カレントアウェアネス
No.268 2001.12.20
CA1438
電子ジャーナルをめぐるナショナルサイトライセンスの動き
―英国・カナダ・オーストラリアを中心に―
電子ジャーナルを購読する場合,発行者または頒布代理店との間で契約を行うこととなるが,その際,複数の機関がまとめて契約の当事者となる「コンソーシアム契約」を締結することがあり,欧米においてはむしろその方が主流となっている。コンソーシアム契約の利点として,例えば,鶴見大学図書館の長谷川豊祐氏は次の四つを挙げている。
(1)スケールメリットにより個々の図書館の価格が低くなる。
(2)利用ライセンスを図書館側に有利に導ける。
(3)契約業務や利用指導を一元化でき効率的である。
(4)コンソーシアム契約の雑誌すべてが参加館で利用できる。
コンソーシアム契約は,参加する機関が多ければ多いほど,効果が大きくなることになる。
このことから,欧米諸国のなかには,コンソーシアムを全国レベルで結成する試みが始まっている。現在のところ,英国,オーストラリア,カナダといった国で行われており,いずれもそれなりの成果を収めているが,その中身は様々である。
まず英国では,それまで行われていたPilot Site License Initiative (PSLI)という推進計画を発展させたものが,1998年5月から3年計画で実施されている。National Electronic Site Licence Initiative (NESLI)というこの計画は,その実施に出版者や販売代理店が大きく関わっていることが特色である。通常,こうしたコンソーシアム契約は,利用者である図書館などが集団で交渉することによってスケールメリットを生じさせようという動機から実施されるものであるが,NESLIにおいては,事務局的な役割を,有力な販売代理店であり電子ジャーナルの供給者でもあるスエッツ・ブラックウェル(Swets & Blackwell)と,データベースサービスやコンピュータサービスを幅広く行っているマンチェスター・コンピューティング(Manchester Computing)の2社が果たしている。図書館側は,別に設けられた運営グループに代表を派遣することで,活動の総体的な管理などの役割を果たしている。
NESLIに参加している出版者や販売代理店には,英国だけでなく米国の出版者も含まれており,米国化学会(American Chemical Society),エルゼビア・サイエンス(Elsevier Science),オックスフォード大学出版局(Oxford University Press)など,現在18を数え,購読可能となっている電子ジャーナルの数も,エルゼビアだけで1,000を超えている。また,参加する図書館も,英国の高等教育を担うすべての大学や機関の図書館が対象となっており,かなり大規模なものとなっている。
オーストラリアの活動は,まさしく利用者がスケールメリットを生じさせようとして団結した試みである。1999年10月からオーストラリア州立図書館評議会(Council of Australian State Libraries)に設置したワーキンググループの検討を受け,今年3月,評議会に参加するすべての州立,準州立,国立の図書館によって,1年間,試行的に全国規模のコンソーシアム契約を行ってみることとなった。オーストラリア国立図書館が中心的役割を務めている。
活動が緒についたばかりということもあって,利用できる電子ジャーナルの数は,まだ三つと少ない。ただ,1年間の試行の翌年には公共図書館にまで対象を広げ,最終的には個々の利用者の端末にまで提供できるようにすることを目標としている。
最後に,カナダであるが,この国で全国規模のコンソーシアムが結成されることになったのは,他の国のようにスケールメリットの追求の行く末に結成されたのとは異なる経緯からであった。というのも,カナダの場合,四つの地域別に雑誌の購入のためのコンソーシアムが存在しており,電子ジャーナルのコンソーシアムもその延長線上に組織される予定であった。ところが,ライセンスのための補助金を交付するカナダ発明基金の担当者が,同じような内容の申請が同時に四つも出てきたので,補助金支出の条件として四つを一つに統合することを提示したのである。結果的に,全国で一つの計画,Canadian National Site Licensing Project(CNSLP)が実施されることとなった。
カナダ発明基金の補助金は,そもそもカナダの科学分野における研究能力や創造性の改善のための基盤整備を目的として連邦予算から支出されたものである。このような性格から,CNSLPに参加する図書館は,いわゆる研究図書館に限定されている。現在のところ,64館が参加しており,オタワ大学が中心的な役割を果たしている。なお,この計画には,3年間で補助金2千万カナダドルを含む5千万カナダドルが交付されることになっており,この資金をもとに,エルゼビアやブラックウェルといった有力出版者との契約締結に成功している。
以上のように,ナショナルサイトライセンスといっても,その成り立ちや組織,活動内容は異なっているが,いずれの活動も,上述したコンソーシアム契約の利点を享受しており,その有効性は実証されたものと考えてよいであろう。ただ,我が国においてこのような試みを実施しようとする場合には,国公立の機関に適用される会計法規との整合性が問題となるであろう。
南 亮一(みなみりょういち)
Ref: Groen, F. Canada's national initiative to advance access to electronic journals. Health Libr Rev 17(4) 189-193, 2000
The CASL Consortium agreement signed. Natl Libr Aust Gatew (50) 5, 2001
Prior, A. NESLI-progress through collaboration. Learn Publ 12(1) 5-9, 1999
NESLI. [http://www.nesli.ac.uk/index.html] (last access 2001. 8. 13)
CNSLP. [http://www.uottawa.ca/library/cnslp/cfi/index-e.html] (last access 2001. 8. 13)
長谷川豊祐 印刷雑誌から電子雑誌へ:ハイブリッド図書館での関わり 日本農学図書館協議会誌 (119) 1-21,2000