CA2036 – ヤングアダルト世代と共に読書を考える試み:日本子どもの本研究会「ヤングアダルト&アート・ブックス研究部会」の活動 / 大江輝行, 須藤倫子

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カレントアウェアネス
No.355 2023年3月20日

 

CA2036

 

ヤングアダルト世代と共に読書を考える試み:日本子どもの本研究会「ヤングアダルト&アート・ブックス研究部会」の活動

日本子どもの本研究会:大江輝行(おおえてるゆき)
日本子どもの本研究会:須藤倫子(すとうともこ)

 

1. はじめに

 ヤングアダルト&アート・ブックス研究部会(1)(以下「YAA!」)は、子どもの本の研究と普及に努める一般社団法人日本子どもの本研究会(2)(JASCL:以下「本研」)の一研究部会として、2017年に発足した。ヤングアダルト(YA)のための本やアート・ブックス、YAの読書と文化、そしてYAの居場所としての学校図書館、公共図書館のYAコーナー及びYAサービスについて、YAの視線に寄り添う形で研究・研修することを目的としている。

 主な活動は、「YAA!カフェ」の開催・運営と、会誌『YAA! YAA! YAA!』の発行である。「YAA!カフェ」は月例学習会、講演会、読書会、見学会などの催しで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大下ではオンライン中心に移行し、YAが発表や司会を行う回も多い。外部への一般告知はYA運営のTwitterやInstagramで行っており、案内フライヤーもYAが制作している。『YAA! YAA! YAA!』は編集メンバーの多くがYAで、隔月で発行・PDF配信している。

 図書館や子どもの本に関わる大人(学校司書、司書教諭、教員、公共図書館司書、文庫関係者、作家、翻訳者、編集者、出版関係者、研究者等)のみではなく、YA(主に生徒・学生)自身が会員として積極的に参加し、YAにとっての読書や文化を共に探求しようとしている点が、他の会にはない特色といえる。

 

2. YAの積極的な活動

 通常、本に関する研究会にはその想定読者は参加しないのが一般的だが(児童書の研究会に児童、絵本の研究会に幼児はいない)、YAA!にはYAブックスの中心読者であるYA世代の会員が多数参加し、活発に発言・発信している。「YAA!カフェ」や会誌といった部会内の活動にとどまらず、2021年開催の本研53回全国大会(3)でYAA!が担当した「中高生の読書」分科会では、「YouTube世代の読書」という主題のもと、大学生の会員が、視聴に訴える媒体と生きる「中高時代及び現在の読書」を語った。

 さらに翌2022年の54回全国大会(4)同分科会では、中高生・大学生の会員が進行も担いながら、COVID-19感染拡大により人と人が直接繋がりあう活動が難しくなった中、SNSとの関係がより深まった自身の読書ライフを報告し、参加者と交流を図った。SNSの積極的な利用から創造的なアートや詩の世界へと跳躍する読書体験を語る大学生たち、新たな対面の居場所「川の図書館」(5)の活動を始めた中高生、「趣味=読書」ではない中学生の「本の探し方」が話題になった。その「探し方」のツールにもなった、YAA!会員で大阪国際児童文学振興財団・土居安子氏の動画「本の海大冒険YA編」(6)についての土居氏本人による解説も行われた。

 これらはどれも、YAが何によって本と出会い、本を通してどんな人とどのように繋がっているのかの具体的な事例報告である。分科会参加者からは、動画を実際に視聴し解説を受け、利用者の声も生で聴くことで、事例を立体的に実感できたという感想も寄せられた。ちなみに本研の会誌『子どもの本棚』2022年12月号(7)に分科会の記録を寄稿したのも、YAである。

 

3.“Young Adult Literature”からヤングアダルト&アート・ブックスへ

 YAA!は創立当初よりYoung Adult Literature(YAのための文学という米国発祥の概念)を青春小説のみに限定せず、現代の若者の興味・関心に応える、詩歌、ノンフィクション、哲学・心理学・社会科学・自然科学の各ジャンルの入門書も含む「ヤングアダルト・ブックス」へと探究の領域を広げてきた。

 海外文学については、従来の英米中心から北欧~南欧、韓国・中国へと意欲的に関心領域を広げている。例えば「北欧のYAブックス」をテーマに、飯能市立図書館(埼玉県)で『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』(8)の翻訳家の枇谷玲子氏から「北欧の本に見る、男らしさ、女らしさ、家族のかたち」について学び、翌月には同書の読書会を埼玉県立浦和第一女子高等学校図書館と共催した。在校生等YA世代を中心に、自分たちの日常とジェンダー問題、自身と社会の「今」と「これから」を、YAA!新会員として参加した枇谷氏と共に、関連図書を手に取りながら話し合った。

 詩歌については、SNSで使用する発信文体と親和性の高い「短詩系の文学」の再発見があり、定例会で短歌カードゲーム(9)を用いたパズル感覚の短歌作りをYAA!の会員でもある考案者の現代歌人・天野慶氏と試みた。

