CA1492 – 図書館での貸出有料化の問題-フランスの場合- / 宮本孝正

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カレントアウェアネス
No.276 2003.06.20

 

CA1492

 

図書館での貸出有料化の問題 −フランスの場合−

 

 「図書館における貸与権」は,著作者の権利の一部をなすものとして,フランスの著作権法に明記されている。知的所有権法典L第131-4条の規定によれば,著作者は,図書館での著作物の利用について報酬を得る権利を有するのである。

 従来この権利は単なる法律上の文言にとどまり,図書館での閲読は大目に見られていた。しかしながら,デジタル技術が普及し国境を越えての情報交換が活発化した現在,著作者は著作物の利用に対しそれ相応の報酬を受け取っていない,と感じられるようになってきた。最大多数の人々が書物と読書に親しめるようにするという図書館の基本的な役割と,著作者が報酬を得る権利との間に,折り合いを付けることが求められている。

 具体的な数値を挙げよう。フランスでは,1980年に図書館930館,登録者260万人,貸出6,000万冊であった利用形態が,1999年には,図書館3,560館,登録者660万人,貸出1億9,000万冊というように,特に貸出冊数については3倍以上に増大している。このような勢いで著作物が広まるのであれば,著作者の側から報酬の問題が提起されるのも不思議とは言えないだろう。

 2000年春,書物の専門家の間で会議が持たれた時に,激しい論議が沸き起こった。出版者と一部の著作者は,貸出という行為に対価を支払う制度を設置するよう求め,なかには図書館での貸出そのものを禁止するよう主張する著作者もいた。図書館職員は,別の一部著作者の支持を得て,そのような態度は公共機関での閲読の発展を否定することにつながる,との懸念を表明した(CA1351参照)。

 文化通信相の主導のもとで深められた協議の末,貸与権行使の原則および態様について,大局的な合意が得られた。この合意事項を法案にまとめ上げたのが,現在審議中の「図書館での貸与を名目とする報酬および著作者の社会的保護を強化する法律(案)」である。

 法案の主旨説明から要点を紹介しておこう。以下の4項目である。

  • (1)著作者および出版者,ならびに図書館に対して,法律上の認可を創設する

     欧州共同体の指令(賃貸借権および貸借権に関する指令no.92-100CEE,1992年11月19日)は,「著作者が著作物の貸出を許可または禁止することのできる排他的権利の原則を設けるよう」加盟国に義務づけているが,フランスではすでに,知的所有権に関する法律を1957年に制定して以来,この原則が確立している。欧州共同体の指令は,さらに,「少なくとも著作者が貸出の名目で報酬を受け取ることを条件として」加盟国が上記の原則に反することを容認している。今回の法案は,指令のこの例外規定に則り,図書館での著作物の貸出を名目として,著作者が報酬受給権を行使することができるよう,新しい制度の確立を企てるものである。同時に,出版者も,報酬受給権の恩恵に与ることができるものとしている。

  • (2)できるだけ多くの人が書物と読書に親しむ機会を得るという図書館の基本的な役割に鑑みれば,「支払い貸出(pret payant)」(利用料金をその場で支払う方式)ではなく「既払い貸出(pret paye)」(利用料金を別途支払い済みとする方式)の制度を設けるのが妥当である

     「支払い貸出」の方式は,最大多数の人々が書物と読書に親しめるよう努めるという図書館の役割に抵触する。著作者への報酬は,「既払い貸出」の方式により運営するものとする。報酬は,読者へ貸し出す時点ですでに報酬を管理する機関に支払われており,出資者は,国,地方公共団体,および図書館を所有するその他の機関である。同方式の概略を図に示した。

     


     

    図 「既払い貸出」方式の概略

     

     「既払い貸出」のための資金は,(a)「一括払い」と(b)「購入時払い」の2種類の財源から成る。

     (a)「一括払い」は,国による支払いの形を取る。図書館利用者の貸出対価を国が一括代金として支払うもの。登録者数の算定にあたり,公共図書館およびその他の図書館と,大学図書館とで,算定の率が異なる(公共図書館は大学図書館の1.5倍)。一括代金の総額は政令で定め,予算法による国の予算を確保する。上記の算定率は,初年度については,2分の1に設定する。

     学校や大学での閲読については,大学図書館の一括代金は低めに設定するとともに,学校図書館については「一括払い」を免除する。

     (b)「購入時払い」は,国,地方公共団体,教育・職業教育・研究機関,労働組合,企業委員会および団体が,貸出を行う施設に著作物を購入した時点で支払う。金額は,著作物の価格の6%に固定する。代価は,当該著作物を納入した業者から,報酬を管理する機関である「共同管理団体」へ振り替える。

