E2412 – 令和3年著作権法改正:図書館関係の権利制限規定の見直し

カレントアウェアネス-E

No.418 2021.08.19

 

 E2412

令和3年著作権法改正:図書館関係の権利制限規定の見直し

筑波大学図書館情報メディア系・村井麻衣子(むらいまいこ)

 

   2021年5月26日,「著作権法の一部を改正する法律」が成立し,6月2日に公布された。この令和3年著作権法改正には,図書館に関する著作権の制限規定である31条の見直しが含まれており,(1)国立国会図書館による絶版等資料のインターネット送信(31条4項等(※31条2項等の改正後は31条8項等へ移動)),(2)図書館等による図書館資料のメール送信等(31条2項等)に関する内容が盛り込まれている。(1)については公布から1年以内,(2)については公布から2年以内で政令が定める日から施行される。

   この改正は,インターネットを通じて利用者が図書館資料を利用することを一定の範囲で可能とするものであり,その背景には,新型コロナウイルス感染症の流行による図書館の休館等の影響があった。文化庁の「図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキングチーム」での議論をもとに,『図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する報告書』がとりまとめられ,これをもとに改正が行われた。

●国立国会図書館による絶版等資料のインターネット送信

   現行制度において,国立国会図書館は,電子化された図書館資料のうち絶版等の理由により一般に入手することが困難な図書館資料に限り,他の図書館等へインターネット送信することができる。送信先が図書館等に限定されていることから,利用者が図書館へ赴くことができない場合には,入手困難な資料へのアクセス自体が困難となってしまうという課題があった。

   そこで,今回の改正では,国民への情報アクセスを確保する観点から,国立国会図書館が一定の条件のもと,入手困難な資料のデータを利用者に直接インターネット送信することを可能とした(31条4項)。対象となる資料は,絶版等資料のうち3月以内に復刻等の予定があるものを除いた「特定絶版等資料」(31条6項)とされ,国立国会図書館は,事前登録(IDやパスワードで管理)した利用者に対し,直接送信することが可能となる。利用者は国立国会図書館のウェブサイト上で資料を閲覧でき,自ら利用するために必要なプリントアウト(複製)や,非営利等の一定の要件のもとでディスプレイなどに映して公衆に見せること(公の伝達)も行うことができる(31条5項)。

●図書館等による図書館資料のメール送信等

   現行制度においては,31条1項1号にいわゆる複写サービスが規定されているが,図書館等が行うことができるのは,複製及び複製物の提供に限られており,利用者に対してメールやFAXなどで送信すること(公衆送信)を行うことまでは認められていない。

   そこで,今回の改正では,利用者の調査研究の用に供するため,著作物の一部分(政令で定める場合には全部)をメールなどにより直接送信すること(公衆送信のための複製,及び公衆送信)を可能とした(31条2項)。利用者は調査研究に必要な限度でプリントアウトなど(複製)を行うことができる(31条4項)。絶版等資料に限らず,一般に入手可能な資料も対象となるため,民間事業者によるビジネスを阻害しないよう,権利者保護のための厳格な要件が設定されるとともに,補償金制度が導入された。

   文化庁ウェブサイトでの「改正の概要」の説明では,権利者保護を図る観点からの措置が以下のようにまとめられている。

  • (ⅰ)送信主体を「特定図書館等」に限定(31条3項)
        公衆送信を行う「特定図書館等」には,責任者の配置,職員への研修など,一定の要件を満たすことが求められる。
  • (ⅱ)不正拡散を防止・抑止するための措置(31条2項2号)
        利用者によるデータの不正拡散を防止するため,事前に利用者が氏名等を 登録すること,図書館等による公衆送信の際に技術的措置を講ずることなどが必要である。
  • (ⅲ)「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」の制限(31条2項ただし書)
        正規の電子出版等の市場との競合を防止するため,著作物の種類(電子出版等の実施状況などを含む)などに照らし「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には,公衆送信を行うことができないとするただし書が設けられた。ただし書の具体的な解釈・運用は,関係者によるガイドラインを作成するとしている。
  • (ⅳ)補償金の支払い義務(31条5項)
        公衆送信に際しては権利者に補償金を支払う必要があり,著作権法上の支払い義務者は「特定図書館等を設置する者」とされるが,実質的には利用者が図書館等に支払うことが想定されている。補償金の徴収・分配は,「指定管理団体」が一括して行う(104条の10の2)。補償金は,個別の送信ごとに課金され,権利者の逸失利益を填補できるだけの水準とされている。
   今回の改正では,送信サービスの運用上の詳細など,関係者間での協議等に委ねられている部分も多い。今後の動向を注視されたい。

Ref:
文化庁. “令和3年通常国会 著作権法改正について”.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r03_hokaisei/
文化庁. “図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキングチーム”.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/toshokan_working_team/
文化審議会著作権分科会. “図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する報告書”. [文化庁], 40p.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/92818201_03.pdf
川崎祥子. 令和3年著作権法改正の国会論議:図書館関係の権利制限規定の見直しと放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化. 立法と調査. 2021, no.437, p. 64-78.
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2021pdf/20210730064.pdf
池村聡. “令和3年著作権法改正の影響度と実務対応 – 図書館関係の権利制限規定見直し、放送同時配信等に係る権利処理の円滑化”. BUSINESS LAWYERS. 2021-05-28.
https://www.businesslawyers.jp/articles/948
南亮一. 最近の図書館に関する著作権法改正の動向について:図書館WTでの検討を中心に. みんなの図書館. 2021, no.527, p. 17-25.
唐津真美. 図書館から各家庭への蔵書オンライン送信をめぐる著作権法改正の動向. ビジネス法務. 2021, vol.21, no.4, p. 96-100.
前田麦穂. コロナ禍は資料アクセスをどう変えたか:研究者・学生の緊急アンケートから著作権法改正まで. 図書館界. 2021, vol.73, no.2, p. 61-67.
糸賀雅児. 長尾真先生の逝去と著作権法の改正. 図書館雑誌. 2021, vol.115, no.7, p. 422-423.

 

 

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