CA1575 – オーストラリア国立図書館における資源共有へ向けての新たな取り組み / 大島薫

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カレントアウェアネス
No.286 2005.12.20

 

CA1575

 

オーストラリア国立図書館における資源共有へ向けての新たな取組み

 

 オーストラリアは日本の約20倍という広大な面積に人口約2,000万人。国土の大部分は高温で乾燥した内陸の不毛地帯で,国民の84%は大陸の東西の端に広がる沿岸地域の都市部に居住する。オーストラリアではこの人口分布と地理的特性のため,つねに全国的な図書館の総合目録と図書館協力の必要性が認識されてきた。オーストラリア国立図書館(NLA)は,1981年に始まるオーストラリア書誌ネットワーク(ABN)からその後継システムのKinetica(1991年〜)を通じて,実質的に全国総合目録を提供し,図書館間貸出・複写(以下ILL/DD)の発展に寄与してきた(CA1280参照)。Kineticaの中核となるのは全国書誌データベース(National Bibliographic Database:NBD)で,2005年現在全国の約1,100の図書館により利用されている。

 NLAは1999年に全国資源共有に関するワーキンググループや委員会を立ち上げ,全国的な会議や議論を通して,新しい利用者ニーズに対応するILL/DDのあり方について検討してきた。この6年の間,図書館では電子資料が増大する一方で,全国的にはILL/DDの件数が1990年代前半をピークに下降線をたどっていた。NLAが処理する件数は,1980/81年の約10万件から2002/2003年には4万件近くまで落ち込んでいる。また,ILL/DDの内訳も変化しており,複写(ほとんどが雑誌記事)の比率は1986年の62.2%から2000年には53.7%となった(1)。オーストラリアでのILL/DDの変化に関連すると考えられるのは,以下の要因である。

  • 1)電子ジャーナルの増加:電子ジャーナルを契約購入するコンソーシアムの発展(CA1438参照)。また,ウェブ上でのオープンアクセスやオープンアーカイブ,機関リポジトリの発展。その一例として,NLAやモナシュ大学などが主導するARROWプロジェクトが進行中である。
  • 2)文献提供業者や図書館による個人へのサービスの発展:NLAのCopies DirectはNLAの目録から個人が直接複写を依頼できるシステムで,2002年の開始以来,処理件数が増加している。
  • 3)図書館の機械化の進展:2003年からNLAのILL/DDシステムであるKinetica Document Delivery(KDD)がISO ILLプロトコル(CA1409参照)に対応したことにより,KDDを介した集中管理型のシステムからより分散したシステムへと変化した。その結果,地域や館種等により分化したローカルなILL/DDの処理が増加したと見られる。

 NLAは「2003〜2005年の目標」の第一の目標として「図書館やその他の機関が所蔵する情報資源に対する迅速で容易なアクセスを提供し,そのための障害を取り払うこと」(2)を掲げている。この目的に沿ってNLAはKineticaを2004年から2005年にかけて段階的に再開発するとした。再開発にあたり,2004年10月,公共・州立・大学図書館の利用者に対し,従来のKineticaとそれをGoogleに似せて改良したInformation Australiaの二つの利用状況を調査した。その結果,インターネットの普及により利用者の検索サービスに対する期待が高まっており,資料を目録で見つけるだけでなく,それをシームレスに入手することが重視されていること,ILL/DDの料金(平均で約13オーストラリアドル,約1,100円)とその面倒な手続きが大きな障害と見られていることがわかった。現在の多くの利用者にとって「アクセス」とは「見つけて,手に入れること(find and get)」を意味するのである。また検索インターフェイスに関してはGoogleスタイルの機能性が好まれていることが顕著に現れていた。

 

Libraries Australia

 以上のILL/DDを取り巻く状況の変化と利用調査の結果にもとづき,再開発の第一段階としてKineticaの書誌検索サービスであるLibraries Australiaが2004年12月にリリースされた。Libraries Australiaは,オーストラリア国内の図書館の蔵書だけでなく国内外の多様なデータベースへのアクセスを提供する。同時に検索でヒットした資料の入手手段についても,オンラインで入手,利用者が所属する図書館で利用,ILL/DDにより他の図書館から取り寄せ,オンライン書店やその他の文献提供サービスを介して入手,という4つの選択肢を提供している。Libraries AustraliaはGoogleに似たわかりやすい検索インターフェイスに加えて更に高度な検索オプションを備え,アラート機能など新たな機能も追加した。Libraries Australiaの第二段階は2005年後半に公開される予定で,高品質なレコード管理(例えば重複書誌の削減,CJKデータの処理等)を可能とする新しい全国書誌ユーティリティシステムを導入する。Libraries Australiaは現在購読ベースの有料サービスであるが,2006年からは無料で検索サービスを提供する予定である。

 

MusicAustralia

 NLAはさらに国立映像音声アーカイブと協同で,オーストラリアのあらゆるジャンルと時代とフォーマットの音楽資料に統合的なアクセスを提供することを目的としたMusicAustraliaを開発し,2005 年2月から無料でサービスを開始した。このプロジェクトが始まった2001年には,国内でデジタル化された音楽資料は極めて少なかった。プロジェクトチームは音楽資料のデジタル化を促進すると同時に,音楽資料を簡単に「見つけて,手に入れる」手段を提供するということに力を注いだ。MusicAustraliaは,Libraries Australiaと同様Googleスタイルのインターフェイスを採用し,15万件を超える音楽資料の記述のほかに,4千人以上にも及ぶオーストラリアの音楽関係者についての情報も提供している。

 

今後の方向性

 NLAはこれまでも国内のILL/DDを支える役割を担ってきたが,利用者の声を聞くなかで,新しいニーズと技術の進歩に応じてサービスを革新してきた。今後もNLAはNBDを基盤としつつ,より広範な利用者にオーストラリア国内の資料への統合的で迅速で簡易なアクセスを提供するため,より効率的な資源共有に向かって改革を進めていくだろう。その一つとして,すでにOCLCもOpen WorldCatで行っていることである(E149参照)が,NBDをGoogleのような検索エンジンに開放することも考えられているという(3)。今後の動向に注目したい。

総務部支部図書館・協力課:大島 薫(おおしま かおる)

 

(1) Missingham, Roxanne et al. Resource sharing in Australia: evaluation of national initiatives and recent developments. Interlending & Document Supply. 33(1), 2005, 26-34.

(2) National Library of Australia. “Directions for 2003-2005”. National Library of Australia. (online), available from < http://www.nla.gov.au/library/directions.html >, (accessed 2005-10-02).

(3) Missingham, Roxanne et al. Libraries Australia: creating a new national resource discovery service. Online Information Review. 29(3), 2005, 296-310.

 

Ref.

Australian Research Repositories Online to the World. (online), available from < http://arrow.edu.au/ >, (accessed 2005-10-02).

 

Wilson, Fran. Libraries Australia: gateway to a wealth of information. Gateways, (73), 2005. (online), available from < http://www.nla.gov.au/ntwkpubs/gw/73/libAust.html >, (accessed 2005-10-19).

Ayres, Marie-Louise. MusicAustralia: Australia’s Music: online, in time. Gateways. (73), 2005. (online), available from < http://www.nla.gov.au/ntwkpubs/gw/73/libAust.html >, (accessed 2005-10-19).

 


大島薫. オーストラリア国立図書館における資源共有へ向けての新たな取組み. カレントアウェアネス. (286), 2005, 10-11.
http://www.ndl.go.jp/jp/library/current/no286/CA1575.html