CA1352 – WWWによる利用者教育 / 廣田慈子

カレントアウェアネス
No.255 2000.11.20


CA1352

WWWによる利用者教育

インターネット等ネットワーク基盤の普及は,図書館サービスにも多大な影響を与えている。特に図書館資料としてネットワーク情報源が利用される現在,ネットワークを中心とする情報技術(IT)に関する利用者教育,およびそうした技術を用いた利用者教育の必要性も問われている。特に,WWW(World-Wide Web)を用いた利用者教育の可能性は,従来の図書館では困難であった,「利用者が望むときに自由に」利用者教育を受ける機会を提供できること,および「図書館から離れた場所での」(distance learning)利用者教育を行えることからも注目されている。すでに海外の図書館を中心にWWWを用いた利用者教育の手法は実行されつつある。

英国の大学図書館68館を対象とした1998年の調査によれば,図書館案内は主に館内ツアーや講習会によって行われており,IT技能の指導に関しては体験型講習や講義・デモ形式によるものが主流となっている。WWWが利用者教育に用いられるのは専ら「従来の方法の補助として」(47%)であり,「電子的な配布物」として用いられている傾向が強い。WWWによる利用者教育を採用している館は,個人学習(28%)や双方向での学習(17%),遠隔学習者へのサポート(6%)を理由に挙げている。何らかのIT技能の指導にWWWを用いている館は7割近いが,「インターネット/WWWの使い方」こそWWWのみで指導しているところが目立つものの,「データベースの検索法」「検索式の立て方」「キーワードの選び方」といった技能についてはWWW以外の方法のみか,WWWとそれ以外の方法の併用がほとんどである。WWWによる方法は,今のところ補助的な役割として位置づけられている。

米国の公共図書館80館を対象に1998年に行われたインターネットの利用に関する利用者教育(利用指導)の調査では,9割を超える館が何らかの指導を行っている。方法としては,機器操作を含む講習会が8割以上となっており,WWWは3割ほどの館でしか利用されておらず,提供される内容も補助的なものが多い。先の大学図書館での調査と同様に,ITに関する利用者教育は実際の機器を用いた実践的なものが望まれている。

WWWによる利用者教育は,先に述べたように利用者が個人の都合に合わせて受けることができる。また,英国の調査でも報告されているように,資源の節減,24時間アクセスや遠隔者への対応などもWWWによる利点として挙げることができる。一方,WWWによる利用者教育を提供できない理由として,「対面式」こそ大切であるという考えや,そもそも利用者教育に適切かという疑問も挙げられてはいるが,プログラムを作成する図書館側の技能や設備などの不足といった問題が大きい。

WWWによる利用者教育の普及においては,図書館側および利用者側双方のIT技能の獲得が重要となる。特に日本ではIT導入について,公共図書館は大学図書館に比べ遅れており,また利用者教育そのものの実施率も高くない。いきおいWWW利用者教育において既存のツールが使われやすくなり,それぞれの図書館に応じた利用者教育プログラムよりも特定のIT技能などに関するものに偏りやすくなる。実際に米国の公共図書館で提供されているWWWによるプログラムの多くは,図書館以外の組織が作成したものである。現状ではWWWによる利用者教育は,ITなど特定の内容について展開されているが,それにとらわれず,図書館側がそれぞれの図書館事情に応じた内容をWWWを用いた利用者教育として提供できるかが,今後の発展に大きく関わってくるであろう。

愛知淑徳大学大学院:廣田 慈子(ひろたちかこ)

Ref: Rhodes, Helen et al. Web-based user education in UK university libraries: results of a survey. Program 34(1) 59-73, 2000
Library and Information Commission. Building the New Library Network: a report to Government. http://www.lic.gov.uk/publications/policyreports/building/index.html] (last access 2000.8.24)
廣田慈子 米国公共図書館におけるインターネット利用指導の現状 第46回日本図書館情報学会研究大会発表要綱 71-74,1998