カレントアウェアネス
No.224 1998.04.20
CA1182
UNIverseプロジェクト
EUが推進するUNIverseプロジェクトについて,紹介する。
位置づけ
欧州委員会第13総局(用語解説T13参照)のうち,情報技術の応用を担当するC局(DirectorateC-Telematics Applications)はさらに,12のサブセクションに分かれている。その1つ図書館(Libraries)は,EUの総合的な研究開発計画である第3次フレームワーク計画(1990-1994)の下で52の,第4次フレームワーク計画(1994-1998)の下で21のプロジェクトをかかえている。UNIverseは第4次計画のひとつとして位置づけられている。
UNIverseは通称であり,正式名を“Large Scale Demonstrators for Global, Open Distributed Library Services”という。その目的は,「仮想的なユニオンカタログ」の構築である。つまり,世界各地に物理的に散在する書誌データベース群がかかえる非統一性(蓄積方法,アクセス方法そして言語)や,情報の相互重複といった問題をブラックボックス化し,エンドユーザ(図書館職員および利用者)から見て,統一的な世界規模の目録データベースが存在するかのように見えるシステムを研究開発しようというものである。
UNIverseプロジェクトの推進委員会(Consortium)は,英国図書館など6のフルパートナーと,11のアソシエートパートナーから構成される。国としては,EUのうち6カ国(イギリス,オランダ,アイルランド,ギリシャ,デンマークおよびルクセンブルク)とノルウェーが参加している。実際の開発は,フルパートナーの1つであるイギリスのFretwell-Downing Data Systems Ltd.が担当する。期間は1996年10月から30ヶ月にわたると定められている。
歴史的経緯
UNIverseは,先行するいくつかのプロジェクト,とくにIRISおよびDALIの発展と見なされている。IRISは,Z39.50(注1)をベースにした初期の情報検索システムで,ネットワーク上に散在する複数のデータベースの分散検索を実現する。DALI(Document and Library Integration)は,上記の第3次フレームワーク計画の1つとして,1995年1月にスタートしている(96年12月に終了)。DALIはIRISの分散検索に加え,マルチメディアのドキュメントデリバリー・サービスを目的とし,ILLプロトコル(注2)をTCP/IP上に実装した。
構成と特長
UNIverseはこれらのプロジェクトの発展型として,以下のように,より複雑な特長をもつにいたっている。
〈1〉Z39.50プロトコルによる分散検索
〈2〉Z39.50とWWWの統合
〈3〉UNICODE(統一文字コード)による内部処理
〈4〉UNIMARC等各種MARCの相互変換
〈5〉ILLプロトコル
〈6〉マルチメディアのドキュメントデリバリー・サービス
〈7〉多言語辞書
〈8〉ISSNおよびURN(注3)等による重複情報の除去
〈9〉JAVAによるプログラミング
なお,以下は今後の課題として見送られた。
〈1〉ストリームデリバリー(注4)
〈2〉暗号化技術による信頼性の確保および情報資源の所在情報を提供するディレクトリサービス
〈3〉課金
意義
IRISからUNIverseにいたる一連のプロジェクトがめざすシステムの実体は,簡単にいえば,いわゆる「3層データベース」構造,すなわちクライアント側のアプリケーションと,データベースサーバの間に,何らかの中間的処理を行うアプリケーション・サーバを割り込ませるものである。既存の各種プロトコルを活用すること,多言語問題を中間サーバのレベルで克服しようとすることなどに,現在のヨーロッパにおける情報化の技術動向が窺える。
UNIverseは,1998年7月から実験を開始し,50以上の図書館が参加する予定である。(構造に関する詳細な説明は割愛する。Murray et al.の文献p.56の図がわかりやすいので,参照されたい。)
中山 信一郎(なかやましんいちろう)
Ref: Murray, Robin et al. The UNIverse Project. New Library World (1133) 53-59, 1997
Clissman, C et al. The UNIverse Project: state-of-the-art of the standards, softwares and systems which underpin the development. Part 1: Z39.50; WWW Integration with Z39.50; and Unicode. New Library World (1138) 267-274, 1997
http://www.fdgroup.co.uk/research/universe/ (Fretwell-Downing Data Systems Ltd.のサイト)
http://dallas.ucd.ie:80/~dali/ (ダブリン大学のサイト)
(注)
1. Z39.50: ANSIで規定されているネットワーク上でのデータ検索・取得のためのプロトコル(CA931および特集:Z39.50 情報の科学と技術48(3)1998参照)。
2. ILL: Inter Library Loan Protocolの略で,ネットワーク上での資料の相互貸借,複写サービス,ドキュメント・デリバリー・サービス等に関する国際規格(ISO 10160/10161)。
3. URN: Uniform Resource Namesの略で,インターネット上の情報資源を識別するための記号(http://leviathan.tamu.edu:70/OZ/internet/rfcs/rfc1700/rfc1739.txt.gz参照)。
4. Stream Delivery: 音声・ビデオのような,送信しながら同時に観賞できるデータ配信の方法で,一括送信の後に受信側でのデータ利用が可能になるドキュメント・デリバリーの対概念。