カレントアウェアネス
No.333 2017年9月20日
CA1906
ドイツデジタル図書館(DDB)の沿革とサービス
利用者サービス部サービス運営課:丸本友哉(まるもと ともや)
1. はじめに
ドイツデジタル図書館(Deutsche Digitale Bibliothek:DDB)(1)は、ドイツを代表するデジタル資料のポータルサイトである。連邦と各州の2系統の財源でまかなわれる同名の公的機関がその運営に当たっている(2)。この機関は、ドイツの文化・学術機関が発信するデジタル情報を連続的かつ相互にリンクしてアクセス可能にするという目標のもと(3)、Europeana(CA1785、CA1863参照)(4)を支えるアグリゲーターとしての役割を果たしながら、同時に独立したサービスを展開している。サービスは上記のポータルサイトのみならず、外部プログラムにデータを提供するウェブAPI機能、文化・学術機関を幅広く紹介する「カルチャーマップ」(Kulturlandkarte)、協力機関向けの情報を提供するウェブサイト、資料のデジタル化プロジェクト等に関わるコンサルティングにまで及んでいる(5)。
日本でも現在、デジタルアーカイブをめぐる様々な施策が打ち出されつつあるが、分野横断型の統合ポータルサイトの構築についてはまだ検討の途上にある(6)。一方DDBは、多分野の機関が公開するデジタル資料の情報を集約して、一つの枠組みの中で簡便に利用できる仕組みの整備を大きく進めており、とりわけその点で注目すべき先進事例であるように思われる。本稿ではこのDDBに焦点を定め、主にユーザーの目線から、今日までの沿革とサービスの概要について紹介する。
2. 沿革
DDBは、欧州委員会(EC)によって2007年2月に正式決定された、学術情報のアクセス・提供・保存に関する通知文書(E611参照)(7)が契機となり誕生した。この文書は欧州連合(EU)加盟各国に、Europeanaのプロジェクトの枠組みにおいて、自国の文化と学術に関わる情報をデジタル化し、提供することなどの努力を求めるものだった。
この要請を受けてドイツでは、国内のデジタル資料の情報を包括的に収集・提供するための機関として、DDBを創設する構想が持ち上がった。連邦政府は各州及び各市町村と共同で文書(8)を取りまとめ、2009年12月の閣議決定を経て正式に発足させた(E897参照)。その後ほどなくDDBのサイトが開設されたが、この時点で公開されたのは設立計画に関する文書等にすぎなかった(9)。
それが本格的なポータルサイトとしてスタートしたのは、3年後の2012年11月のことである。まだベータ版という位置付けではあったが、すでに560万点もの資料へのアクセスを可能にしていた(10)。2013年11月、ウェブAPI機能の公開により、外部サービスにもそのデータベースが開放された(11)。そして2014年3月には、試験的な運用期間が終わり、正式版としてのDDBの運用が始まった(12)。その後もアクセス可能なデジタル資料は増え続けている。
3. 収録データ
DDBは、そのサービスの中核として、ドイツ国内の様々な文化・学術機関がインターネット上で公開するデジタル資料のメタデータとプレビュー(以下「メタデータ等」)を広範にわたり収集・整理し、それらを統合的に検索することが可能なデータベースを構築している。
DDBを通じてアクセス可能なデジタル資料は約891万5,000点(2017年7月現在。DDB検索ユーザーインターフェースによる。以下同じ)に達する。これらを媒体種別に分けると、文献が最多の約549万9,000点、絵画・写真が約334万5,000点、音声が約2万6,000点、映像が約4,000点等となっている(表1)。
表1 DDBのデジタル資料メタデータの媒体種別内訳(2017年7月現在)
データ数 | 比率 | |
文献 | 5,499,333 | 61.7% |
絵画・写真 | 3,345,164 | 37.5% |
音声 | 25631 | 0.3% |
映像 | 3,942 | 0.0% |
その他・不明 | 41,370 | 0.5% |
計 | 8,915,440 | 100.0% |
出典:DDB検索ユーザーインターフェース
一方、所蔵機関種別の内訳では、約521万4,000点の図書館を筆頭に以下、情報資料館(映像、音声、写真など文献以外の多様な媒体の資料を収集・保存・提供する機関)の約128万8,000点、博物館・美術館の約94万1,000点、文書館の約77万3,000点、研究機関の約65万4,000点、記念館の約4万4,000点と続く(表2)。
表2 DDBのデジタル資料メタデータの所蔵機関種別内訳(2017年7月現在)
データ数 | 比率 | |
図書館 | 5,213,740 | 58.5% |
情報資料館 | 1,288,488 | 14.5% |
博物館・美術館 | 940,557 | 10.5% |
文書館 | 773,220 | 8.7% |
研究機関 | 653,929 | 7.3% |
記念館 | 43,979 | 0.5% |
その他 | 1,527 | 0.0% |
計 | 8,915,440 | 100.0% |
出典:DDB検索ユーザーインターフェース
これらのことから、DDBが「図書館」を名乗るものの、取り扱う資料の範囲は従来の図書館を大きく超えていることがわかる。確かに現状では、DDBの全デジタル資料の6割近くは図書館が所蔵するものであるが、それは図書館界でデジタル化が早期に開始されたことを反映しているに過ぎない(13)。
