・「範囲」・「運用手順」の5つである。

 そのうち、対象資料の範囲について「印刷された書籍」のみから、「電子書籍」や「オーディオブック」などの電子メディアを検討することが予定されている(27)

 

4.報酬の支払いについて

 次に、公貸権全体の報酬の支払いについて、主な諸国の例を紹介していく。

 

4.1 フランス

 フランスは、公貸権制度を導入するために著作権法の中に「図書館における貸与に基づく報酬及び著作者の社会的保護の強化に関する2003年6月18日の法律第2003-517号」(28)を制定した(29)。この法律で、知的所有権法典、社会保障法典及び書籍の価格に関する1981年8月10日の法律などの改正が行われた(30)。著作者等に図書館の貸出に対して報酬を支払う制度が導入されたことで、長年、図書館での貸出について著作権者等が報酬を得る権利(知的所有権法典L.131-1条からL131-4条)が有名無実になっていたという有料化の問題(CA1492参照)が解決されることになった。報酬金は、利用登録者数に応じて国が支出する第1の部分(著作者と出版者の間で当分に分配。L.133-4条1項)と、図書館設置主体が、書籍購入の際に支払う第2の部分(公の販売価格の6%。L.133-3条3項)の2段階になっている。これら2つの報酬の管理は、著作権管理団体SOFIA(31)が行っている。

 近年の報酬の分配について表1に記載する。

 

表1 2019年・2020年の報酬の分配(単位は万€)(32)

年次 合計金額 著作者及び出版者に再配分された金額 補助年金(RAAP)*
2019 1,490 1,100 390
2020 1,500 1,140 360

*文筆活動及び翻訳を生業とするものに補充退職年金として支払われる保険料に充てるもの。

 

 

4.2 英国

 公貸権制度の下で著作者等(出版者は含まれない)は、公共図書館の本の貸出による報酬として、政府の資金から支払いを受け取る。算定基準は、サンプル館からの貸出データを1年間(7月1日から6月30日)収集し、貸出合計に比例して乗算される。貸出レートはBLからデジタル・文化・メディア・スポーツ省(Department for Digital, Culture, Media and Sport:DCMS)に提案され、利害関係者(図書館部門及び権利保有者)と協議の上、法的措置を取り決定する(33)

 公貸権単独のAnnual Reportは、2014/2015年度分までが発行されている(34)。その後公貸権のレポートは、BLのAnnual Reportに組み込まれている(35)。公貸権独自の報酬の分配については、BLのホームページのPLRのサイト内で各報酬金額とその該当人数及び分配の合計人数が公表されている(36)(表2)。総額については、BLのAnnual Reportに紹介されている。2019/2020年の支払いは、2021年2月に公表された。

 

表2 2019/2020年の報酬の分配

£5,000-6,600 281人
£2,500-4,999.99 366人
£1,000-2,499.99 834人
£500-999.99 834人
£100-499.99 3,157人
£1-99.99 15,605人
総額:600.9万ポンド 総人数:21,077人
貸出レート:9.55ペンス

 

 

4.3 カナダ

 著作者等(出版者は含まれない)への報酬は、年次の公貸権調査で確認される公共図書館カタログのタイトルの所蔵に基づいて支払われる。報酬の計算は、公貸権委員会、カナダ芸術評議会の諮問機関によって決定される(37)。また、カナダは2017年から電子書籍の貸出に係る支払いを開始している(38)

 報酬の計算の手順として、①タイトルの資格の確認、②サンプリングされた図書館システムの中に1冊以上本があることを確認、③すべての地域からサンプリングの図書館システムを選択、④支払いの計算、を毎年行っている。④については、(ⅰ)図書館のサンプルの結果、(ⅱ)タイトルの作成者の割合、(ⅲ)タイトルがプログラムに登録されている期間、(ⅳ)プログラムの予算内の金額と対象となるタイトルの合計数を参考にする。

 毎年2月中旬に小切手が郵送される。最低支払額は50カナダドル、最大支払い額は予算と登録タイトル数により毎年異なるが、2020/2021年は4,500カナダドルである(39)。合計予算額は1,479万9,693カナダドル、登録者数2万21人、平均支払い額826カナダドルであった(40)

