カレントアウェアネス-E
No.411 2021.04.22
E2375
フランス国立図書館(BnF)における研究活動
関西館図書館協力課・野村明日香(のむらあすか)
2020年9月,フランス国立図書館(BnF)が,同館における研究活動についてまとめた報告書“La recherche à la Bibliothèque national de France”を公開した。BnFの設立に関する1994年1月3日付のデクレ(行政命令)にある通り,資料の収集・保存・管理・提供だけでなく,所蔵資料に関する研究プロジェクトの実施も同館の使命の一つである。その成果は,シンポジウム,展示会,刊行物,ウェブサイトや,人文・社会科学分野のブログのプラットフォーム“hypotheses.org”上のページ等で発表されている。毎年刊行される活動報告書で,各年の研究内容等について言及されているが,研究活動に焦点を当てた報告書は今回初めて作成された。本稿では,報告書の内容を中心に,BnFの研究活動に関する取組の一端を紹介する。
研究の主な分野には,コレクションの作成や内容等に関する「BnFのコレクションの歴史・分析」,保存やデータの構造化・流通,図書館史をはじめとした「遺産と図書館に関する学問」が挙げられている。従来からある分野に加え,ビッグデータ解析,人工知能(AI)等,新たな分野も射程に含まれている。その一例として,2021年設置予定のデータマイニングおよび当該分野の研究支援等を目的としたBnF Data Labが挙げられる。
BnFの職員のうち何らかの形で研究プロジェクトに関わっているのは200人ほどで,2019年の職員数を基にすると全体の約8.7%である。また,部署横断的なスキル交換,研究も行われており,古代に関するBnFのコレクション・研究の紹介を行うブログ“L’Antiquité à la BnF”はその活動の所産である。日常業務の一環として行われるもの以外の自発的な研究活動に関わる職員もいるが,日常業務と研究活動は互恵的関係にあり,切り分けが難しいと述べられている。
こういった職員の研究活動を支える基盤の一つに,職員の学術的スキル向上を支援するBnFの姿勢があると考えられる。報告書の中では,職員の学術的スキルは,研究プロジェクト・教育・資料の利活用等を支え,あらゆる分野における「研究協力者」としてのBnFの位置づけに寄与するものであると述べている。具体的な支援策としては,学位取得,公的学術機関や研究ユニットへの参加,出版活動,イベント参加等のための研修休暇や勤務時間の調整といった服務制度,情報交換や評価の枠組み・場の提供,研究活動に関する手続き等をまとめた職員向けのガイドの提供に言及している。
また,国内外の学術研究機関・研究者とのパートナーシップ拡大も推進しており,共同プロジェクトが実施されている。例えば,国内の事例では,国立美術史研究所とフランス国立古文書学校,ドイツ美術史研究センター,美術史の研究機関アンドレ・シャステル・センターと連携し,Time Machine Europe(E2248参照)の技術を活用してリシュリュー地区の歴史を保存する研究プロジェクト“Quartier Richelieu”が,2018年から2022年にかけて進められている。国際的な共同プロジェクトでは,歴史的背景により分散した資料等の,デジタル技術を用いた再集結に重きが置かれている。2021年2月に発表された,チェコ共和国・モラヴィア図書館との学術・研究・デジタル化等に関する協定の締結や,2017年から提供している,国内外の機関との協力により構築された電子図書館のコレクション“Patrimoines Partagés”がその例である。そして,研究プロジェクトを支える枠組みには,既述のものの他にも,以下の3つが挙げられている。
- 複数年の研究計画
1994年以降,8つの3か年あるいは4か年の研究計画のもと,合計150件ほどのプロジェクトを実施しており,年間約20万ユーロを投じている。この計画は,BnFの研究活動への意見具申等を行う学術評議会(conseil scientifique)により方向性の検証が行われている。本稿執筆時点では,2020年から2023年までの計画の下,磁気テープの腐食と劣化について等9件の研究プロジェクトが進められている。 - 若手研究者の受け入れ
毎年,学生・博士課程の学生・ポスドクといった若手研究者の募集を行っており,2019年から2020年にかけては,12の部門で合計31人の研究者を準研究員として受け入れた。研究助成金有りと無しのステータスがあり,館長の決定により1年任期のポストが与えられ,2回まで延長が可能である。報告書では,この準研究員らの存在が,BnFの研究活動を強化していると述べている。 - 若手研究者を対象とした研修
若手研究者の古言語や文献調査等の技能育成のため,修士課程以降の学生を対象とした研修に関わっている。若手研究者の技能習得の他,個々の研究活動をBnFが携わる協働的研究と結びつける機会や,コレクションの再文脈化の機会となり得ることを指摘しており,若手研究者・BnFの相互にメリットがあることが示唆されている。
同報告書や英国図書館の事例(E2370参照)でも述べられているように,図書館における研究活動・支援は,研究者・機関だけでなく,図書館やその職員にとってもメリットがあり,ひいては,利用者に対するサービスの向上にもつながり得る。国立国会図書館(NDL)に関しては,国立国会図書館法において,資料・情報の提供により利用者の研究に資することには言及されていても,NDLや職員による研究活動については触れられていない。しかし,全く行われていない訳ではなく,組織・職員等による調査・研究の成果は,各種のイベントや展示会,月報をはじめとした刊行物,ウェブサイト等多様な形で発表・提供されている。本報告書の内容をはじめとした,BnFの各種取組は,今後のNDLにおける実践等に参考になると思われる。