「デジタル」図書館であるDDBが、未デジタル化資料に関するメタデータも同じ枠組みの中で収集していることにも注目したい。そうしたデータはDDB全体で約1,186万2,000点あるが、なかでも豊富なのが文書館の資料で、約1,029万点と85%余りを占めている。2012年にDDBの下位プロジェクトとして発足したArchivportal-Dは、保存記録に関する情報の幅広い蓄積によりDDBをドイツの文書館の横断的な検索ツールとして定着させることを目的としていたが(14)、こうした未デジタル化資料のデータの充実は、保存記録の検索に特化した独自ポータルサイト(15)のリリース(2014年)と並び、同プロジェクトの大きな成果といえる。
4. 検索ユーザーインターフェース
DDBのウェブサイトにアクセスすると、文字情報がほぼ削ぎ落とされたシンプルなトップページが表示される。その中央に位置する検索ボックスがデジタル資料のデータベースへのメインエントランスである。任意のキーワードを入力すると検索結果ページへと遷移するが、資料の情報が整然と並ぶこの画面にもタイトル以外の文字情報は少なく、サムネイル画像が際立つ構成になっている。検索ユーザーインターフェースは総じて、見やすさと美しさを重視した設計になっている印象を受ける。
しかし、このシステムはただ視覚的に優れているだけでなく、ファセットナビゲーションによる強力かつ簡便な絞り込み機能を実装している点にも特徴がある。ファセットとして利用できるのは10項目(年月日、場所、人物・組織、キーワード、言語、権利状態、二次利用の可否、媒体種別、所蔵機関種別、所蔵機関)で、各条件を設定するためのメニューが検索結果ページの左カラムに設置されている。
たとえば「マクベス」(Macbeth)の語を検索したあと、メニューから「人物・組織」のファセットをクリックすると、「シェイクスピア」や「ヴェルディ」といった選択候補を示すボックスが現れる。ここから「ヴェルディ」を選び、検索結果をそのオペラの関連資料に絞り込んだうえで、「媒体種別」から「音声」を選べば、100年前の音源などが見つかる。逆に「シェイクスピア」を選び、「言語」等のファセットを組み合わせることで、戯曲のドイツ語版を洗い出すこともできる。
さらに、こうして得られた検索結果ページ(上記の例では『マクベス』ドイツ語版の約30件の資料一覧)から任意の項目を選択すると、その資料の情報ページに移動する。ここでは当該資料のメタデータに含まれる情報(出版年、著者、キーワード、言語、権利状態、媒体種別など)と、デジタル資料が存在する場合はそのサンプル画像等を確認することができる。先述のとおり、DDBに収録されているのは資料のメタデータ等であり、デジタル資料自体ではない。しかし、資料情報ページには所蔵機関のウェブサイトへのリンクが表示され、これをたどってシームレスに資料の閲覧ができるようになっている。
5. ウェブAPI
DDBはウェブAPIも一般公開している。ウェブサービスを外部のプログラムから利用するための仕組みであるこのAPIにより、第三者が開発する別のウェブサービスやスマートフォンのアプリなどでも、DDBの豊富なデータと優れた検索機能を内部に取り込んで利用することができる。
APIにアクセスするには、サイト上でのユーザー登録を通じて固有の認証キーを取得するだけで足りる(16)。他の多くのウェブサービスと同様、設計はRESTに従っているため(17)、実装も比較的容易だと考えられる。
実際にこのAPIを用いて構築された外部サービスの一つに、先に紹介したArchivportal-Dのポータルサイトがある。DDBがAPIを公開する狙いは、この例のように、オリジナルとは異なる切り口のサービスを実現する手段を備えることで、資料の利活用につながる多様なアイデアを呼び込むことにある。ただし、API経由で提供されるデータは検索ユーザーインターフェースよりも限定的で、二次利用制限なし(クリエイティブ・コモンズのCC0ライセンス)のものに限られている(18)。
6. 「発見」(ENTDECKEN)コンテンツ
DDBのウェブサイトには、「発見」(ENTDECKEN)と銘打たれたカテゴリに属する3種のサブコンテンツも用意されている。そのいずれも、DDBが取り扱う資料との新たな出会いの機会を提供し、その利用を促す工夫がみられるものである。
(1)お気に入りリスト(Favoritenlisten)
DDBや所蔵機関のスタッフが作成した、DDBの資料のお気に入りリスト(Favoritenlisten)である。アクセスしたその日をはじめとする1年366日について、過去の同じ日に起きた出来事にまつわる資料を取り上げるリスト(Kalenderblatt)と、自らの機関のコレクションをまとめたリスト(Aus den Sammlungen)の2種類があり、簡易版のバーチャル展示会といった趣がある。
(2)人物のページ(Personen)
