カレントアウェアネス
No.333 2017年9月20日
CA1905
フランス国立図書館の電子図書館Gallicaの20年
調査及び立法考査局調査企画課:服部麻央(はっとり まお)
フランス国立図書館(BnF)が運営する電子図書館Gallicaは、2017年10月に20周年を迎える。GallicaはBnFとその提携機関のデジタルコンテンツを420万点以上収録するデータベースである。収録資料の内訳は、図書約52万点、新聞・雑誌約185万点、手稿約9万点、画像資料約117万点、楽譜約4万7,000点、録音資料約5万点、硬貨をはじめとする博物資料約35万7,000点、地図資料約12万8,000点、動画18点となっている(1)。
表 Gallicaに収録されているデータの内訳
資料数 | 比率 | |
図書 | 519,291 | 12.3% |
新聞・雑誌 | 1,852,415 | 43.9% |
手稿 | 91,554 | 2.2% |
画像資料 | 1,172,898 | 27.8% |
楽譜 | 47,036 | 1.1% |
録音資料 | 50,856 | 1.2% |
博物資料 | 357,334 | 8.5% |
地図資料 | 128,556 | 3.0% |
動画 | 18 | 0.0% |
計 | 4,219,958 | 100.0% |
(2017年7月3日時点)
Gallicaでは、基本的な書誌情報や全文テキストデータからの検索のほか、資料種別、テーマ、所蔵機関及び掲載ウェブサイトによる絞り込み検索が可能である。一部の資料はテキストモード、EPUB、DAISYでのダウンロードが可能であり、閲覧画面からオンデマンド印刷の申込みもできる。Gallicaが収集したメタデータはEuropeana(CA1785参照)に提供されるため、Gallica収録資料はEuropeanaからの検索も可能である。資料紹介にも力を入れており、トップページのメニュー“La sélection”から解説文付きの特集ページにアクセスすることができる。本稿では、Gallicaの20年間を振り返り、BnFによる資料デジタル化の歩みと最近の動向を紹介する。
基本的な方向性の変遷
1997年、Gallicaのベータ版が公開された。初期のGallicaが目指した姿は「オネットム(honnête homme:教養人、紳士)の仮想図書館」と言われる(2)。歴史的・文化的観点から価値の高い主要な作品を厳選し、百科全書的なデータベースを構築することがその目標であった。特に最初期のGallicaは19世紀フランスの著作が内容の中心を占めていた(CA1193参照)。
2005年頃から、デジタル化の方針に変化が現れる。まず、初の大型事業として、2005年から5年計画で日刊紙のデジタル化が始まった(3)。そして、2007年から2009年にかけて大規模デジタル化が推進された。これはGoogleブックスの電子図書館プロジェクトによってもたらされる書籍デジタル化の独占への反動であったと言われている(CA1844参照)。大規模デジタル化にあたり、それまで重視されてきた内容に基づく選別は優先度が下がった。著作権保護期間内の資料、外国出版物、デジタル化作業に耐えられないような脆弱なものを除き、網羅的にデジタル化が行われた(4)。この間、2007年に新しいバージョン“Gallica 2”のベータ版が公開され、2009年には旧来のGallicaと統合して正式版になった。技術面では、この時期からOCRが導入され、資料の全文検索機能が追加された。
他機関との相互協力
2009年から、デジタル領域における他機関の支援がBnFの協力事業の主軸に置かれている(5)。例えば、特定のテーマまたは地方の利益に資する資料を対象として、BnFはデジタル化支援プログラムを複数用意している。また、2011年からはBnFが結ぶデジタル化契約の一部を提携機関の所蔵資料のデジタル化に充てることも可能になった。BnFの関与によってデジタル化が実施された資料は、提携機関の電子図書館とGallicaの両方で公開される。この際、Gallicaの閲覧画面上には資料がどの提携機関に由来するものかが明示されることになっている。
こうした事業の一環として、2016年には以下の2つの取組が実行された。1つ目は、ボルドー市立図書館所蔵の貴重書である、哲学者モンテーニュ(Michel Eyquem de Montaigne)の著者自注の『随想録』のデジタル化である。取組の成果はボルドー市立図書館の電子図書館SélénéとGallicaで公開されている(6)。2つ目は、パリ市立歴史図書館が所蔵する小説家フローベール(Gustave Flaubert)の手稿のデジタル化である。『感情教育』の最終稿がフローベールの執筆・旅行ノートとともにBnFによってデジタル化された。
以上のように提携機関の所蔵資料をBnFがデジタル化する以外にも、すでにデジタル化済みの資料をGallicaで公開する方法、デジタル化資料のメタデータのみをGallicaに投入する方法も存在する(7)。
