カレントアウェアネス
No.242 1999.10.20
CA1281
本はラクダの背に乗って
赤道直下の国ケニアは国土の三分の一が年間雨量100ミリ以下の準砂漠地域である。遊牧民の集落が点在する人口過疎地域に,ケニア国立図書館(Kenya National Library Service)は1996年11月,ユニークな移動図書館サービスを開始した。それが,ラクダを輸送手段とするキャメル・ライブラリー・サービス(CLS)だ。
移動図書館というと,一般に自動車を利用するサービスが考えられる。しかし,アフリカ大陸では,厳しい自然環境,未開発で貧弱な道路網ゆえ,地域の特性に応じた低コストの輸送方法が選択されている。ナイジェリアでは河に沿ってボートが,ジンバブウェではロバの引く荷車,あるいは自転車が移動図書館を支えている。ケニア国立図書館も自動車による移動図書館サービスを行っているが,それらは道路網の整備された一部の地域で運行されているのみであり,しかも自動車の整備等難しい問題を抱えている。CLSはそうした自動車によるサービスの困難な地域にふさわしいサービスである。
CLSの活動地域であるケニアの北東部は,年間を通して高温少雨の乾燥地域,農耕不可能な地勢のため,人口の大半は遊牧民である。20キロ,30キロと四輪駆動車のドライブを続けても,現地の人々に出逢うことは稀な地域だ。
CLSは最も人口の集中している町ガリサにある国立図書館の分館(朝日新聞の記事では「ガリッサ公共図書館」となっている)を拠点とする。3頭あるいは4頭のラクダを使用し,ナイロビの国立図書館で収集・整理された資料を中心に,およそ300点の図書を4つの箱に納めて運ぶ。図書のほとんどは小説,教科書,参考図書類からなる。国内の出版事情を反映して資料の大半は英語で,スワヒリ語はごくわずかだ。ラクダには,テント,椅子2脚,テーブル,日除けの傘が積まれる。目的地の村や学校に到着すると,即席の木陰図書館が用意される。
約600名いるCLS利用登録者のうち250名を対象にしたアンケート調査(有効回答数160)によると,利用者の71.9%が男性である。年齢別では,14歳以下が48.2%,15〜20歳が35.6%と若く,大半(76.2%)が児童・生徒である。利用者の住居とサービスポイントの距離は,1キロ以内が46.9%,2キロ以内が17.5%,3キロ以内が11.9%と,23.1%は3キロ以上の遠距離,炎天下を徒歩でやってくる。提供される図書冊数,巡回頻度の少なさ,本が古すぎるなど,利用者からの要望,不満が寄せられている。しかしCLSは,遊牧民地域に適した図書館サービスとして評価され,利用者からの今後の期待度も極めて高い。
加藤 徹(かとうとおる)
Ref: Atuti, Richard Masaranga, et al. Private camel library brings hope to pastoralists: the Kenyan experience. Libr Rev 48 (1) 36-42, 1999
Atuti, Richard Masaranga. Camel Library Service to nomadic pastoralists: the Kenyan scenario. IFLA J 25 (3) 152-158, 1999
朝日新聞朝刊 1999.7.31