人物に焦点を当て、その関連資料や外部のインターネット上の情報などを紹介するページである。関連資料については、当該人物が出版や制作に関与したもの(Beteiligt an:)と、当該人物をテーマとして論じたり描写したりしたもの(Thema in:)という2つの観点で分類されている(この分類は検索ユーザーインターフェースのファセットにも組み込まれている)。コンテンツのトップページでは、ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe)からポテンテ(Franka Potente)(映画『ラン・ローラ・ラン』(Lola rennt)の主演女優)まで、多彩な人物の中からランダムに選ばれた50人の肖像が画面いっぱいに並び、視覚的にも楽しむことができる。
(3)バーチャル展示会(Ausstellungen)
DDBのサイト上で開催されている「展示会」(Ausstellungen)である。現在公開中の展示会の多くは各分野の文化・学術機関が中心となって作成したものだが、DDBの資料が特定のテーマに沿って、詳細な解説とともに、機関の枠を超えて幅広く紹介されている。なかには「グリムのAからZ−グリム兄弟が私たちに語らなかったこと」(19)のように、機関ではなく研究者個人の研究業績をもとにした展示もある。現時点ではまだ数は少ないが、今後様々な主体による企画を受け入れて発展していく可能性があるコンテンツではないだろうか。
7. おわりに
本稿の締めくくりに、DDBとEuropeanaとの関係性について触れておきたい。設立経緯からも明らかなように、DDBはその主要な任務の一つとしてEuropeanaへのデータ提供を行っている。とはいえ、独自に構築されたそのデータベースは、決して単なるEuropeanaの「縮小版」にはとどまらない。たとえばDDBが収集対象とするデジタル資料のメタデータ等の範囲は、二次利用可能なデータのみを集約しているEuropeanaよりも広い(20)。したがって、博物館・美術館によるデータを中心に、Europeanaには提供されずDDBでしか検索できないものも少なくない。またデータ処理技術の面では、意味に基づく項目のネットワーク化の分野で、たとえば典拠データの組み込みなどに関してDDBが部分的にEuropeanaに先行しているともいわれる(21)。
DDBは2016年10月、今後の運営方針についてまとめた『戦略2020』(Strategie 2020)(22)を公表した。そこには優先的に取り組むべき課題として、コンテンツの拡充、データ収集・処理・提供方法の効率化、APIの拡張によるデータプラットフォーム化の推進、検索機能の改善等によるユーザー体験の向上、データ品質の向上、アクセス数の拡大、検索対象範囲の拡張の7項目が掲げられている。DDBはこの先も、Europeanaと連携・共存しながら、ますます独自サービスを充実させていくように思われる。
(1)Deutsche Digitale Bibliothek – Kultur und Wissen online.
https://www.deutsche-digitale-bibliothek.de, (accessed 2017-06-29).
(2)“Fragen & Antworten”. Deutsche Digitale Bibliothek.
https://www.deutsche-digitale-bibliothek.de/content/faq#302, (accessed 2017-07-28).
(3)“Fragen & Antworten”. Deutsche Digitale Bibliothek.
https://www.deutsche-digitale-bibliothek.de/content/faq#188, (accessed 2017-07-28).
(4)Europeana Collections.
http://www.europeana.eu/portal/it, (accessed 2017-07-01).
(5)“Strategie 2020”. Deutsche Digitale Bibliothek. 2016-10-13.
https://www.deutsche-digitale-bibliothek.de/static/files/asset/document/ddb_strategie_2020_download.pdf, (accessed 2017-06-29).
(6)知的財産戦略本部. “知的財産推進計画2017”. 首相官邸. 2017-05.
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizaikeikaku20170516.pdf, (参照 2017-07-28).
(7)Commission of the European Communities. “Communication from the Commission to the European Parliament, the Council and the European Economic and Social Committee on scientific information in the digital age: access, dissemination and preservation {SEC(2007)181}”. EUR-Lex. 2007-02-14.
http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:52007DC0056, (accessed 2017-06-29).
