カレントアウェアネス
No.244 1999.12.20
CA1294
インターネットサービスは有料か?
−課金方針の必要性−
日本では公共図書館でのインターネット閲覧が進んでいるが,英国でもインターネットへの接続が進み,1998年の調査では,90%以上の公共図書館がなんらかのかたちでインターネットに接続しており,70%弱が利用者にインターネットへのアクセスを提供している。そのような中,公共図書館のネットワークサービスのあり方が問題とされるようになってきた。EARL(英国の公共図書館ネットワークコンソーシアム)は,UKOLN(図書館情報サービスのためにネットワーク情報資源の管理に関連する研究開発や政策提言を行う機関)・英国図書館協会(Library Association)とこの問題に関連する一連の共同研究を行い,その成果をテーマ別の報告書としてウェブ上に公開している。個々の公共図書館が自館のネットワークサービス方針を決める際の指針となることがこれら報告書のねらいである。
ここでは,ネットワークサービスへの課金問題を概観した報告書を紹介したい。
1.英国の公共図書館では
公共図書館でのインターネットアクセスは,もっとも課金の対象になりやすいネットワークサービスである。英国内の最近の調査によると,ネットワークサービスを提供中の図書館のうち30%は,インターネットアクセスに対し,1時間あたり5ポンドを利用者から徴収している。しかし20%は全く課金していない。その他の図書館の状況は実にさまざまである。たとえば,利用が1時間以内なら無料だが,それを超えると課金するといった図書館がある。その一方,プリントアウトやダウンロード,電子メールの利用などの付加的サービスまで無料提供している図書館もある。
ネットワークサービスへの課金方針が図書館によってこれほど不統一なのはなぜだろうか。「公共図書館・博物館法(1964年)」は「図書館利用の便宜に対しては料金を徴収しないものとする(第8条(1))」と原則規定しているけれども,一方,同条(2)では通常のサービスの範囲を超えた便宜に対しては,料金を徴収してもよいとしている。もちろん,ネットワークサービスについては言及していない。1989年に制定された「地方自治・住宅法」の第184条は公共図書館における課金を扱っているが,目録へのアクセスを除いたネットワークサービスに対しては課金を禁じていない。一方,1997年に公表された,全国の公共図書館すべてをインターネットに接続するという雄大な図書館ネットワーク構想『新しい図書館:国民のネットワーク』(CA1181,CA1212参照)が提唱する,全国的な情報アクセスの平等という理念は,課金とうまく合わない。このように,法や提言によって課金への考え方が異なることが状況を複雑にしている。
2.有料論・無料論
ネットワークサービスへの課金の是非について,報告書はそれぞれ以下のような論点をまとめている。
(1)有料論(課金のメリット)
1)予算の削減が進む中,ネットワークサービスの無料を維持すると他のサービスを切り詰めなければならなくなる,2)図書館の価値と重要さに対する利用者の認識が高まる,3)消費者にサービス選択の自由を与える,4)徴収料金をサービスのメンテナンス費用として利用できる,5)無駄で非効率的な利用を減らし,ピーク時の料金を高く設定することにより利用の集中する時間を分散できる,6)地方行政の財政的限界を一般に周知する効果がある。
(2)無料論(無料提供のメリット)
1)図書館は公共の福祉のためにある,2)アクセスの平等を保障できる,3)社会的に必要な情報の伝達に資する,4)生涯学習社会における図書館の役割を最大限に生かせる,5)サービスの普及を求める情報サービス提供者にとって無料原則の公共図書館は魅力的なパートナーとなる,6)経済力のない子供や若者などの潜在的利用者を排除することは長期的に見て社会の損失である。
3.課金方針の必要性
前掲の『新しい図書館:国民のネットワーク(1997年)』に展開されたビジョンは『新しい図書館ネットワーク構想(1998年)』によってさらに具体化された。この中では公共図書館の利用に適するコンテンツ作成について国営宝くじ基金から優先的に5億ポンドを支給するということ,そして,この基金により作成されたコンテンツはすべて無料提供することが提言された。他方,この構想は「基本的アクセスは無料であるべきだが,付加的サービスへの課金は正当と認める」と前掲の「地方自治・住宅法」に沿った見解を提示しており,図書館が全面的な無料原則を維持していくことは困難な状況である。
しかし,アクセスへの課金は,地域それぞれの状況を踏まえて決定すべき問題である,と当報告書は述べる。そして「ネットワークアクセスについてあなたの図書館ではどんな意見が出ているのか」「地域的に優先すべき目標はあるのか」といった段階的な質問に答える中で個々の図書館が取るべき課金方針が明確になるようなワークシートを提示している。このワークシートは英国政府が1998年に導入した『公共図書館計画』に基づいて作成されたものである。
各図書館が,国内の公共図書館ネットワークとの関係を意識した上で,主体的に自館の課金方針を定めることこそが大切だ,という主張は示唆に富むものである。
櫻井 理恵(さくらいりえ)
Networked Services Policy Task Group Survey.
朝日新聞 1999. 10. 14(朝刊)