CA1844 – フランスにおける書籍デジタル化の動向 / 服部有希

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カレントアウェアネス
No.323 2015年3月20日

 

CA1844

 

 

フランスにおける書籍デジタル化の動向

 

調査及び立法考査局海外立法情報課:服部有希(はっとり ゆうき)

 

 フランスは、文化・通信省の主導の下、フランス国立図書館(BnF)が中心となり、書籍等のデジタル化を推進している。その対象は、パブリック・ドメインの資料から始まり、著作権保護期間内にある著作物へと拡大しつつある。

 本稿では、フランスにおける書籍等のデジタル化の進展を概観した上で、最新の動向である絶版書籍及び孤児著作物のデジタル化について紹介する。

 

書籍等のデジタル化の進展

 BnFが書籍等のデジタル化を本格化させたのは、1997年の電子図書館Gallicaの公開からである。そのコンテンツ数は、現在、約290万点に達している(1)

 Gallicaの当初の構想は、主要作家の作品等を厳選した百科全書的なカタログの構築であった。しかし、2005年頃になると、方針が変更され、網羅的なデータベースの実現に向けた試みが始まる。その背景には、前年にGoogleが発表したGoogleブックス図書館プロジェクトに対する危惧があった(2)

BnFは、2007年に初めて大規模デジタル化の委託契約を企業(Safig社、Banctec社、Spigraph社、Isako 社及びDiadéis社)と締結した。これにより約10万点の資料のデジタル化が進められた(3)

 このような中で、大きな話題となったのは、2012年に文化・通信省の支援の下にBnFによって設立された企業「BnFパートナーシップ」(BnF-Partenariats)である。その目的は、企業との共同出資により、BnFが所蔵するパブリック・ドメインの資料をデジタル化することである。提携企業は、BnFが指定する資料のデジタル化を行う。対象資料は、1470年から1700年の図書のほか、新聞、手稿資料、レコード、楽譜、写真、映画等である(4)

 この事業の特徴は、出資の見返りとして、デジタル化資料の最長10年間の排他的な商業利用権が提携企業に付与される点である。この期間は、デジタル化資料をインターネット上のGallicaで閲覧することができない。ただし、BnFの館内であれば、この期間内でも閲覧することができる(5)

 例えば、2012年10月には、1470年から1700年までの7万点の資料のデジタル化をProQuest社に委託することが決定され、10年の排他的な商業利用権が付与された。デジタル化された資料は、ProQuest社のデータベースであるEarly European Booksにおいて提供されている。これらの資料のGallicaでの公開は、Early European Booksでの公開から10年後となる。

 

ReLIRE計画―絶版書籍のデジタル化及び商業利用―

 このように、パブリック・ドメインの資料のデジタル化が進展する一方で、現在、著作権保護期間内の資料のデジタル化に関する計画が進められている。それがReLIRE計画である。ReLIRE計画は、2012年に制定された「入手不可能な20世紀の書籍の電子的利用に関する2012年3月1日の法律第2012-287号」(6)による知的所有権法典(Code de la propriété intellectuelle)の改正により実現した。

 ReLIREとは、Registre des Livres Indisponibles en Réédition Éléctroniqueの頭文字であり、「電子的再版のための入手不可能な書籍の登録リスト」を意味する。このリストには、採算性の問題等により再版されず、入手不可能となっている著作権保護期間内の書籍が記載される。ReLIRE計画の目的は、これらの書籍をデジタル化し、再版することにある(7)

ReLIRE計画の対象となる「入手不可能な書籍」(livres indisponibles)は、厳密には絶版書籍(livres épuisé)と区別され、次の要件を全て満たすものとされている(知的所有権法典L.第134-1条)。

  • 著作権保護期間内である。
  • フランスで1901年1月1日から2000年12月31日までに出版された。
  • すでに商業的に流通しておらず、目下、印刷物でもデジタル形態でも出版の予定がない。

 このような入手不可能な書籍がデジタル形態で再版されるまでには、次の3段階を経ることになる。

 (1)リスト(ReLIRE)の公開(毎年3月21日)
 (2)共同管理への移行(毎年9月21日)
 (3)デジタル形態での再版

 それぞれの段階を具体的に見ると、まず、出版者、著作権者及びBnFの代表者から成る「専門委員会」(comité scientifique)がリストを作成する。このリストは、BnFにより、毎年3月21日に公開される(同L.第134-2条及びR.第134-1条)。掲載された書籍の著作権者及び発行元の出版者は、リストの公開から6か月間、当該書籍をリストから除外するよう請求することができる(同L.第134-4条)。

 次に、6か月以内に除外請求がなかった書籍は、共同管理状態(gestion collective)に置かれる。管理を行うのは、著作権料の徴収と分配に関する団体(société de perception et de répartition des droits:SPRD)のうち、文化・通信省が認可する団体である(同L.第134-3条)。実際には、Sofia(Société française des intérêts des auteurs de l’écrit)という団体が指名され、管理に当たっている(8)

 書籍が共同管理下に置かれると、Sofiaにより、再版へ向けた手続きが進められる。まず、Sofiaは、共同管理下の書籍の発行元の出版者に対して、当該書籍のデジタル形態での10年間の排他的な商業利用権の付与を提案する。これを受諾した出版者は、3年以内にデジタル形態での商業利用を開始しなければならない(同L.第134-5条)。

 この提案が拒否された場合には、Sofiaは、当該書籍のデジタル形態での5年間の非排他的な商業利用権を、希望するその他の出版者に付与することができる(同L.第134-3条)。