(8)“Gemeinsame Eckpunkte von Bund, Ländern und Kommunen zur Errichtung einer ‘Deutschen Digitalen Bibliothek (DDB)’ als Beitrag zur ‘Europäischen Digitalen Bibliothek (EDB)’”. Deutsche Digitale Bibliothek. 2009-12-02.
https://www.deutsche-digitale-bibliothek.de/static/de/sc_documents/div/gemeinsame_eckpunkte_finale_fassung_02122009.pdf, (accessed 2017-06-24).
(9)Deutsche Digitale Bibliothek. “Deutsche Digitale Bibliothek – Portal für Kultur und Wissenschaft”. Wayback Machine. 2009-12-06.
https://web.archive.org/web/20091206034247/http://www.deutsche-digitale-bibliothek.de/index.htm, (accessed 2017-06-24).
(10)“Deutsche Digitale Bibliothek gestartet”. Spiegel Online. 2012-11-28.
http://www.spiegel.de/netzwelt/netzpolitik/deutsche-digitale-bibliothek-gestartet-a-869793.html, (accessed 2017-06-24).
(11)“API der Deutschen Digitalen Bibliothek veröffentlicht”. Deutsche Digitale Bibliothek. 2013-11-04.
https://www.deutsche-digitale-bibliothek.de/content/ueber-uns/aktuelles/api-der-deutschen-digitalen-bibliothek-veroeffentlicht, (accessed 2017-06-24).
(12)“Deutsche Digitale Bibliothek präsentiert erste Vollversion”. Deutsche Digitale Bibliothek. 2014-03-31.
https://www.deutsche-digitale-bibliothek.de/content/ueber-uns/aktuelles/deutsche-digitale-bibliothek-praesentiert-erste-vollversion, (accessed 2017-06-24).
(13)“Fragen & Antworten”. Deutsche Digitale Bibliothek.
https://www.deutsche-digitale-bibliothek.de/content/faq#189, (accessed 2017-06-24).
(14)“Aufbau eines Archivportals-D”. Landesarchiv Baden-Württemberg.
https://www.landesarchiv-bw.de/web/54267, (accessed 2017-06-24).
(15)Archivportal-D.
https://www.archivportal-d.de, (accessed 2017-06-24).
(16)“API der Deutschen Digitalen Bibliothek”. Entwickler-Wiki der Deutschen Digitalen Bibliothek. 2013-12-12.
https://api.deutsche-digitale-bibliothek.de/doku/display/ADD/API+der+Deutschen+Digitalen+Bibliothek, (accessed 2017-06-24).
(17)具体的には、APIサーバーのドメイン名、対象データの種類を表す15通りのリソース名(“search”や“items/source”など)、特定データのIDを指定するパスパラメータ、検索条件等を指定するクエリパラメータの組み合わせからなるURLを生成し、これに対してHTTPリクエストを送信すると、URLに包含された要求内容に対応するデータがデータベースから抽出され、HTTPレスポンスとして返信されてくる。返信データはリソース名によりXML形式やJSON形式などと異なるが、いずれも機械可読形式のファイルである。
“Programmierschnittstelle”. Entwickler-Wiki der Deutschen Digitalen Bibliothek. 2014-04-24.
https://api.deutsche-digitale-bibliothek.de/doku/display/ADD/Programmierschnittstelle, (accessed 2017-06-24).
(18)“API-Nutzungsbedingungen”. Deutsche Digitale Bibliothek. 2013-10-24.
https://www.deutsche-digitale-bibliothek.de/content/api-nutzungsbedingungen, (accessed 2017-06-24).
(19)“Grimm von A bis Z – Was uns die Brüder Grimm nicht erzählten”. Deutsche Digitale Bibliothek.
http://ausstellungen.deutsche-digitale-bibliothek.de/grimm, (accessed 2017-06-24).
(20)“Wie ‘offen’ ist die DDB?”. Deutsche Digitale Bibliothek. 2013-01-08.
https://www.deutsche-digitale-bibliothek.de/content/ueber-uns/aktuelles/wie-offen-ist-die-ddb, (accessed 2017-06-28).
(21)“Fragen & Antworten”. Deutsche Digitale Bibliothek.
https://www.deutsche-digitale-bibliothek.de/content/faq#301, (accessed 2017-06-24).
(22)“Strategie 2020”. Deutsche Digitale Bibliothek. 2016-10-13.
https://www.deutsche-digitale-bibliothek.de/static/files/asset/document/ddb_strategie_2020_download.pdf, (accessed 2017-06-29).
[受理:2017-08-10]
丸本友哉. ドイツデジタル図書館(DDB)の沿革とサービス. カレントアウェアネス. 2017, (333), CA1906, p. 8-11.
http://current.ndl.go.jp/ca1906
DOI:
https://doi.org/10.11501/10955542
Marumoto Tomoya
History and Services of the German Digital Library