CA1351 – 貸出の有料化について−フランス公共図書館の場合− / 宮本孝正

カレントアウェアネス
No.255 2000.11.20


CA1351

貸出の有料化について―フランス公共図書館の場合―

書物貸出の対価として,図書館は料金を支払わねばならないか?―フランス図書館界では,現在,このような議論が沸き起こっている。ことの次第はこうである。

1992年にEC(当時)理事会は「貸与権に関する指令」(Council Directive 92/100/EEC of 19 November 1992 on rental right and lending right and certain rights related to copyright in the field of intellectual property)を出した。指令は「著作物の貸出を認める権利および禁止する権利は専ら著作者に属する」とした上で,貸出に対して相応の代償を請求する権利を著作者に認めている。この原則自体は目新しいものではない。フランスの著作権法(文学的及び芸術的財産に関する1957年3月11日の法律)には,すでにそのような規定が盛り込まれている。だが,著作者も出版者も,今に至るまでこの規定の適用を想定していなかった。

フランス以外の国の現状はどうか。貸出に対して代価を支払うことは,「公貸権」として各国で制度化されている。例えば,デンマークは1946年,英国は1979年,オランダは1987年に,それぞれ法が制定されている。ドイツでは,西独時代に一時期無料のときもあったが,現在は料金徴収は容認されている。また,フランス国内でも,CDやCD-ROMの貸出は有料であり,国内の80%に上る図書館が,登録料などの名目で利用者から料金を徴収している。ただし,およそ4分の3の図書館が,未成年者については無料としている。

フランス本土の図書館は,1970年の時点で総数550館,貸出冊数3,000万冊だったが,1999年には総数3,000館,貸出冊数1億5,000万冊まで増大した。他方,書籍の売り上げは,1970年が3億冊,1999年が3億2,000万冊である。著作者や出版者にとって,図書館は,「本の売り上げの頭打ち」に対する不満をぶつけるのに絶好の標的となっている。

著作者の側に立つなら,今まで見過ごしていた権利を何とか擁護したい気持ちは理解できる。しかし,図書館から大量に借り出す人は新刊書の大量購入者でもあることが統計的に示されている。さらに,1982年にラング法(書籍の販売価格の値引を規制する法律)が施行されてから書物の値段が高騰し,その結果,図書館での利用が増大した,という指摘にも耳を傾けねばならない。

著作者・出版者側の先頭に立つ文芸家協会(会長フルネル(Paul Fournel)氏)は,フランス人の67%が有料化に賛成すると同時に法制化を望んでいる,との調査結果を援用した。これに対し,図書館側も,図書館が新刊書を購入する場合に税金が免除されるようにとの配慮から,出版者は国立図書センターの補助金を受給しているではないか,などと反論している。また,料金徴収の見返りにサービス増大を余儀なくされ,結果的に維持費の増大をもたらす,との試算もある。

1997年12月,文化担当大臣トロトマン(Catherine Trautmann)氏はフランス文化放送前理事のボルゼ(Jean-Marie Borzeix)氏に,「図書館における貸与権」について報告書をまとめるよう要請した。1998年7月に完成した報告書は,18歳以上の成人については貸与を有料化することが好ましいと結論づけ,著作者の立場に理解を示している。図書館利用者は1年につき10フランないし20フランを支払い,その総額1億フランを,著作者と出版者が「5対5ないし7対3の割合」で分配すべきだとしている。そうすれば,フランスは「こと公共図書館での読書に関しては”後進国”から脱出できるであろう」という。

報告書の発表を機に,論争は沸騰した。図書館側は読書への自由なアプローチそのものが問われていると反発,EU指令の条文は図書館の除外を認めていることを強調した。加えるに,図書館の新刊購入の割合は,新刊書一点につき売り上げ全体の20%に過ぎないと断言している。

政府は1999年中に法律制定を行うと約束していたが,未だに実現していない。おそらく,単一価格制度(日本の再販制度に相当)など,さらに広範な問題の検討に手間取っているのであろう。

宮本 孝正(みやもとたかまさ)

Ref: Le Figaro 2000.3,9
Duperrier,Alain et al. Quels choix financiers pour developper une politique de service public de la lecture et de la documentation? Bull Inf Assoc Bibl Fr (184/185) 82-106, 1999
辻由美 みんな「調べて」大きくなった(第8回) 図書館の学校 24-27,2000.8