CA1180 – 図書の切り取りとその対処法 / 藤田英樹

カレントアウェアネス
No.223 1998.03.20


CA1180

図書の切り取りとその対処法

様々な館種の図書館が直面している図書の盗難・切り取り問題について,そのパターンと対策の提言がモズリーらによりLibrary Journal誌に報告された。報告では,全米74館の図書館員に対してインターネットを通じて行った質問に対する回答の分析を基に,盗難・切り取りをその動機・背景から次の5つに大別している。1)経済的事情からの窃盗。就職・資格試験本が主に対象となる。2)学生・研究者などが手っ取り早く,必要な図・写真を論文中から切り取るもの。期日に追われる・発表を他に先んじなくてはならない学問上の競争が背景にある。3)借りる際に職員らの目を気にして,あるいは貸出カードなどに記録が残るのを気にしてセックス・性病に関する図書などをつい盗むもの。4)入手困難な図書(絶版・外国の版元への注文が必要など)の盗難。5)特殊な主義・信条・価値基準を持つ人(書籍収集マニア・公権力への敵意を抱く人・論争中の宗教や政治団体など)による盗難・切り取り。

このような盗難の放置は必然的に限られた予算を圧迫し,館の信用を低下させる。報告では,質問に対する全米各館からの回答から31種の対応策を提案している。それらを内容別に分けると以下のようになる。

1)盗難を見逃さず,必ず処罰する仕組み作り: 盗難の恐れの高い資料の目録を作成しておき,それらの資料を定期的に点検する。所蔵資料に蔵書印を付け,盗難後古書店に持ち込まれた場合には連絡をしてもらう。警察などの機関に協力してもらい館内の死角の指摘及び改善の提言をしてもらう。平時から警察と積極的な関係を確立しておき,盗難発生の際の通報手順を明確にする。地元議会に対し図書の窃盗・破損に対する刑罰を重くするよう働きかけるなど。

2)自館の危険要因・狙われる資料についての情報収集と対応策の検討・実施: 地域の書店や他の図書館と連絡を取り,ねらわれやすい図書についての情報を得て,それらを目の配りやすい場所に配置し,定期的に監視する。必要があればIDカードを預かり監視を付けた上で閲覧させるなどの利用制限を設ける。ルーズリーフ形式など形態上被害に遭いやすいものは製本するなど。

3)設備・管理システムの改善: 見通しの良い通路,出口,書架配置,(そこから図書が持ち出されないようにした)密閉性の高い窓など建物の死角を排除する。目録のデータベースにはファイアウォールを設けたり,プロテクトをかけるなどして外部・内部の不正使用を防ぐ。紛失資料に関する記録を保持し,検索できるような機能を備えたシステムを導入するなど。

4)職員教育の徹底・職員による犯行防止: 職員にはカウンターの外に出て,常連との会話などからサービス上の問題点を把握するように努めさせ,同時にサービスへの不満から発生する窃盗を防止する。四六時中職員の目があれば,窃盗・切り取りは行われにくい。内部の人間の犯行への対策としては,資料に接触するのは誰なのかを把握すること,目録に載ってない未処理の資料のセキュリティの確保,監視者自身を監視するという問題の解決,更には職員(非常勤を含む)・館の工事関係者・ボランティアなどに対する犯罪歴のチェックを警察に依頼するなど。

5)資料収集政策面での対応: 予算中に紛失・盗難資料の補充のための軸となる費目を計上する。失われた資料の補充には費用がかさむことを広報する。貸出期限切れ図書の回収業務を,亡失資料の補填と考えて積極的に行う。資料のバランスに配慮し,意見の対立する問題に関しては双方の立場の資料を揃える。盗難の危険が高い試験問題集の類は一部のみ購入して貸出を制限し,一方で売店や友の会などを通して利用者に原価販売する。十分な数のコピー機を設置するなど。

6)その他: 損害保険への加入,安易に保安要員の雇用などを行わない,返却図書のチェックを正確に行って利用者に不快な思いをさせないなど。

報告では,よく盗難・切り取りにあうジャンルなどもリストアップされている。我が国では,不明本対策としてBDSの導入などが進められている。提案された対策をわが国にそのまま導入できるわけではもちろんないが,機械的な対策をとる前に,まず実態をよく把握し,現状に合った具体的できめ細かな対策を考えることが必要なのではあるまいか。

藤田 英樹(ふじたひでき)

Ref: Mosley, S. et. al. The “self-weeding” collection: the ongoing problem of library theft, and how to fight back. Libr J 121 (17) 38-40, 1996