カレントアウェアネス
No.223 1998.03.20
CA1181
イギリス公共図書館ネットワーク構想
イギリスで,公共図書館ネットワーク構想についての報告書「新しい図書館: 国民のネットワーク」(New Library: The People's Network)が1997年10月に政府の図書館情報委員会(Library and Information Commission: LIC)より発表された。この構想は,イギリスの公共図書館すべてをインターネットに接続させ,図書館ネットワークを構築し,それを全英情報インフラストラクチャーにリンクさせるというものである。実現には,7年間,約7億7,000万ポンドの資金が必要とされており,中央・地方政府と民間企業などの基金でまかなう。また,公共図書館ネットワーキング庁(Public Library Networking Agency)の創設を提案しており,全英情報ネットワーク推進の調整,アクセス可能な情報やサービスの取得・開発などの任務を担うことになるという。
LICのエバンス(Matthew Evans)委員長は,「紙の形態による資料はこれからもわれわれの生活や文化で中心的役割を果たし続ける。しかし,教育,レファレンス,中央・地方政府などの関する情報を中心に,電子媒体によるアクセスやデリバリーの増加に伴い,公共図書館の機能は転換を迫られている。転換により,公共図書館は進展する情報社会で中心的な役割を担っていくのである」と述べている。
この報告書のなかで,将来,公共図書館が担うべき役割として以下のことがあげられている。
- あらゆる人々にネットワーク社会の恩恵を提供する場
- 地域情報センターとして,文化・娯楽・生活関連情報などの提供によるコミュニティへの貢献
- 学習情報の提供および学習者への支援を通じた教育への貢献
- 紙媒体から電子媒体まで,教育,ビジネス,調査研究といったあらゆる情報ニーズに応じられる「最初の拠り所」(first resort)
- 国民が民主主義の形成過程に参加できるよう,国内外の情報・サービスにアクセスでき,中央・地方政府,議員との意見交換のできる場
この報告書に対する専門家や図書館界の反応は,概して好意的で,報告書の示す方向を積極的に支援していく姿勢を示している。いっぽう世論調査によると,国民は新技術下での図書館の役割よりも従来のサービス,開館時間の延長や課金,資料の貸借といった問題に関心を示しているという。また,図書館ネットワークの構築により,情報格差が解消されるという考え方に対して疑念を抱く者もいるようである。
公共図書館ネットワーク構想より先に,教育計画「全国教育ネットワーク」(National Grid for Learning)が発表された。これは,学校相互をリンクする全国的なネットワークの構築計画であり,そのなかで公共図書館はコミュニティにおけるネットワークへのアクセスポイントとして位置づけられている。具体的には,「全国教育ネットワーク」に参加し,学校との連携により,知識取得のための援助,子供や学生・住民が世界の情報源にアクセスし,意見交換を行うことへの支援などがあげられる。
このように,イギリスでは,公共図書館が情報社会のなかで担うべき役割は大きい。情報技術(IT)への対応という問題にとどまらず,もともとあらゆる知識や情報へのアクセスの機会を保障することを理念とするのが公共図書館である。21世紀にむけて公共図書館のサービスを全般的に見直し,再定義すべき時期にきている。
長嶋 佐央里(ながしまさおり)
A national network for the people. Libr Technol 2 (5) 87, 1997
Analysis: online future: the library without walls. Guardian 1997. 10. 16
New library : the people's network. Library and Information Commission.