カレントアウェアネス
No.355 2023年3月20日
CA2035
公共図書館における電子雑誌提供サービス
帝京平成大学人文社会学部:間部 豊(まべゆたか)
1. はじめに
図書館における商用電子雑誌(電子ジャーナル)については特に大学図書館での導入が進んでいる。文部科学省「学術情報基盤実態調査 令和3年度」によると、今後の収集方針として電子ジャーナルを収集すると回答した大学図書館が81.9%にも上っている(1)。一方、公共図書館における電子雑誌の本格的な導入は、最近まで神奈川県立川崎図書館によるIEEE Xplore等(E2040参照)以外に見られなかった。しかし2021年度に富士山マガジンサービスと図書館流通センター(TRC)による電子雑誌サービス「TRC-DLマガジン」の実証実験が行われ(2)、その後2022年4月より正式にサービス開始となったことなどから、公共図書館においても電子雑誌を導入する図書館が増加しつつある。そこで本稿では公共図書館における電子雑誌提供サービスの現状を把握するとともにその課題について整理する。
2. 公共図書館における電子図書館サービスの現状
電子雑誌の提供状況を論ずる前に、公共図書館における電子図書館サービスの現状について整理しておく。初めに電子図書館サービスに用いられている電子書籍提供用システム(以下「電子図書館プラットフォーム」)について整理し、次に電子図書館サービスの実施状況について述べる。
表1は2023年1月現在、公共図書館で用いられている主な電子図書館プラットフォームを整理したものである。
電子図書館プラットフォーム | 提供方法 |
KinoDen | 閲覧型 |
LibrariE&TRC-DL | 貸出型 |
OverDrive | 貸出型 |
エルシエロ・オーディオブック | 貸出型 |
EBSCO eBooks | 閲覧型 |
電子図書館プラットフォームは電子書籍の提供方法や収集可能な資料の傾向によって類別される。まず提供方法であるが、大きく「貸出型」と「閲覧型」に分けられる。貸出型は物理的メディアを伴う図書館資料と同様に、貸出冊数と貸出期限を設けて資料提供する方法である。返却は貸出期限を過ぎると自動的に行われるものが多い。一方、閲覧型は資料ごとに同時アクセス可能なユーザー数が設定されている。この上限に達していない場合には利用者は閲覧可能である。閲覧終了後、別の利用者が利用可能になる。使用感としてはオンラインデータベースに近い。
また収集可能な電子書籍の傾向も電子図書館プラットフォームごとに違いがある。LibrariE&TRC-DLとOverDriveは通読性の高い一般図書が多い傾向があり、KinoDenとEBSCO eBooksはより専門的・学術的な図書やレファレンスブックなどが多い傾向がある。エルシエロは提携するオトバンク社のオーディオブックを提供している。
次に電子図書館サービスの実施状況について述べる。電子図書館サービスの実施状況は電子出版制作・流通協議会(電流協)によって定期的に実施されている。電流協の調査(3)によると、2022年10月1日現在で電子図書館サービスを実施している自治体は436であった。うち98自治体については広域利用圏によって電子図書館サービスを共同提供しており、その数は6であった。
これらの自治体で利用されている電子図書館プラットフォームの内訳は表2のとおりである。合計数が電子図書館サービス実施自治体数の436と一致しない理由は同一自治体において複数の電子図書館プラットフォームを利用しているケースがあるためである。
電子図書館プラットフォーム | 自治体数 | 割合 |
KinoDen | 17 | 3.8% |
LibrariE&TRC-DL | 306 | 69.2% |
OverDrive | 112 | 25.3% |
エルシエロ・オーディオブック | 5 | 1.1% |
EBSCO eBooks | 1 | 0.2% |
その他(独自) | 1 | 0.2% |
計 | 442 | 100.0% |
出典:電流協の調査(2022年10月1日時点)より筆者作成
なお広域利用圏により提供されている電子図書館プラットフォームはLibrariE&TRC-DLが5広域利用圏(21自治体)であり、OverDriveが1広域利用圏(77自治体)であった。
3. これまでの電子雑誌の提供状況
国内の公共図書館において最初に電子雑誌の提供を始めたのは神奈川県立川崎図書館である。2018年5月にIEEE Xploreが提供開始され(E2040参照)、2020年度には利用が伸びたものの、2021年度には利用が減少に転じており現在は提供を休止している(4)。
IEEE Xploreが電気・電気工学・コンピュータサイエンス分野のジャーナル等を提供する学術性の高い雑誌であったのに対し、商用電子雑誌(電子マガジン)の提供は遅れて2020年に始まっている。2020年6月には横浜市立瀬谷図書館がNTTドコモの「dマガジン for Biz」(以下「dマガジン」)を提供開始している(5)。dマガジンは2023年1月現在、7自治体による提供が確認されている。利用方法は館内閲覧に限定され、閲覧用タブレットを貸し出す方法と、館内のWi-Fiに接続することで利用者自身の端末で閲覧するといった方法がある。