 

4.4 デンマーク

 デンマークは、2018年から電子書籍及びオンラインオーディオブックの貸出に係る支払いを開始している(41)

 著作者等(出版者は含まれない)への2020年の公貸権の報酬は、2021年4月9日に支払われ、1億8,290万デンマーククローナであった。電子書籍やインターネットオーディオブックは、そのうち8%を予定している。受取人は1万313人であった(42)

 分配は、4つの基準に基づくポイント制(①絵本、翻訳等文献の種類、②タイトルごとのページ数、③所蔵数、④配布キー)に従って決定される。内容について、①は、各タイトルにはポイント値が付加される。③は、図書館の本の所蔵冊数に基づいて計算される。登録者の書籍のみが、計算に含まれる。④は、主及び副共同作成者の本への貢献に従い配布されるという内容である(43)

 

5.日本国内の状況

5.1 図書館の貸出への補償金の検討

 日本の公貸権制度の導入については、2003年1月の文化庁の文化審議会著作権分科会で、「図書館資料の貸出について補償金を課すこと」という公貸権についての報告があった(44)。だが、報告があった2003年は、書籍・雑誌に貸与権が付与されていない時期であり、公貸権より貸与権を付与することが先決と考えられた。2004年には著作権法附則4条の2が廃止され、書籍・雑誌に貸与権が付与された(平成16年6月9日法律第92号)。公立図書館の書籍の貸出について補償金を課すという制度は、その後検討されていない(CA1579参照)。

 

5.2 著作権法の一部を改正する法律の成立

 公立図書館での書籍の貸出について補償金を課すという制度の導入については凍結したままであるが、一方で、著作権の枠内でデジタル資料の公衆送信について、権利者への経済的補償を行う動きが見られる。

 第204回通常国会において、著作権法の一部を改正する法律が2021年5月26日に成立した。6月2日に「令和3年6月2日法律第52号(45)」として公布された。この法律により図書館の権利制限規定の見直しが行われた。図書館の権利制限規定の見直しは2つある。1つ目の「国立国会図書館(NDL)による絶版等資料のインターネット送信」(E2412参照)についてはここでは割愛し、経済的補償を伴う2つ目(②とする)の「各図書館等による図書館資料のメール送信等」について本章で説明をする。

②「各図書館等による図書館資料のメール送信等」について(46)
(改正前)各図書館等は、利用者の調査研究の用に供するため、図書館資料を用いて著作物の一部分(半分まで)を複製・提供(郵送を含む)は可能だったが、メールでの送信は不可であった。
(改正後)権利者保護のための厳格な要件の下で、NDLや公共図書館、大学図書館等が利用者の調査研究の用に供するため、図書館資料を用いて著作物の一部分(政令で定める場合は全部)をメールなどでの送信を可能とするものである。公衆送信をする場合は、図書館等の設置者が権利者に補償金を支払うことを求める。
 補償金はコピー代や郵送代と同様に、利用者が図書館等に支払う(受益者負担)ことを想定している。補償金の徴収・分配は、文化庁の指定する「指定管理団体」が一括して行い、補償金額は、文化庁長官の認可制とすることが想定されている(47)
 公衆送信時の補償金の料金体系・金額については基本的な考え方は示されているが、まだ検討が必要な段階である。しかし、利用者に直接資料等がメールなどで送信でき、何人も等しく情報に触れられるようになることは、好ましいと思われる。

 

6. まとめ

 本稿では、図書館における電子書籍導入と報酬の支払いを中心とした2005年以降の日本を含む各国の動向について述べてきた。図書館が電子書籍や電子情報を扱うことは、今後増えていくと思われる。しかし、買い切り型の印刷書籍とは異なり、メンテナンス契約型の電子書籍・電子情報を扱うことは、図書館運営に影響を与えるものである。今後どのように諸国が対応していくのか、興味が持たれるところである。

 また、図書館の貸出による経済的損失の有無について、経済学の観点から「公共図書館によるクラウディングアウト効果と公的貸与権(48)」という論文が発表されている。これは公共図書館による書籍の貸出がその本の売り上げを減少させているという著作者や出版者からの主張を検証したものである。この論文は、数式を用いた経済学的アプローチをしているが、同年に同様の2つの論文(49)が公表されている。しかし、この論文の結論は、公共図書館による書籍の貸出による売り上げ減少は存在し、その効果は一部の人気のある書籍に強く偏っているとしていて、他の2つの論文とは反対の結論となっている。

