CA1187 – 在パリ日本研究図書館に於けるJ-BISC利用−−コレージュ・ド・フランス日本学高等研究所の場合−日本関係情報の現状(7)− / 松崎碩子

1990年10月,国立国会図書館ではじめてJ-BISCのデモンストレーションを拝見させて頂いた。この時,機械に疎い私も,なんと便利なもの,とテクノロジーの進歩に目を見張るのみであった。全集や叢書の内容も入力されているので,「ヴァレリー全集」第6巻収録の小論文「コレージュ・ド・フラン…

カレントアウェアネス
No.224 1998.04.20

 

CA1187

在パリ日本研究図書館におけるJ-BISC利用
――コレージュ・ド・フランス日本学高等研究所の場合
−日本関係情報の現状 (7)−

1990年10月,国立国会図書館ではじめてJ-BISCのデモンストレーションを拝見させて頂いた。この時,機械に疎い私も,なんと便利なもの,とテクノロジーの進歩に目を見張るのみであった。全集や叢書の内容も入力されているので,「ヴァレリー全集」第6巻収録の小論文「コレージュ・ド・フランスにおける詩学教授」まで検索でき,非常に感心したものである。フランスで自力で入力した場合,なかなかそこまで詳しく入力できない。それで,パリに戻るや否や,関係者にJ-BISCの宣伝を大いにした。しかし,当時,海外でJ-BISCを使用するにあたり大きな問題があった。つまり,J-BISCは日本製の機械でしか使用できなかったのである。日本製の機械はたとえ購入できても維持の問題が残る。そこで,J-BISC使用をやむなくあきらめていたところ,非常に良い話が持ち上がった。コレージュ・ド・フランス極東研究所で,それ迄中国語図書のコンピュータ化を手がけてきたユベール・ドゥラエ氏が日本語図書のコンピュータ化を行って下さるという。幸い,国際交流基金の招聘を受けることができ,1992年春より約1年東京で調査研究することとなった。

図らずも,この1992年頃の日本では,互換性のあるIBMにDOS/Vをインストールして使用することが多くなっていた。DOS/Vをインストールすれば日本語の環境ができる。ドゥラエ氏は日本図書館協会の遠矢勝昭氏に海外でも容易くJ-BISCが使用できるようにして欲しいと訴えた。その功が奏したのかどうか,DOS/Vに対応するJ-BISCの検索ソフトが開発され,1993年春には実験的に使用できるようになった。

J-BISCを目録作成に使用する際,ローカルデータベースとの関わりが問題となる。コレージュ・ド・フランス極東研究所では,先に,中国語図書目録作成のためのプログラム「アジア」(ユニマーク対応)が開発されていた。ドゥラエ氏は日本より持ち帰ったJ-BISCのベータバージョンをもとに,J-BISCからUNIMARC対応の「アジア」にデータを落とすべく検討を重ね,1994年夏より,日本語図書の目録がJ-BISCを使用して「アジア」に入力できるようになった。

海外において日本語図書目録をコンピュータ化するのにJ-BISCを用いるのは理想的である。上記のように内容のフィールドの記述が詳しいので全集や叢書が多い当館などには大変便利である。それに人名の読み方が表記されているのも非常にありがたい。一般にフランスの日本関係図書館では人員が足りない。それで,なかなか目録のコンピュータ化まで手が廻らないのが実情であるが,当館では,1994年以降3年間に,少時間のアルバイト人員で1万件あまりのデータをJ-BISCからの「アジア」に入力することができた。もし,J-BISCを使わず,自力で入力していたら,データの内容も簡単なだけでなく,これだけの件数を入力するのにもっと時間と労力を要したであろうし,記述の誤りも多かったに違いない。それに,オンラインやインターネットでは日仏間の時差の関係でアクセスできる時間に制約ができてしまうが,CD-ROMはいつでも好きな時に好きなリズムで使用できるので,マイペースで落ち着いてアクセスできる。少ない人員で多くの仕事をやりくりしなければならない海外の研究所にとって,J-BISCはこの点においても便利である。

しかし,J-BISCにも欠点が無い訳ではない。出版地,出版社,それに一部の著者名や叢書名がローマ字化されていない。当地では他の言語の目録との兼ね合いもあり,これらの項目のローマ字による記述が必要である。そこで,当館では,それらを手入力で追加している。

さて,このJ-BISCを用いて作成した図書目録は1997年夏より,インターネットでアクセスできるようになった(http://dodge.upmf-grenoble.fr:8001/interrjapo/html)。これは,フランス国立科学研究センター(CNRS)人文・社会科学部門主宰の人文・社会科学系専門図書館総合目録(Catalogues collectif des Ouvrages: CCO)の一環としてである。CCOは1989年に始まったプロジェクトで,人文・社会科学分野の60以上の図書館が参加している。CCOの目録は,参加図書館が各自のプログラムで目録を作成したものがインターネットで図書館別に見られるようになっていて,現在40万件余りの書誌が検索できる。コレージュ・ド・フランスでは,日本学高等研究所のほか,漢学研究所や民族学研究所等現在6館の専門図書館がこの総合目録に参加しているが,将来,他の研究所の目録も含め,各種多様のプログラムの互換を可能とするZ39.50を使用してまとめる計画も検討されている。

J-BISCのDOS/V対応の検索ソフトが開発され,海外での使用を可能にしたことは,日本研究の国際化の上で大変重要な役割を果たしている。J-BISCは,目録作成のためばかりでなく,研究の書誌情報検索にも非常に役立っている。つまり,遠く離れた海外で日本について調査・研究する時,J-BISCはまさにその橋渡しをしてくれるのである。

(本稿執筆にあたり,ユベール・ドゥラエ氏にお世話になった。厚く御礼申し上げる。)

コレージュ・ド・フランス日本学高等研究所:松崎 碩子(まつざきせきこ)