カレントアウェアネス
No.225 1998.05.20
CA1191
NSP−オーストラリアの全国図書館ネットワークプロジェクト−
オーストラリア国立図書館(NLA)では,ABN(Australian Bibliographic Network)に代わる新しいオンライン書誌情報ネットワークの在り方を模索していたが(CA1010,CA1071,CA1108参照),1998年1月,NSP(Networked Services Project)と名付けたサービスを1999年の第1四半期に開始すると発表した。
1970年代後半に開発されたABNは,現在約1,400の図書館を結び,1,300万レコードの書誌情報と,2,700万件の所蔵情報を有し,書誌ユーティリティとして非常に上手く機能しているが,システムそのものは時代の要請に応えられなくなっており,更に“西暦2000年問題”にも直面している。
その問題を解決するため,1995年頃からニュージーランド国立図書館と協同してNDIS構想を提唱,96年には“World 1”というサービスのブランドまで発表していた。NDISは,今までのABNが持っていた図書館ネットワークの諸機能だけではなく,一般利用者を想定したより広いサービスを提供することを目指していた。ところが,1996年末にそのプロジェクトの凍結が突然発表された。凍結の詳しい経緯は,法的な制約もあってか公表されていない。
しかし,やはりオーストラリア図書館界には資源共有を進めるための新システムが必要であるとの認識のもと,1997年1月には新たにNSP構想が提言された。新構想では,一般利用者よりも,図書館のニーズが強く意識され,書誌ユーティリティとILL,ドキュメントデリバリー機能が最重要課題として挙げられている。
その後,約1年の検討の後,NLAは,1998年1月にNSPシステム全体については,IBM GSA(Global Services Australia)社・IBMオーストラリア社と6年間で1,380万豪ドルの契約を,次いで3月末に,ILLシステムについてイギリスのFretwell-Downing Infomatics社と5年間,110万豪ドルの契約を締結したことを発表した。
今回,IBM社側は,ハードウェア,ソフトウェアの提供,データの移行,情報技術関連のサポートを行うことになっており,基礎となるソフトウェアはAMICUSを用いる。AMICUSはカナダ国立図書館とカナダのCGI社が中心になって開発した図書館統合管理システム(CA957参照)であり,大容量の書誌レコードの管理と総合目録に関する機能にすぐれ,最近英国図書館やハンガリー国立図書館でも採用を決めている。システムは段階を追って開発されていくが,最終段階に至ったときには,次のような機能が期待できる。
- 同時に1,000のユーザーアクセスを可能とし,1,500万以上の典拠レコードと書誌レコードを処理できる。
- 一つの統合されたデータベースとしても,個々のファイルとしても検索が可能である。
- WWWを用いた検索機能を持つ。
- Z39.50を用いて,外部のデータベースをコピーカタログのソースとして使うことができる。
- UNICODEをサポートする。
- 重複したレコードに関し,すぐれた処理機能を有する。
また,ILLシステムについては,ISOのILLプロトコルに準拠したOLIB VDXソフトを採用するが,これは既にEUやLASER(ロンドン及び周辺地域の相互協力組織)での実績があり,BLDSCでも採用が決まっている。
NSPについては,NLAのホームページで刻々情報が公開されている。NDISの轍を踏まないよう,ABNからNSPの移行がスムーズに進むかどうか問われるところである。
原田 圭子(はらだけいこ)
Ref : New national system ? AMICUS come in first. Nat Libr Aust Gatew (31) 1-2, 1998.
“Networked Services Project” National Library of Australia Homepage. http://www.nla.gov.au/nsp/ (last access 1998. 4.20)