 図書館の貸出対象資料は、印刷媒体からデジタル資料へと拡大している途上である。デジタル資料の貸出は、印刷媒体の資料より著作者の著作物の販売実績に影響を与えると考えられるため、公共図書館のデジタル資料の貸出について、著作者への報酬は必要になっていくであろうと思われる。

 

(1) Mayer, Daniel Y. Literary Copyright and Public Lending Right. Case Western Reserve Journal of International Law. 1986, Vol. 18, p. 483-500.
https://scholarlycommons.law.case.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1742&context=jil, (accessed 2021-12-08).

(2) 公貸権委員会. “Ⅱノルウェーの公貸権制度”, 公貸権制度に関する調査・研究. 著作権情報センター附属著作権研究所. 2005, 108, 14p., (著作権研究所研究叢書, No.13).

(3)“Council Directive 92/100/EEC of 19 November 1992 on rental right and lending right and on certain rights related to copyright in the field of intellectual property”. EUR-Lex.
http://data.europa.eu/eli/dir/1992/100/oj, (accessed 2021-12-08).

(4) 稲垣行子. 公貸権制度について. 文化審議会著作権分科会国際小委員会(第2回)資料4.文化審議会著作権分科会国際小委員会. 2021.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/kokusai/r02_02/pdf/92788101_04.pdf, (参照 2021-12-08).

(5) Committee on Copyright and other Legal Matters (CLM). The IFLA Position on Public Lending Right. IFLA, 2005.
https://www.ifla.org/wp-content/uploads/2019/05/assets/clm/position_papers/ifla-position-on-public-lending-right-2005-en.pdf, (accessed 2021-12-08).

(6)“The IFLA Position on Public Lending Right (2016)”. IFLA.
https://www.ifla.org/publications/the-ifla-position-on-public-lending-right-2016/, (accessed 2021-12-08).

(7)“IFLA Statement on Public Lending Right Updated to Include eBooks”. IFLA. 2016-02-01.
https://www.ifla.org/news/ifla-statement-on-public-lending-right-updated-to-include-ebooks/, (accessed 2021-12-08).

(8)“Directive 2006/115/EC of the European Parliament and of the Council of 12 December 2006 on rental right and lending right and on certain rights related to copyright in the field of intellectual property (codified version)”. EUR-Lex. 2006-12-27.
https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2006/115/oj, (accessed 2021-12-08).

(9) Rosenblatt, Bill. “Inconclusive ruling on library ebook lending in Europe”. TELEREAD.
https://teleread.org/2016/11/14/bill-rosenblatt-inconclusive-ruling-on-library-e-book-lending-in-europe/, (accessed 2021-12-08).

(10)日本語の記事は以下がある。
“EU司法裁判所で、オランダの公共図書館協会と複写権徴取団体がバトル開始、電子書籍貸し出しを巡り”. HON.jp News Blog. 2016-06-17.
https://hon.jp/news/1.0/0/8780, (参照 2021-12-08).
Baker, Jennifer. “E-books fair game for public libraries, says advisor to top Europe court”. 2016-06-16.
https://arstechnia.com/tech-policy/2016/06/e-books-lending-public-libraries-advocate-general-cjeu/, (accessed 2021-12-08).

(11)“Judgment of 10 Nov 2016, C-174/15 (Vereniging Openbare Bibliotheken), ECLI:EU:C:2016:856.”. IPcuria.eu. 2016-11-10.
https://ipcuria.eu/case?reference=C-174/15, (accessed 2021-12-08).
公共図書館の電子書籍貸出について判断(ECJ). コピライト. 2017, No. 669, Vol. 56, p. 52-53.

(12)“Copyright, Designs and Patents Act 1988. Section 40A”. legislationgov.uk
https://www.legislation.gov.uk/ukpga/1988/48/section/40A, (accessed 2021-12-08).

