E611 – 学術情報のアクセス,提供,保存に関する通知(欧州委員会)

カレントアウェアネス-E

No.101 2007.02.28

 

 E611

学術情報のアクセス,提供,保存に関する通知(欧州委員会)

 

 欧州委員会(EC)は2007年2月15日,通知(Communication)を発し,欧州議会,欧州理事会および欧州経済社会評議会に対して学術情報の現状と課題についての情報提供を行った。

  「デジタル時代の学術情報: アクセス,提供,保存(Scientific Information in the Digital Age: Access, Dissemination and Preservation)」と題するこの通知は,学術情報の現状・課題を整理するとともに,学術情報に関するECの考え方と2007年以後に執り行う施策を示しており,一種の政策文書であるといえる。

 ECはまず,学術情報の流通を促進することともに,研究論文およびその元となった研究データを蓄積し将来にわたって利用可能とすることの重要性を説いている。その上で,電子ジャーナル,オープンアクセス(OA),機関/主題別リポジトリ,公的助成を受けた研究のパブリックアクセス方針の策定,デジタル資源の法定納本といった近年の動向を簡潔・明瞭に整理している。また,研究者・研究機関・助成機関・図書館と出版社の立場・論点の相違,組織・法・技術・財政の各側面から見た課題もまとめている。

 次いで,学術情報の流通・蓄積に関するECの立場が表明されている。ECは学術情報の広範なアクセスと提供を導くイニシアチブの必要性を提起し,公的な助成によってなされた研究の成果およびデータは,原則としてすべての人がアクセスできるようにすべきであるとする。また学術情報のデジタル保存についても,明確な戦略を立てて推進していくとしている。そしてこれらの遂行に際しては,出版社も含めたすべての関係者による議論が必要であると一貫して主張している。このためか,欧州研究諮問委員会(EURAB)などが義務化を勧告していたOA(E604参照)については,「観察・考慮していく」と述べるに留まっている。

 そして最後に,ECが近々行う施策として,以下の4つを示している。

  • (1) ECが助成した研究成果へのアクセス
    • OA出版を含む出版費用も,経費として助成の中に含める。
    • オープンリポジトリへの論文の投稿に関するガイドラインを発行する。
  • (2) 学術情報に関する事業や研究への助成
    • 欧州規模でデジタルリポジトリを連携させる事業などのインフラ構築,
    • デジタル保存を行っている機関のネットワーク化,学術情報のアクセシビリティ,ユーザビリティ向上に関するプログラムなどを助成する。
  • (3) 学術情報政策を議論するためのインプットの作成
    • 2007年からデジタル保存に関する経済についての研究を実施する。
    • 出版のビジネスモデル,普及戦略,研究の卓越性と出版の関連性など,学術出版に関する研究を助成する。
  • (4) 学術情報政策の調整および利害関係者との協議
    • 欧州議会,欧州理事会での審議を求める。
    • ECは専門家や諮問委員会も交えて,利害関係者とさらなる協議を行う。また関係者間で優良事例の情報を共有する。

 この通知を受け取った欧州議会・欧州理事会がどのように対応していくのか,また各加盟国がどのように欧州レベルでの協同を実現していくのか,利害関係者間の調整はどのように進むのかなど,今後が大いに注目される。

Ref:
http://ec.europa.eu/information_society/activities/digital_libraries/doc/scientific_information/communication_en.pdf
http://ec.europa.eu/information_society/activities/digital_libraries/doc/scientific_information/swp_en.pdf
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/07/57
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/07/190
http://ec.europa.eu/research/science-society/page_en.cfm?id=3459
http://www.jisc.ac.uk/news/stories/2007/02/news_ecconf.aspx
E604