そのほか、近年の新しい取組として“Gallica marque blanche”が始まっている。これは、BnFが提携を結んだ機関にGallicaの技術を提供し、新しい電子図書館を構築するというプログラムである(8)。この事業の目的は2つある。1つは、Gallicaを運用する中で得られた最新技術を共有すること、もう1つは、提携機関のデジタル化資料をGallicaに統合することによって、デジタル化されたフランスの文化遺産群の補完を図ることである。このプログラムを活用して、ストラスブール大学図書館のNumistral(9)、フランス省庁間アーカイブズ部(Service interministériel des Archives de France)のLa Grande Collecte(10)に加え、2017年4月にフランス語圏デジタルネットワーク(Réseau Francophone Numérique)の新しい電子図書館が公開された(11)。また、2016年には外務・国際開発省とBnFとの間に外交文書の電子図書館を作成するための協定が結ばれている。この電子図書館の公開は2017年初頭を予定していたが、2017年7月1日現在、まだ実現はしていないようである(12)。
このようにして、近年のGallicaは他機関と相互の協力関係を結ぶことによって、より多様な資料の検索が可能な電子図書館へと発展しつつある。
著作権をめぐる課題
図書館資料のデジタル化とその公開には常に著作権の問題がつきものである。BnFはこの課題に対処するために、2012年に“Gallica intra muros”をスタートさせた(13)。Gallica intra murosは、通常のGallicaの収録資料に加えて著作権保護期間内の資料も閲覧可能な館内専用のシステムである。
2012年の関連法律制定を受けて、著作権保護期間内にある市場で入手不可能な絶版図書のデジタル化とその商業利用を可能とするReLIRE(Registre des Livres Indisponibles en Réédition Électronique)計画も始動した。このプロジェクトによってデジタル化された書籍は販売開始と同時にGallica intra murosで閲覧が可能となり、さらに一定の期間を経たのちにGallicaで全文公開されることになっていた(CA1844参照)。しかし、2013年に作家側から著作権侵害の訴えがあり、2017年6月7日のコンセイユ・デタ(国務院)の判決により、ReLIRE計画の法的根拠である施行規則の一部は無効とされた(14)。この判決を受け、BnFは現在ReLIRE計画を停止している。
利用の多様化とSNSでの情報発信
利用者側に目を転じると、2016年度のGallicaのアクセス数は年間約1,400万件であり(15)、1日あたり約4万件に上る。2016年に実施されたGallicaの利用者アンケート調査結果(16)によると、回答した7,600名のうち70%超はフランス国内に居住しており、16%がイタリアをはじめとするヨーロッパ圏の住人であった。利用者の平均年齢は前回(2011年)の調査時よりも6歳上昇し、54歳という結果が出た。利用目的は「個人的な研究」(45%)が最も多く、前回よりも15ポイント増加した。「学業」(15%)と「仕事」(20%)を合わせると利用目的の8割が何らかの調査であることがわかった。その一方で、利用目的はその時々で異なるという回答も多く、ここから利用者像を類型化することは難しい。このアンケート結果は、研究者や学生だけでなく、Gallicaの利用がより多様化していることを示すものだろう。
利用の多様化の背景には、前述のようなコレクションの充実によってGallica自体の魅力が増したことだけでなく、ソーシャルメディアの積極的な活用もある。Gallicaはインターネット上での情報発信に積極的であり、毎月のニュースレター(17)の発行のほかにも、ブログ(18)、facebook(19)(「いいね!」の数:約12万件)、Twitter(20)(フォロワー数:約4万7000人)、Pinterest(21)(フォロワー数:約5,500人)で公式アカウントを運用している。これらのアカウントを通じてGallicaのコンテンツや新しいサービスの紹介を随時行い、さらに資料の価値を再発見するような記事を定期的に掲載することで、Gallicaの豊富なコレクションと利用者とをつなぐ機能を果たしている。
これからのGallica
2016年4月にBnFが公表した『電子化計画』 (Schéma Numérique)では、デジタル領域におけるBnFのミッションや事業内容だけでなく、BnFの未来像についても検証している。この中で、2020年のBnFの予想図が素描されている。質の高い情報源やデジタルツールの充実、電子情報を活用した個人向けサービスの提供によって、快適な情報探索環境を整える。そしてGallica及びGallica intra murosはより豊富で価値の高い資料を収録し、その活用のために明快なナビゲーションを用意する(22)。すべての人々があらゆる知識へアクセス可能な未来を目指し、Gallicaの挑戦は続いている。
(1)BnF. “Gallica en chiffres”. Gallica.
http://gallica.bnf.fr/GallicaEnChiffres, (accessed 2017-07-03).