(13)“Copyright, Designs and Patents Act 1988. Section 40B”. legislation.gov.uk.
https://www.legislation.gov.uk/ukpga/1988/48/section/40B, (accessed 2021-12-08).

(14)Matulionyte, R. E-lending and a public lending right: is it really a time for an update?. European Intellectual Property Review. 2016, 38(3), p. 132-139.
https://teise.org/wp-content/uploads/2017/06/Matulionyte-Elending-and-PLR-in-Europe_EIPR-R.M..pdf, (accessed 2021-12-08).

(15)UK Public Lending Right office. UK PLR extended to Ebooks and Audio-books.
https://webarchive.nationalarchives.gov.uk/ukgwa/20140731175926mp_/http://www.plr.uk.com/allaboutplr/news/UpdateAudioEbooks.pdf, (accessed 2021-12-08).

(16)“The Public Bodies (Abolition of the Registrar of Public Lending Right) Order 2013”. legislation.gov.uk. 2013-09-06.
https://www.legislation.gov.uk/uksi/2013/2352/made, (accessed 2021-12-08).

(17)Ibid. “3. Transfer of functions”.
PLR Annual Report 2014-2015. British Library, p. 3.
https://www.bl.uk/britishlibrary/~/media/bl/global/services/plr/pdfs/publications/2014-15annualreport.pdf, (accessed 2021-12-08).

(18)“Digital Economy Act 2017”. legislation.gov.uk.
https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2017/30/contents/enacted, (accessed 2021-12-08).

(19)稲垣行子. 英国の書籍の貸与・貸出の構造. 比較法雑誌. 2019, 53(1), p. 126-129.

(20)“Government response to the rate per loan consultation for the scheme year 2019/2020”. GOV.UK. 2020-12-01.
https://www.gov.uk/government/consultations/public-lending-right-rate-per-loan-2019-to-2020-consultation/government-response-to-the-rate-per-loan-consultation-for-the-scheme-year-2019-2020, (accessed 2021-12-08).

(21)Ibid.

(22)“Program Overview”. Public Lending Right Program.
https://publiclendingright.ca/about/overview, (accessed 2021-12-08).

(23)“History”. Public Lending Right Program.
https://publiclendingright.ca/about/history, (accessed 2021-12-08).

(24)“Fakta om bibliotekspenge for bøger”. Slots-og Kulturstyrelskn. 2021-08-26.
https://slks.dk/tilskud/soeg-puljer/bibliotekspenge/fakta-og-tal/, (accessed 2021-12-08).

(25)“Lov om ændring af lov om biblioteksafgift”. Kulturministeriet.
https://www.retsinformation.dk/eli/lta/2017/676, (accessed 2021-12-08).

(26)“Public Lending Right for New Zealand Authors Act 2008”. New Zealand Legislation.
https://www.legislation.govt.nz/act/public/2008/0104/latest/whole.html, (accessed 2021-12-08).

(27)“Review of the Public Lending Right for New Zealand Authors”. National Library of New Zealand. 2020-07-31.
https://natlib.govt.nz/publishers-and-authors/public-lending-right-for-new-zealand-authors/review-of-the-public-lending-right-for-new-zealand-authors, (accessed 2021-12-08).

(28)“LOI n° 2003-517 du 18 juin 2003 relative à la rémunération au titre du prêt en bibliothèque et renforçant la protection sociale des auteurs (1)”. Légifrance.
https://www.legifrance.gouv.fr/jorf/id/JORFTEXT000000411828/, (accessed 2021-12-08).

(29)南亮一. 2003年フランス公共貸与権法. 外国の立法. 2004, 222, p. 123.

(30)南. 前掲. p. 123.

(31)Sofia.
http://www.la-sofia.org/,(accessed 2021-12-08).

(32)“Droit de prêt”. Sofia.
http://www.la-sofia.org/droit-geres/droit-de-pret/, (accessed 2021-12-08).

(33)Lane, Charlotte. “Public Lending Right explained”. Blog DCMS Libraries. 2020-03-12.
https://dcmslibraries.blog.gov.uk/2020/03/12/public-lending-right-explained/, (accessed 2021-12-08).

(34)“Publications”. British Library.
https://www.bl.uk/plr/publications, (accessed 2021-12-08).

