CA1280 – ABNからKINETICAへ / 原田圭子

カレントアウェアネス
No.242 1999.10.20


CA1280

ABNからKINETICAへ

オーストラリアでは,1999年10月15日,全国書誌ネットワークABN(Australian Bibliographic Network)のILLサービスシステムが稼動を終了し,9月8日から試験的に稼動している,KINETICAのドキュメントデリバリーシステムに完全に移行する。これをもって,ABNは約17年の歴史を閉じることになる。

  • 既報の通り,オーストラリア国立図書館(NLA)では,1995年ころから,1981年に導入されたABNに代わる新しいシステムの導入を模索しており,NDIS構想(CA1010参照)からWORLD 1 構想(CA1071CA1108参照)を経て,1998年1月には,新しいサービスNSP(Networked Services Project)を1999年第1四半期に開始すると発表していた(CA1191参照)。

新しいサービスの名称は,その後“KINETICA”と発表された。これはこれまでのように,頭文字をつなぎあわせた頭字語ではない。動き・エネルギー・スピードなどを意味するkineticという語を基礎として,その中の音節kin(英語で「親戚・親しい」等の意味を持つ),net(英語で「網」の意味を持つ)は,新しいサービスが図書館界の協力・資源共有などに大きく貢献するイメージを与え,さらに,最後の“a”という文字は,オーストラリアの将来に向かっていく姿勢をあらわすと説明されている(最初筆者は,この名前を目にしたとき,映画関係の新サービスであると誤解した)。

KINETICAは,当初は1999年3月中にKINETICAの各種サービスを順を追って開始させ,ABNサービスも4月には終了させる計画であった。しかし,公開直後は,KINETICAへの接続不調,応答の遅さ,不適切なシステムエラーメッセージなどのトラブルが相次いだ。そのため,ABNの稼動期間を延長し,KINETICAの新規サービスの導入を遅らせるなど,約半年の調整の後,冒頭にあげたように,ABNからKINETICAへの移行が果たされることになる。

では,このKINETICAというのはどんなシステムなのだろうか。

KINETICAはこれまでのABNと同じく,書誌ユーティリティ・資料提供システムとして機能する。NDIS,WORLD 1構想のころは,広くエンドユーザを対象とするシステムを目指していたが,KINETICAでは,ユーザは図書館であり,目録作成・資料提供あるいはレファレンスサービスに使われる。

KINETICAでは,現在,全国書誌(Australian National Bibliography: ANB)のデータベース版であるNBD(National Bibliographic Database)のほか,ゲートウェイサービスとして,CJKデータベース(CA1148CA1107参照),米国のRLINの検索が可能である。

NBDデータベースは,総レコード数1,000万件,典拠レコード約150万件,所蔵情報は,約2,500万件,200万件のオーストラリア国内のオリジナルレコードがある。また,英国・ニュージーランド・シンガポール・ベトナムなどの全国書誌レコードやUSMARCレコード等も含まれている。なお,紙媒体であるANBは1996年12月をもって廃止されたが,1999年8月のIFLAバンコク大会では,この措置に対する批判の声も多いことが紹介されている。

中国語・日本語・韓国語資料(CJK)は,以前はNBDで維持され(表記はローマ字),ABNシステムで検索可能であったのが,1996年のCJKシステム稼動以来,CJKの書誌レコードは別に編成され,漢字表記ができるCJKシステムの参加館(16館)のみが検索可能であった。今回のKINETICAからCJKシステムへのゲートウェイによる連携により,CJKデータベースも広く利用できるようになった(但し,KINETICAによる検索は,ローマ字表記部分のみである)。

KINETICAが行っているサービスには以下のようなものがある。

  • KINETICA-WEB:Webによる書誌検索サービス。マウスによるポイントとクリックで,検索のためにトレーニングが不要である,とされている。これまでのABNは全てコマンドによる検索で,少なくとも数時間のトレーニングが必要であった。
  • MARCレコードサービス:参加館は,自館の所蔵情報をNDBに付加し,NDBにある書誌レコードをダウンロードすることができる。1レコード毎にダウンロードしたり,まとめてFTPで購入することもできる。
  • CD-ROM作成:参加館は自館の所蔵レコードなど,必要なレコードを抽出して,CD-ROMで得ることができる。
  • ドキュメント・デリバリー:ISOプロトコルを用いた,資料提供システム。ABNシステムでも同様であったが,オーストラリアでは,NBDの所蔵情報と,ILLサービスの標準化により,館種を超えて資料提供を受けることができる。

KINETICAのサービスは緒に就いたばかりである。これまでの経過は,既存システムからの移行・大規模システムの構築の難しさをまざまざと教えてくれる。

なお,1999年8月,NLAの館長が,ホートン(Warren Horton)氏から,フラートン(Ms. Jan Fullerton)氏に変わった。ホートン前館長は,2期12年に渡り,NLAの変革を指揮してきた。フラートン新館長は,1968年NLA入館の生え抜きで,これまでもホートン館長の下で,副館長代行・館長代行を務めてきた。NLAの目指す方向が大きく変わることはないと思われるが,新館長をいただいたNLAの今後に注目したい。

原田 圭子(はらだけいこ)

Ref: National Library of Australia. [http://www.nla.gov.au] (last access 1999. 9. 13)
Gateways (38) 1, 2, 1999; (39) 1, 2-3, 1999
Haddad, Peter. National bibliography in Australia: moving into the next millennium. [http://www.ifla.org/IV/fla65/papers/016-123e.htm] (last access 1999. 9. 24)