(2)“A propos”. Gallica.
http://gallica.bnf.fr/html/und/a-propos, (accessed 2017-07-01).
(3)Dherny, Arnaud. Gallica: construction et stratégie. Pensée. 2010, (361), p. 51-63.
(4)“La numérisation des collections”. Schéma numérique. BnF. 2016, p. 18
http://www.bnf.fr/documents/bnf_schema_numerique.pdf, (accessed 2017-07-01).
(5)Bertrand, Sophie; Girard, Aline. Gallica (1997-2016). Bulletin des bibliothèque de France. 2016, 59(9), p. 52.
http://bbf.enssib.fr/consulter/bbf-2016-09-0048-005, (accessed 2017-07-01).
(6)“Montaigne bib numérique – Bordeaux”. Bibliothèque de Bordeaux.
http://bibliotheque.bordeaux.fr/in/le-patrimoine/montaigne, (accessed 2017-07-19).
(7)“Gallica, bibliothèque collective”. Rapport annuel 2016. BnF. 2017, p. 41-45.
http://webapp.bnf.fr/rapport/pdf/rapport_2016.pdf, (accessed 2017-07-01).
(8)“Gallica marque blanche”. BnF. 2016, 22p.
http://www.bnf.fr/documents/gallica_marque_blanche.pdf, (accessed 2017-07-01).
(9)Numistral.
http://www.numistral.fr/numistral/, (accessed 2017-07-01).
(10)La Grande Collecte.
http://www.lagrandecollecte.fr/lagrandecollecte/, (accessed 2017-07-01).
(11)Bibliothèque Réseau Francophone Numérique.
http://rfnum-bibliotheque.org/rfn/, (accessed 2017-07-19).
(12)“Gallica, bibliothèque collective”. Rapport annuel 2016. BnF. 2017, p. 41-45.
http://webapp.bnf.fr/rapport/pdf/rapport_2016.pdf, (accessed 2017-07-01).
(13)“Un Gallica, des Gallica”. Schéma numérique. BnF. 2016, p. 46.
http://www.bnf.fr/documents/bnf_schema_numerique.pdf, (accessed 2017-07-19).
(14)“Conseil d’État, 10ème – 9ème chambres réunies, 07/06/2017, 368208, Inédit au recueil Lebon”. Legifrance.
https://www.legifrance.gouv.fr/affichJuriAdmin.do?oldAction=rechJuriAdmin&idTexte=CETATEXT000034978289, (accessed 2017-07-01).
(15)“Les public de Gallica”. Rapport annuel 2016. BnF. 2017, p. 40-41.
http://webapp.bnf.fr/rapport/pdf/rapport_2016.pdf, (accessed 2017-07-01).
(16)Enquête auprès des usagers de la bibliothèque numérique Gallica. TMO. 2017, 119p.
http://www.bnf.fr/documents/mettre_en_ligne_patrimoine_enquete.pdf, (accessed 2017-07-01).
(17)第1号は2009年11月発行。
Gallica lettre d’information.
http://lettre-gallica.bnf.fr/, (accessed 2017-07-01).
(18)2009年開設。
“Le blog de Gallica”. Gallica.
http://gallica.bnf.fr/blog, (accessed 2017-07-01).
(19)2010年公式ページ開設。
“@GallicaBnF”. facebook.
http://www.facebook.com/GallicaBnF, (accessed 2017-07-01).
(20)2010年公式ページ開設。
“@GallicaBnF”. Twitter.
http://twitter.com/GallicaBnF, (accessed 2017-07-01).
(21)2012年公式ページ開設。
“Gallica BnF”. Pinterest.
http://www.pinterest.com/gallicabnf/, (accessed 2017-07-01).
(22)“Vision d’avenir”. Schéma numérique. BnF. 2016, p. 10-12.
http://www.bnf.fr/documents/bnf_schema_numerique.pdf, (accessed 2017-07-19).
[受理:2017-08-10]
服部麻央. フランス国立図書館の電子図書館Gallicaの20年. カレントアウェアネス. 2017, (333), CA1905, p. 5-7.
http://current.ndl.go.jp/ca1905
DOI:
https://doi.org/10.11501/10955541
Hattori Mao
Twenty Years of Gallica: the Digital Library of the National Library of France