(35)“Annual Reports”. British Library.
https://www.bl.uk/about-us/governance/annual-reports, (accessed 2021-12-08).

(36)“PLR payments”. British Library.
https://www.bl.uk/plr/plr-payments, (accessed 2021-12-08).

(37)“Program Overview”. Public Lending Right Program.
https://publiclendingright.ca/about/overview, (accessed 2021-12-08).

(38)デンマーク文化宮殿庁のウェブサイトに、カナダが電子書籍のために報奨金を支払った最初の国である旨の記述がある。
“Bibliotekspenge i tal”. Slots-og Kulturstyrelsen.
https://slks.dk/tilskud/soeg-puljer/bibliotekspenge/fakta-og-tal/bibliotekspenge-i-tal, (accessed 2021-12-08).
カナダの公貸権プログラムによる2016/2017年の年報に、電子書籍への報償を支払ったという記述がある。
PUBLIC LENDING RIGHT Annual Report 2016-2017. Canada Council for Arts, p. 10.
https://publiclendingright.ca/about/governance/annual-reports, (accessed 2021-12-08).

(39)“How Payments Works”. Public Lending Right Program.
https://publiclendingright.ca/payments, (accessed 2021-12-08).

(40)PUBLIC LENDING RIGHT Annual Report 2020-2021. Canada Council for Arts, p. 18.
https://publiclendingright.ca/about/governance/annual-reports, (accessed 2021-12-08).

(41)“Bibliotekspenge i tal”. Slots-og Kulturstyrelskn. 2021-08-26.
https://slks.dk/tilskud/soeg-puljer/bibliotekspenge/fakta-og-tal/bibliotekspenge-i-tal/, (accessed 2021-12-08).

(42)“Bibliotekspenge i tal”. Slots-og Kulturstyrelskn. 2021-08-26.
https://slks.dk/tilskud/soeg-puljer/bibliotekspenge/fakta-og-tal/bibliotekspenge-i-tal, (accessed 2021-12-08).

(43)“Beregning af bibliotekspenge for bøger”. Slots-og Kulturstyrelskn. 2021-04-08.
https://slks.dk/bibliotekspenge/beregning/, (accessed 2021-12-08).

(44)“4. 各省庁の著作権法改正要望及び関係者間で協議中の事項.第1章 法制問題小委員会における審議の経過”. 文部科学省.
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/010/03032812.htm, (参照 2021-12-08).

(45)著作権法の一部を改正する法律 新旧対照条文. 文化庁.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r03_hokaisei/pdf/93181001_04.pdf, (参照 2021-12-08).

(46)著作権法の一部を改正する法律の概要. 文化庁.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r03_hokaisei/pdf/93181001_01.pdf, (参照 2021-12-08).
著作権法の一部を改正する法律案御説明資料(条文入り). 文化庁.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r03_hokaisei/pdf/93181001_02.pdf, (参照 2021-12-08).

(47)前掲. p. 7.

(48)Kawaguchi, Kohei.; Kanazawa, Kyogo. Crowding-out Effects of Public Libraries and the Public Lending Right. SSRN. 2018, No. 3082016, p. 1, p. 34.
http://hdl.handle.net/1783.1/88097, (accessed 2021-12-08).
川口康平. 公共図書館によるクラウディングアウト効果と公的貸与権. 日本図書館情報学会研究大会発表論文集. 2018, p. 21-24.

(49)浅井澄子. 公共図書館の貸出と販売との関係. InfoCom review. 2017, 68, p.43-55.
貫名貴洋. 図書館貸出冊数が書籍販売金額に与える影響の 計量分析の一考察. マスコミュニケーション研究. 2017, 90, p. 105-122.
https://doi.org/10.24460/mscom.90.0_105, (参照 2021-12-08).

 

[受理:2021-12-08]

 


稲垣行子. 電子書籍を中心とした公貸権制度の2005年以降の国際動向. カレントアウェアネス. 2021, (350), CA2011, p. 14-19
https://current.ndl.go.jp/ca2011
DOI:
https://doi.org/10.11501/11942244

Inagaki Yukiko
International Trends after 2005 in Public Lending Right System for e-Books and Other Media