CA1394 – ネットワーク社会における公共図書館の役割−英国の戦略− / 五十嵐麻理世

カレントアウェアネス
No.262 2001.06.20


CA1394

ネットワーク社会における公共図書館の役割―英国の戦略―

英国政府の計画では,2002年までに,4,300の公共図書館に3万台の端末が設置される。これにともない,英国国民は,近所の公共図書館からインターネットを利用して知識や技能を磨き,キャリアアップすることができるようになる。

英国の図書館情報委員会(Library and Information Commission : LIC)は1997年10月,「新しい図書館:国民のネットワーク(New Library : The People's Network)」を発表し,公共図書館が情報社会で中心的な役割を担うとし,設備や職員研修にまで及ぶ抜本的な転換の必要を述べた(CA1181参照)。これに対して,英国政府は1998年4月,政府側からの「回答」を発表し,支援の姿勢を示した(CA1212参照)。政府の積極的な姿勢を受けてLICは同年10月,「新しい図書館ネットワークの構築(Building the New Library Network)」をまとめあげ,コンテンツ開発,研修,ネットワーク基盤の三つに分けて,詳細な計画を明らかにした。今,その計画は具体的な実行段階に入っている。

「国民のネットワーク」プロジェクトチームは,重複のない経済的なコンテンツ開発のため,主題ごとのコンソーシアムを設け,検討を進めている。他の情報関連機関との協力や業者との権利交渉も行っている。また,「国民のネットワーク」のウェブサイト(People's Network Web)を設け,ネットワークに関するガイダンスやアプリケーションに関わる基本的技術の紹介,FAQ(よくある質問とその回答)や他の情報資源へのリンク集などを提供している。また,英国のすべての図書館に関する情報を「ネットベース(NETbase)」というデータベースに集積している。

各公共図書館も積極的な参加を求められている。各館は,最低2メガbps(ビット毎秒)のネットワークに接続したインターネット端末を整備する。図書館員は,「欧州コンピュータドライビングライセンス(European Computer Driving Licence)」(情報処理技能に関する国際的な資格)の基礎レベルの資格を有するなど,相応の知識を持ち,必要に応じてさらに高度の研修を受講する。各館は職員の研修計画を企画して提出する。

そうしたなか,2000年9月にはブレア首相が,政府の情報化政策である「UKオンライン(UK online)」を進めるうえで,「国民のネットワーク」をはじめとする図書館プロジェクトが重要な役割を果たすと述べた。

「UKオンライン」では,国民が知識や技能をインターネットによって習得できることを目指している。具体的には,すべての公共図書館を含む6,000以上の「UKオンラインセンター」を整備し,インターネットの利用方法などを指導する。また,1,000の「ダイレクト学習センター(learndirect centre)」を設け,職場や家庭から生涯学習のコースへのアクセスを可能にする。2002年までに年間100万のコースが準備される予定である。

また,10億ポンドともいわれる予算をかけ,2005年までにすべての行政サービスをオンライン化する計画である。この「UKオンライン」を進めるにあたっては,誰でもインターネットを利用できるようにすることが必要であり,その方策が模索されている。例えば,ウィルス(Michael Wills)学習・技術担当副大臣(Minister for Learning and Technology)は,12台のコンピュータを装備したトレーラーで,経済的に恵まれない地域を回り,コンピュータやインターネットについて学んでもらうという,「ビッグトッププロジェクト(Wilkinson's Big Top Learning Gateway)」を始めた。

もちろん,国民の多くが情報収集に利用している図書館が有効な役割を担いうるのは明白である。公共図書館には,ICT(情報通信技術)の基盤やコンテンツを整備するだけではなく,利用者に対して研修(学習)機会を提供することも期待されている。

そのためには,図書館は従来以上に利用者の声に耳を傾け,地域と密接なコミュニケーションを保っていかなくてはいけない。1999年7月から三つの図書館を対象に行われたICTに関する意識調査の結果が示すように,地域の環境や利用者の職業,年齢などによって求められる情報サービスは異なり,それによってICTの利用状況も異なるからである。

具体例を一つ挙げれば,ベルファスト公共図書館は,1998年,電子情報資源や研修コースにアクセスできるサイトを立ち上げた。1999年には,既にICT研修コースを提供していたベルファスト生涯・高等教育協会とソフトウェア産業委員会の協力を得て,公共図書館では初の,コンピュータ利用と情報技術,「欧州コンピュータドライビングライセンス」の2コースの提供を開始した。他機関との連携によって,設備や予算の面でも成功したといえるこの実績を基に,ベルファスト公共図書館は,さらなる充実を図っている。

わが国でも各自治体で「IT講習会」が始まったが,公共図書館の関わりはどうなっているだろうか。その動向には注目する必要があるが,英国の状況との比較も興味深い。

五十嵐 麻理世(いがらしまりよ)

Ref: The People's Network: public libraries take a central role in getting the UK Online. Inf Retr Libr Autom 36(5) 1-2, 2000
Prime Minister launches campaign to get 'UK online'. Inf Retr Libr Autom 36(5) 8, 2000
Todd, M. et al. Training courses for ICT as part of lifelong learning in public libraries. Program 34(4) 375-383, 2000. 10
Eve, J. et al. VITAL issues: the perception, and use, of ICT services in UK public libraries. Libr Inf Sci Res Electron J 10(2) 2000 [http://aztec.lib.utk.edu/libres/libre10n2/vital.htm] (last access 2001. 4. 20)
LIC. Building the new library network: a report to government. 1998.10 [http://www.lic.gov.uk/publications/policyreports/building/] (last access 2001. 4. 12)
UK online [http://www.ukonline.gov.uk/] (last access 2001. 4. 12)
learndirect [http://www.learndirect.co.uk/] (last acess 2001.4.12)