Ref:
“La recherche à la BnF : document de synthèse”. BnF. 2020-09-17.
https://www.bnf.fr/fr/actualites/la-recherche-la-bnf-document-de-synthese
LA RECHERCHE À LA BIBLIOTHÈQUE NATIONALE DE FRANCE. BnF, 2020, 24p.
https://www.bnf.fr/sites/default/files/2020-09/Recherche%20BnF%202020.pdf
“Décret n°94-3 du 3 janvier 1994 portant création de la Bibliothèque nationale de France”. Légifrance.
https://www.legifrance.gouv.fr/loda/id/JORFTEXT000000545891/2020-03-05
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http://www.bnf.fr/
“Carnet de la recherche à la Bibliothèque nationale de France”. Hypotheses.
https://bnf.hypotheses.org/
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https://www.bnf.fr/fr/bnf-rapport-dactivite-2019
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https://www.bnf.fr/sites/default/files/2020-06/La_BnF_de_chez_vous_22_DataLab.pdf
“Rapport d’activité 2019 – Les ressources humaines”. BnF.
https://www.bnf.fr/fr/ra2019-les-ressources-humaines
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https://antiquitebnf.hypotheses.org/
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https://www.culture.gouv.fr/Actualites/Site-Richelieu-de-la-BnF-richesses-architecturales-fonctionnalites-nouvelles
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https://www.inha.fr/fr/index.html
École nationale des chartes.
http://www.chartes.psl.eu/
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“« Antoine Reicha redécouvert » – Partenariat avec la Bibliothèque de Moravie”. BnF. 2021-02-25.
https://www.bnf.fr/fr/actualites/antoine-reicha-redecouvert-partenariat-avec-la-bibliotheque-de-moravie
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https://www.bnf.fr/fr/patrimoines-partages
“Organisation de la BnF”. BnF.
https://www.bnf.fr/fr/organisation-de-la-bnf
“Plan quadriennal de la recherche”. BnF.
https://www.bnf.fr/fr/plan-quadriennal-de-la-recherche
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https://bnfaac2021.sciencescall.org/
“国立国会図書館法”. e-Gov.
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC1000000005
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https://www.ndl.go.jp/jp/news/public_index.html
北本朝展. 「過去のビッグデータ」を探る欧州タイムマシン研究計画. カレントアウェアネス-E. 2020, (389), E2248.
https://current.ndl.go.jp/e2248
宮田怜. 英国図書館(BL)が展開する研究協力事業. カレントアウェアネス-E. 2021, (410), E2370.
https://current.ndl.go.jp/e2370