  • (3)貸出の名目による報酬の管理は,(一または複数の)「共同管理団体」に委託する。報酬は,2種類に分かれる。1つ目は,著作権料(=印税)の名目による,著作者および出版者への直接報酬。2つ目は,著作者への後払い報酬。後者は,補助年金(retraite complementaire)制度への資金提供という間接的方法で行う

     貸与権行使のために必要とされる資金は,1年あたり2,226万ユーロ(約29億円)と見積もられている。これを以下の(a)(b)2項目として支出する。

    • (a)著作権料の支払い:タイトルごとの貸出回数ではなく購入書籍のタイトル数を基礎に勘定するものとする。この計算方法であれば,購入図書の多様性が反映できる。また,限定販売や小規模出版者にとっても不利にはならない。
    • (b)AGESSA(著作者社会保障管理協会)に加入している著作者および翻訳者に対する補助年金制度への資金提供:創作家の中で著作者および翻訳者だけが,今日に至るまでこの制度の恩恵を受けていない。そのため,著作者および翻訳者は全活動を創作や翻訳に集中できないでいる。貸与権に由来するこの資金を,50%を限度として,年金拠出金の一部とする。むろん,拠出金の残りの部分は,この制度に与する著作者および翻訳者が支払わなければならない。

     貸与権の名目で集めた金額は,共同管理の対象としなければならない。文化通信相が認可した団体のみが,支払いを請求することができる。

     (法案は,これに続けて,複写物に関する合意基準を取り上げているが,今回は割愛する。)

  • (4)書物の経済的連鎖のバランスを強化する

     「支払い貸出」でなく,「既払い貸出」を実現させるためには,書物の価格に関する1981年8月10日の法律(公共団体への書籍販売について割引の上限を設定するもの)の強化が必要である。

     公共団体が書物を購入する場合,割引が可能である。これは1981年の法律に基づく措置によるものであるが,この措置のおかげで,現在,書店側には損失が生じている。図書館市場に多数の卸売商が参入した結果,割引率の嵩上げが生じ,そのアップ率が大部分の書店に近寄れないほどの水準に達したのである。

     このような条件下で,付帯措置を欠いたまま「既払い貸出」を実施すれば,購入者である図書館は値引きに敏感になり,書店は図書館市場からの撤退を余儀なくされるかもしれない。したがって,割引については上限を設定することとする。

     公共団体の補助的負担を軽くするため,「購入時払いによる既払い貸出」は,2年以内に実施する。初年度について,値引きの上限は12%,図書館への納入業者による「共同管理団体」への振り替え率は3%とする。

     この法案(上院先議)は,2002年2月21日,国会に提出され,同年10月8日に上院を通過した。その際,法律施行の2年後に政府は国会に報告書を提出する,という条項が付加された。2003年5月現在,下院での修正案に基づき、上院での第2読会が行われている。フィンランド,英国,スウェーデンでは,図書館での貸出に起因する著作者の印税損失を補填する制度がすでに確立しているが,この法案が可決されれば,フランスもこれら3国と並ぶことになる。

調査及び立法考査局農林環境課:宮本 孝正(みやもとたかまさ)

 

Ref.

Droit de pret. Association des bibliothecaires francais. (online), available from < http://www.abf.asso.fr/dossiers/droitdepret/ >, (accessed 2003-05-06).

Non au droit de pret. Association des Directeurs des Bibliotheques Departementales de Pret. (online), available from < http://www.adbdp.asso.fr/association/droitdepret/index.html >, (accessed 2003-05-06).

Senat. Project de loi relatif a la remuneration au titre du pret en bibliotheque et renforcant la protection sociale des auteurs. (online), available from < http://www.senat.fr/leg/tas02-003.html >, (accessed 2003-05-06).

Senat. Remuneration du pret en bibliotheque et protection sociale des auteurs. (online), available from < http://www.senat.fr/leg/pjl01-271.html >, (accessed 2003-05-06).

Assemblee national. Projet de loi relatif a la remuneration au titre du pret en bibliotheque.(online), available from < http://www.assembleenat.fr/12/dossiers/pret_bibliotheque.asp >, (accessed 2003-05-06).

 


宮本孝正. 図書館での貸出有料化の問題 −フランスの場合−. カレントアウェアネス. 2003, (276), p.3-5.
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