館外利用も含めた電子雑誌閲覧サービスは、2021年に試行・実証実験が始まっている。2021年7月から同年度末までオーテピア高知図書館とオーテピア高知声と点字の図書館は「Kono Libraries」による試行提供を実施した(6)。また、既述のように2021年10月から同年度末まで富士山マガジンサービスと図書館流通センターが「TRC-DLマガジン」の実証実験を行っている(7)。これらはいずれも2022年4月より正式稼働している(8)(9)。
4. 公共図書館における商用電子雑誌の提供状況
こうした動きを踏まえた上で、現在の公共図書館における商用電子雑誌の提供状況について整理する。初めに電子雑誌の提供環境について整理し、次に電子雑誌の提供状況について述べる。
電子雑誌の提供環境は大きく二つに類別される。一つは電子図書館プラットフォーム上で提供されるケースであり、もう一つは独自の電子雑誌プラットフォーム上で提供されるケースである。前者はKinoDen、OverDrive、エルシエロ・オーディオブックであり、他の電子書籍・オーディオブックと同様に貸出による資料提供が行われている。後者はdマガジン、Kono Libraries、TRC-DLマガジンであり、閲覧による資料提供が行われている。うちTRC-DLマガジンでは雑誌の最新号の館内閲覧措置が行われている。
次に国内の公共図書館における電子雑誌の提供状況について整理する。表3は先の電流協調査(2022年10月1日現在)で電子図書館サービスを実施している436自治体に加え、電子雑誌プラットフォーム提供者が公開している導入自治体情報を合わせて筆者が調査・集計したものである(10)(11)。調査では各図書館のウェブサイトを確認し、電子雑誌の提供の有無と提供されている電子雑誌タイトル数を確認した。調査期間は2023年1月13日から2月8日である。
電子図書館プラットフォーム | 自治体数 | 提供タイトル数 | |
和雑誌 | 洋雑誌 | ||
KinoDen | N/A | *要ログイン・未確認 | |
TRC-DLマガジン | 62 | 約150 | |
OverDrive | 11 | 約100 | 約4,300 |
エルシエロ・オーディオブック | 3 | *オーディオマガジン数タイトル | |
その他(Kono Libraries) | 1 | 約40 | 約210 |
dマガジン for Biz | 7 | 約1,000 *和洋区別不明 | |
計 | 84 |
その結果、電子雑誌を1タイトル以上提供していることが確認できたのは83自治体・1広域利用圏であった。このうちdマガジンは館内利用のみのため、館外貸出を実施しているのは76自治体・1広域利用圏であった。なおKinoDenは収集可能な電子雑誌が20タイトル前後あることを確認したものの(12)、所蔵情報の確認にはログイン認証が必要となるため今回の調査では提供状況を明らかにすることはできなかった。
5. 電子雑誌提供上の課題
最後に現在行われている電子雑誌サービスの課題を3点挙げる。
1点目は同一タイトルにおける電子雑誌と印刷雑誌に内容の違いが存在することである。内容が概ね印刷雑誌と同一であるものの、写真等を含むページが省略されているケースや、印刷雑誌に収録されている記事の中から何本か抜粋したLITE版の提供となっているケースがある。こうした内容上の違いがあるため電子雑誌の提供をもって印刷雑誌の提供に代えることが難しい。
2点目は提供される電子雑誌タイトルの保持が必ずしも約束されていない点である。電子雑誌プラットフォーム側で提供タイトルの入れ替えが起きた場合、提供終了となった電子雑誌タイトルを図書館側が継続して提供する手段が無い。この点からも印刷雑誌の代替物として電子雑誌のみを提供することは難しく、実際には印刷雑誌・電子雑誌のタイトルが重複して提供されるケースが多くなると考えられる。こうした事情から電子雑誌の提供はあくまで雑誌提供の機会を増やすものと捉えるべきであると考える。
3点目は電子雑誌提供上の課題である。今回の調査ではエルシエロ・オーディオブックを除き図書館OPAC上から個々の電子雑誌の書誌・所蔵情報の確認ができなかった。またTRC-DLマガジンのように電子図書館プラットフォームとは別に電子雑誌プラットフォームにアクセスする必要があるケースでは、電子図書館プラットフォームの検索機能を用いても電子雑誌の書誌・所蔵状況を確認することができなかった。電子雑誌を提供していても利用者がその所蔵に気が付きにくい状況では利用は伸び悩むものと考えられる。少なくともOPACから直接電子雑誌の所蔵を確認できるようにするか、OPACと電子図書館プラットフォーム及び電子雑誌プラットフォームを横断的に検索する統合検索画面を設けることが必要ではないかと考える。
6. おわりに
公共図書館における電子雑誌提供サービスはまだ始まったばかりであり、実施自治体数も少ない。課題に挙げたように、利用者による資料の発見・利用の観点からも改善の余地はある。
しかしながら電子雑誌提供サービスは地理的制約・時間的制約・障害等による制約により来館が困難な利用者にとって利用機会の拡大に繋がる非来館型サービスである。今後、提供タイトル数の拡充・バックナンバーの確保・安定的なタイトル提供などサービス向上、資料へのアクセス性確保などを通じて質的に向上していけば、電子雑誌提供サービスは魅力的な非来館型サービスとしてさらなる発展が期待できる。
(1)“学術情報基盤実態調査 令和3年度 大学図書館編 12-4 外国雑誌及び電子ジャーナル”. e-Stat.
