CA1176 – WIPO条約後の米国著作権法 / 川西晶大

カレントアウェアネス
No.223 1998.03.20


CA1176

WIPO条約後の米国著作権法

米国では,1996年12月に世界知的所有権機関(WIPO)著作権条約が採択されたのを受けて,WIPO著作権条約施行法案が1997年7月に上下院にそれぞれ提出された(H. R. 2281, S. 1121)。この法案では著作物保護のための技術的手段を回避すること,及び,回避のための技術を製作し売買することを禁止する規定,著作権管理情報の保護に関する規定等が盛り込まれている。

また,オンラインでの著作権侵害に対応するため,オンライン著作権責任制限法案(H. R. 2180)も下院に提出されている。この法案は,著作権侵害の責任を,一定の条件のもとで,利用者に代わり,侵害について物質的に寄与しているプロバイダに負わせようとするものである。プロバイダには,オンラインサービスへのアクセスを提供している図書館や教育機関も含まれる。

アメリカ図書館協会は,これらの法案に対して反対の意思を明確にしている。主張の理由は次のとおりである。著作物保護のための技術的手段を回避するための技術は法律で認められている公正使用の際に使用されることもあり,技術自体の製作を禁止することは,公正使用の制限にもつながる。偶発的に起こる著作権管理情報の改変まで責任を問うのは行き過ぎである。利用者の著作権侵害については,図書館ではなく利用者が責任を負うべきである。

これら図書館側の主張を取り入れた法案(S. 1146)が上院に提出されている。この法案では,先に述べた主張に加え,公正使用原則のデジタル環境への適用,ネットワーク利用における一時的複製についての著作権の適用除外等を規定している。

米国の動きがどのように決着するかはまだ不透明だが,EUでは1997年12月にすでに一時的複製に係る複製権,「公衆への伝達」権,技術的手段に関する規定,著作権管理情報の保護等を内容とするディレクティブ草案が発表されている。デジタル環境における図書館のあり方にも大きく関わる問題だけに,図書館としては,今後とも各国の動向を注視する必要があるだろう。

川西 晶大(かわにしあきひろ)

Ref: New US Copyright Bill. Inf Manag Rep 5-6, 1997. 12
Digital Copyright Act introduced in Senate. Am Libr 28 (9) 13, 1997
House holds hearings on cyberspace copyright. Am Libr 28 (11) 11, 1997