 このようにして、実際にデジタル形態での再版が行われた場合、Sofiaは、その出版者から使用料を徴収し、著作権者等に分配する。その額は、10年の排他的な商業利用の場合には、販売価格の15%(ただし1冊につき最低1ユーロ)となり、全額が著作権者に支払われる。一方、5年の非排他的な商業利用の場合には、販売価格の20%(最低1ユーロ)が徴収され、著作権者と元々の印刷物の発行元である出版者に50%ずつ支払われる(ただし1ユーロの場合には著作権者に0.75ユーロ、発行元の出版者に0.25ユーロが支払われる)(9)

 Sofiaによれば、ReLIRE計画による書籍の販売が開始されるのは、2015年末である(10)

 

最新の動向―孤児著作物のデジタル化―

 おわりに代えて、最新の動向として、2015年2月20日に成立した孤児著作物(œuvres orphelines)のデジタル化に関する法律(11)について紹介しておく。この法律は、2012年10月25日に制定されたEU孤児著作物指令(2012/28/EU)(12)CA1771参照)を国内法化するためのものである。

 この指令の趣旨は、その前文によれば、EU加盟国におけるデジタル化の促進と、孤児著作物の取扱いに関するEU加盟国間共通の方針の確立である。このような趣旨に従い、同指令及び法律は、図書館等が孤児著作物をデジタル化し、インターネット上で公開するための制度の整備を目的とする。

 孤児著作物とは、同指令及びフランスの知的所有権法典によれば、詳細な調査にもかかわらず、著作権者が不明であるか、その所在が不明な著作物を指す(同指令第2条及び知的所有権法典L.第113-10条)。このうち、同指令及び法律が対象とするのは、著作権保護期間内にあり、EU加盟国において最初に出版された孤児著作物である。具体的には、本、雑誌、新聞及びその他の活字の資料のほか、視聴覚資料なども含まれる。

 デジタル化の権利が与えられる機関は、一般利用が可能な図書館、博物館、美術館、文書館、視聴覚資料の収蔵機関、教育機関等である。これらの機関は、デジタル化にあたり、まず、著作権者やその所在について調査しなければならない。

 孤児著作物のデジタル化及び公開は、あくまで文化的、教育的な目的に限られ、経済的、商業的利益を追求してはならない。ただし、デジタル化及び利用提供にかかる費用を補償する目的であれば、最長7年間、料金を徴収することができる。

 

(1)“Rapport d’activité 2013”. Bibliothèque nationale de France. 2014-8-19.
http://webapp.bnf.fr/rapport/pdf/rapport_2013.pdf, (accessed 2015-01-07).

(2)Tessier, Marc. “La numérisation du patrimoine écrit”. Ministère de la culture et de la communication. 2010-01-12.
http://www.ladocumentationfrancaise.fr/var/storage/rapports-publics/104000016/0000.pdf, (accessed 2015-01-07).

(3)Bruckmann, Denis et al. La numérisation à la Bibliothèque nationale de France et les investissements d’avenir. Bulletin des bibliothèques de France. 2012, 57(4), p. 49-53.
http://bbf.enssib.fr/consulter/bbf-2012-04-0049-010.pdf, (accessed 2015-01-07).

(4)Appel à partenariat pour la numérisation et la valorisation des collections de la Bibliothéque nationale de France (BnF). Bibliothèque nationale de France. 2011-07-06.
http://www.bnf.fr/documents/appel_partenariat_numerisation_2011.pdf, (accessed 2015-01-07).

(5)“Charte des partenariats”. Bibliothèque nationale de France.
http://www.bnf.fr/documents/charte_partenariats.pdf, (accessed 2015-01-07).

(6)Loi n° 2012-287 du 1er mars 2012 relative à l’exploitation numérique des livres indisponibles du XXe siècle.
http://www.legifrance.gouv.fr/affichTexte.do?cidTexte=JORFTEXT000025422700&categorieLien=id, (accessed 2015-01-07).

(7)Khiari, Bariza. “Rapport n°151 (2011-2012) fait au nom de la commission de la culture, de l’éducation et de la communication, déposé le 30 novembre 2011”. Sénat. 2011-11-30.
http://www.senat.fr/rap/l11-151/l11-1511.pdf, (accessed 2015-01-07).

(8)2013年3月21日の文化・通信省のアレテ(省令)(Arrêté du 21 mars 2013 portant agrément de la Société française des intérêts des auteurs de l’écrit)により指名された。

(9)Gary, Nicolas. Registre ReLIRE : la rémunération des auteurs enfin envisagée. ActuaLitté – Les univers du livre. 2013-09-13.
https://www.actualitte.com/acteurs-numeriques/registre-relire-la-remuneration-des-auteurs-enfin-envisagee-45045.htm, (accessed 2015-01-07).

(10)“Comprendre le projet ReLIRE”. Sofia Livres Indisponibles.
http://www.la-sofialivresindisponibles.org/comprendre_auteur.php?lg=fr, (accessed 2015-01-07).

(11) Loi n° 2015-195 du 20 février 2015 portant diverses dispositions d’adaptation au droit de l’Union européenne dans les domaines de la propriété littéraire et artistique et du patrimoine culturel.
http://legifrance.gouv.fr/affichTexte.do?cidTexte=JORFTEXT000030262934&dateTexte=&categorieLien=id, (accessed 2015-03-02).

(12)Directive 2012/28/EU of the European Parliament and of the Council of 25 October 2012 on certain permitted uses of orphan works.
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2012:299:0005:0012:EN:PDF, (accessed 2015-01-07).

 

[受理:2015-03-02]

 


服部有希. フランスにおける書籍デジタル化の動向 . カレントアウェアネス. 2015, (323), CA1844, p. 14-16.
http://current.ndl.go.jp/ca1844

Hattori Yuki.
Trends of Book Digitization in France.