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tclass=000001151841, (参照 2023-01-13).
(2) 図書館流通センター. 電子図書館サービス「LibrariE & TRC-DL」における「TRC-DL マガジン」の実証実験開始. 2021.
https://www.trc.co.jp/information/pdf/20211104_TRCrelease.pdf, (参照 2023-01-13).
(3)電子出版制作・流通協議会. 公共図書館 電子図書館サービス(電子書籍サービス)実施図書館(2022年10月1日現在). 2022, 14p.
https://aebs.or.jp/pdf/Electronic_Library_Service_Implementation_Library_20221001.pdf, (参照 2023-01-13).
(4) 2019年度の利用人数は239人・複写枚数1,328枚、2020年度は同348人・1,552枚、2021年度は同89人・1,096枚。
神奈川県立川崎図書館. 令和元年度神奈川県立川崎図書館要覧. 2019, p. 39.
https://www.klnet.pref.kanagawa.jp/uploads/2020/12/r01yoran_rv.pdf, (参照 2023-01-13).
神奈川県立川崎図書館. 令和2年度神奈川県立川崎図書館要覧. 2021, p. 41.
https://www.klnet.pref.kanagawa.jp/uploads/2021/03/r02yoran.pdf, (参照 2023-01-13).
神奈川県立川崎図書館. 令和3年度神奈川県立川崎図書館要覧. 2021, p. 38.
https://www.klnet.pref.kanagawa.jp/2021/r03yoran.pdf, (参照 2023-01-13).
IEEE Xplore の提供は2021年度より休止している。
神奈川県立川崎図書館. 令和4年度神奈川県立川崎図書館要覧. 2022, p. 22.
https://www.klnet.pref.kanagawa.jp/2022/r04_kawasaki-yoran.pdf, (参照 2023-01-13).
(5)“瀬谷図書館に電子雑誌 端末貸し出し、体験促す”. タウンニュース. 2020-07-09.
https://www.townnews.co.jp/0106/2020/07/09/533588.html, (参照 2023-01-13).
(6)“電子雑誌のアプリ「Kono Libraries」試せます!”. オーテピア高知図書館. 2021-07-01.
https://otepia.kochi.jp/library/event.cgi?id=20210611100612gfo979, (参照 2023-01-13).
(7) 図書館流通センター. 前掲.
(8)“【和雑誌さらに追加】電子雑誌のアプリ「Kono Libraries」使えます!”. オーテピア高知図書館. 2022-12-09.
https://otepia.kochi.jp/library/info.cgi?id=20220329181418xwdc9j, (参照 2023-01-13).
(9) 図書館流通センター. TRCと富士山マガジンサービス、電子図書館「LibrariE & TRC-DL」における電子雑誌読み放題サービス「TRC-DL マガジン」を正式リリース. 2022.
https://www.trc.co.jp/information/pdf/20220401_TRCrelease.pdf, (参照 2023-01-13).
(10)2023年2月1日時点のTRC-DL マガジンの導入件数は61自治体・1広域利用圏。
図書館流通センター. 電子図書館(LibrariE & TRC-DL)導入実績(2023年2月1日現在). 2023, 4p.
https://www.trc.co.jp/solution/pdf/dljirei.pdf, (参照 2023-02-08)
(11)エルシエロ・オーディオブックの導入件数は11自治体。
“本を耳で聴く「オーディオブック配信サービス」 : 日本最大級のオーディオブック配信サービスが、公共図書館でも利用可能に”. 京セラコミュニケーションシステム.
https://www.kccs.co.jp/ict/service/audiobook/, (参照 2023-01-13).
(12)新着情報の「人文科学系」「社会科学系」「理工系」「医学医療系」「ガイド教養本」「レファレンス」「セット販売」を参照し,末尾にある雑誌タイトルを筆者がカウントした。
“2022年12月新着情報”. 紀伊國屋書店. 2023-01-05.
https://kinoden.kinokuniya.co.jp/product/new-arrival.html, (参照 2023-01-13).
[受理:2023-02-13]
間部豊. 公共図書館における電子雑誌提供サービス. カレントアウェアネス. 2023, (355), CA2035, p. 2-4.
https://current.ndl.go.jp/ca2035
DOI:
https://doi.org/10.11501/12767605
Mabe Yutaka
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