CA1232 – 「適切なバランス」を確保した米国著作権法 / 川西晶大

カレントアウェアネス
No.233 1999.01.20


CA1232

「適切なバランス」を確保した米国著作権法

米国では,1998年10月末にデジタル新時代著作権法案(Digital Millennium Copyright Act:DMCA)と著作権保護期間延長法案が相次いで成立した。後者の法案は,著作権の保護期間を延長するものである(例:個人の著作物については現在の著作者の死後50年から70年とする)。ただし,保護期間の最後の20年間の,図書館等での一定の利用については,制限規定が設けられた。なお,日本国内における米国著作物の保護には,原則として日本の著作権法の保護期間が適用されるため,この改正により変更が生じるわけではない。

DMCAは,CA1176で紹介したWIPO著作権条約施行法案を第1部とし,オンライン著作権責任制限法案を第2部として統合した上で,第3部以降にいくつかの条項を加えたものである。

第1部で定められている主な点は,(1)他国で最初に固定された,又は出版された著作物の保護,(2)コピープロテクション解除技術の流通,作成の禁止,(3)誤った著作権保護情報の流布の禁止の3点である。第2部で定められている主な点は,一定の条件の下でオンラインプロバイダが著作物の一時的蓄積及び伝送について著作権の侵害の責任を負わないということである。第3部以降で図書館に関連する改正としては,次の3点について図書館に関する著作権法の例外規定を改正することがあげられる。(1)保存目的及び損傷資料を置換する目的での複製については紙の複写に限らないものとし,また3部まで許されること,(2)保存目的及び置換目的で複製できる資料に,そのフォーマットでは配布されておらず図書館外では入手不可能な資料を加えること,(3)置換目的で複製できる要件として,そのフォーマットで再生するのに必要な機器の生産が中止され,市場で入手不可能となった場合を含めること。

WIPO著作権条約施行法案,オンライン著作権責任制限法案ともに1997年7月から議会での審議が行われてきたが,ALAや利用者側の団体の連合体でありALAも参加しているデジタル・フューチャー・コアリション(Digital Future Coalition:DFC)は,法案の審議にあたって猛烈なロビー活動を繰り広げた。利用者側が特に要求したのは,コピープロテクション解除技術の禁止に例外条項を盛り込むことである。この技術の流通,作成を禁ずる条項には,最初の案では例外規定が入っていなかった。このため,著作権の対象となっていない情報にアクセスする場合や,図書館において資料の保存のため必要な場合などにこの種の技術を作成し,使うことについても,著作権法違反とされる危険性があった。

利用者側の強い働きかけにより,最終的には,この条項の適用がDMCAの施行の日から2年後に延期され,施行から5年の間に,米国著作権局を所管する米国議会図書館長が商務省と協議の上,著作物の利用や市場流通に対する影響等法律に定められた要素を勘案し,適用除外とされる種類の著作物について規則を制定することとなった。

利用者側が要求した中で重要なもう一つの点は,現在著作権のないデータベースにも権利を認める改正を外すことである。今までデータベースのうち著作権の保護が認められるのは,データの選択,配列に創作性があるものに限られていたが,この改正は,すべてのデータベースの製作者にそのデータベースの市場に影響を与えるような全部又は重要な部分の抽出又は使用に関する排他的権利を与えるものであった。この改正は,利用者側の強い反対によって,成立直前に法案から削除された。

このように修正されたDMCAの成立には,ALA,DFCといった利用者側も,出版社の団体であるアメリカ出版社協会(Association of American Publishers:AAP)も,基本的に歓迎の意を表している。DFCはその報道発表資料において,DMCAは,コンピュータの安全性検査,相互運用を実現するためのリバースエンジニアリング,個人のプライバシー保護,インターネット上の少数者に対する保護,図書館及び文書館による資料の保存のような重要な活動を守るものであると評価している。

一方で,AAPの報道発表資料では,データベースの保護に関する規定が最終段階で成立に至らなかったため,次期議会に引き継がれたことにも言及されている。この問題は,引き続き出版社と図書館の重大な関心を集めることが予想される。また,コピープロテクション解除技術禁止規定の例外に関する規則の内容も,今後の検討に譲られているため,この内容をめぐって論議が交わされることも考えられる。DMCAは著作権者と利用者のバランスによく配慮した形となったが,今後も「適切なバランス」をめぐる両者の争いは続くだろう。

川西 晶大(かわにしあきひろ)

Ref: American Libraries Online News briefs for June 29, July 27, August 10, October 12, October 19 [http://www.ala.org/alonline/news/] (last access 1998. 10.29)
Passage of the Digital Millennium Copyright Act (Digital Future Coalition Press Release) (last update 1998.11.5) [http://www.dfc.org/issues/wipo/pr101698/pr101698.html] (last access 1998.11.16)
Publishers Celebrate Big Win with Final Passage of WIPO Bill (last update 1998.10.20) [http://www.publishers.org/home/press/bigwin.htm] (last access 1998.10.29)