カレントアウェアネス
No.244 1999.12.20
CA1295
統合再編が進む研究開発助成機関(英国)
−BLRICとLICの統合,そしてMLACへ−
1999年4月1日をもって,英国図書館研究イノベーションセンター(British Library Research and Innovation Centre: BLRIC,CA1094参照)は図書館情報委員会(LIC)と統合された。これによりBLRICの研究開発助成機能はLICに引き継がれ,スタッフも14名がLICに異動した。
LICは図書館情報サービス分野の政策諮問機関として1995年に設置された外郭公共団体(Non-Departmental Public Bodies)である。政府に対する勧告・答申を行うほか,図書館情報分野の研究開発戦略の策定と全国的な調整機能を担い,研究開発助成も実施している。LICの設立に伴いBLの研究開発助成の重要性が低下したことは否めない。政策立案機能と執行機能を分離することにより行政の効率化を図ろうとする英国の行政改革の一環として,政策立案機能を果たすLICと執行機関たるBLの機能を再整理した結果が,今回のBLRICとLICの統合である。これによりBLRICは,BL研究開発部からの改編後,わずか3年で姿を消すことになった。
統合後のLICの研究開発助成計画が,Library and Information Commission Research Plan 1999-2002で明らかにされている。1999年度は,BLRICとの統合,新体制への移行期と位置づけられている。重点研究領域として,1)情報へのユニバーサル・アクセス,2)電子図書館,3)生涯学習・情報化社会における情報活用能力の育成,4)図書館情報サービスの価値と効果,5)図書館情報サービスの経済性,の5分野を掲げている。1999年度の研究開発助成のための予算は,178万2千ポンドである。
BLRICが行ってきた既存の助成はLICにより継続される。BLRICは一般的な研究開発助成の他に,特定目的の研究開発に対する助成や特定機関への継続的な助成を行ってきた。例えば,「本と情報」に関する研究を対象としたBritish National Bibliography Research Fundや,公共図書館のサービス向上を目的としたWolfson Public Libraries Challenge Fundなど,外部基金の運用を受託し,特定目的の研究開発に対して助成を行ったり,ラフバラ大学のLISU(図書館統計)やバース大学のUKOLN(図書館情報ネットワーク)など,特定研究機関をセンターとする研究開発に継続的に資金を提供し,英国内の図書館情報学研究や図書館サービスの向上に寄与してきた。これらの助成は引き続きLICが実施する。
BLRICとLICの研究開発助成の一本化により,LICがBLRICの研究開発予算とスタッフを継承した。これによって,小規模組織のために必ずしも盤石とは言えなかったLICの活動基盤が強化されると期待されている。特に,政策立案機能に加えて,合理的な政策立案に欠かせない政策分析・研究機能という車の両輪を手中に収めたことにより,LICの政策答申機能は格段に充実することになろう。また,LIC自らが行う助成が拡充されたことで,LICによる研究開発の全国的調整機能も実質的な裏付けを得ることになる。
なお,行政改革という大きな潮流の中で文化政策は大幅な見直しを迫られており,LICは2000年4月には博物館・美術館委員会(Museum and Galleries Commission: MGC)と統合され,更に文書館分野をも包摂した総合的な政策諮問機関として再編される予定である。新組織の名称は,博物館・図書館・文書館委員会(Museums, Libraries, and Archives Council: MLAC)で,LICの委員長であるマシュー・エバンス(Matthew Evans)が新委員長に就任することが決定している。これに伴い,LICとMGCの研究開発助成機能が統合され,博物館,美術館,図書館,文書館の各領域を横断した研究開発助成が開始されることになる。デジタル・アーカイブに端的に見られるように,デジタル技術の浸透により,博物館,美術館,図書館,文書館それぞれに共通する活動領域がひろがりつつあり,連携して取り組むべき問題領域も拡大している。英国の研究開発助成体制は,こうした環境変化への対応を視野に入れ,もう一段のシフトが予定されているのである。
竹内 秀樹(たけうちひでき)
Ref: Lib Assoc Rec 101 (5) 260; 101 (8) 445, 1999
Meadows, Jack, Supporting library and information research, Br Lib Res Innov Cent Res Bull (22) 10-11, 1999
Library and Information Commission. [http://www.lic.gov.uk/publications/policyreports/researchplan.html] (last access 1999. 11. 8)
金容媛 英国における文化情報資源政策 駿河台大学文化情報学部紀要 6(1) 15-31,1999
柳与志夫 図書館情報学の発展における全国的研究開発助成機関の役割 図書館学会年報 42(1) 49-56,1996