 タイムリーかつ多様なテーマを扱うハンディタイプの入門書としてのYA向けの新書にも注目してきた。学校でもデジタル端末の積極的な使用が進む現在、インターネットから入手する豊富な図版や写真を中心とした情報を使いこなすためにも、基礎的な知識は本で押さえておくことが肝要だ。2021年前後の中学生(以上)対象の新しいタイプの新書レーベル創刊の波を受け、岩波書店「ジュニアスタートブックス」(10)の担当編集者であり後にYAA!会員となった山本慎一氏に、中学生へ届けるための意欲的な編集・製本の工夫を定例会で語ってもらった。

 YAのためのアート・ブックスつまりビジュアルな表現に優れた本としては、アート性の高い絵本、大図鑑、バンド・デシネ(フランス語圏のコミック)、歴史的・社会的な問題を鋭く提起するグラフィックノベル(主に米国の長編コミック)などがある。特に公共図書館のYAコーナーでこそこれらを多く所蔵してほしいという希望も込めて、会誌上での紹介を毎号精力的に行っている。2022年発行の23号・24号では人種差別を主題とするグラフィックノベルをとりあげた。

 同時に、昨今、学校図書館(特に高校)で蔵書が増えている日本の多彩なマンガについては、YAA!として早い時期から着目してきた。

 

4. YAにとって心地よい場としての図書館

 YAA!のイメージする「YAにとって心地よい場」に近い具体例として、埼玉県立飯能高等学校図書館(以下「すみっコ図書館」)(11)の実践を挙げる。マンガの蔵書量、考え抜かれた選書と配置、秀逸なネーミング・ディスプレイに魅せられて、YAA!発足の翌2018年、YAA!会員の湯川康宏司書のガイド付き見学&トーク「YAとマンガ、学校図書館とマンガ」を「YAA!カフェ」として開催した。以来、本研53回全国大会分科会、2022年オンライン定例会への同司書の登壇、リニューアルした「シン・すみっコ図書館」見学等、YAA!は「YAA!カフェ」や会誌を通してこの学校図書館との繋がりを深め続けている。

 利用者である高校生の熱い支持が寄せられるすみっコ図書館は、「人気」「きゅんきゅん」等の多様なテーマ別のマンガコーナーを導入として、カラフルで分かりやすい7色の色別ゾーニングで資料が配置される。「あなたを守る本」や「際問い本」といった繊細なテーマの本を集めたコーナーの別置、外国関連・仕事関連資料の「各国別」「職業名別」配架はYAの利用の仕方に寄り添う。生の声を大事にする「なんでもリクエスト掲示板」も用意されている。YAの興味・関心が大切にされ、読みたい・調べたい要求が喚起される。細部にわたる創意(例えば、利用者が自ずと「分類」に馴染む仕掛けの「すみっコぐらし神社」のおみくじ)の全てが「利用者にとっての最善の利益」を目指す試みであることが伝わってくる。それは、館内に「同居」するぬいぐるみやクッション、こたつ、ハンモック、マッサージチェア、プラレール、パズル、Wii等と共に、利用者に安心と心地よさと愉楽を与えてくれる。在校生発案のリサイクル服コーナーなど高校生が積極的に参加したくなるコーナーも随所にある。見学したYAが「ここに住みたい!」と声をあげる所以である。

 「図書館学の五原則-五、図書館は成長する有機体である」を貪欲に展開する同館の「成長し続ける」姿は、YAの感性に何よりもフィットするのだ。

 

5. YAの読書スタイルとしての「マルチメディア読み」

 ゲーム、アニメやSNSなどの波及により、活字本が中心だった物語への触れ方が大きく変化した。YAの関心を強く惹起するコンテンツのマルチメディア展開(同一のストーリーを持つ作品が小説・漫画・アニメ・実写映画・舞台など複数の媒体で発表されること)が進み、それと呼応するように、YAの読書スタイルも「マルチメディア読み」とでもいうべきものになってきている。人によって好きな形式(媒体)から作品世界に触れられるようになったのだ。「本が好きな人はマンガや小説で、映像が好きな人はアニメやゲームで、実写が好きな人は舞台や映画、耳で楽しみたい人は音楽で」と、作品(世界)へ入るにあたり媒体を選ぶ、入口が活字以外に広がる傾向が顕著になっているのである。

 YAA!内でマルチメディア研究を担当するYAによる定例会や会報での報告は、若い世代のこのような感覚をリアルに伝える。

 

6. おわりに

 YAと共に歩んできたこれまでの活動を踏まえ、YAA!では、YAの読書サービスには(物語に限らず)活字本全般とそれ以外の多様な媒体を良く知り、それらを組み合わせ関連づけて、YAと「本」と「他の複数の媒体情報・資料」を結ぶことが重要になっていくと考えている。

 さらに、YAの「読む」から「書く」「つくる」ことへのステップを支援するために、実際の制作者(ライター、エディター、クリエイター、デザイナー…)へ、適宜に「繋いでいくことのできる人」が、これからのYAサービスの現場では求められていくのではないだろうか。

 「本の話が心ゆくまでできる場所」だからと、YAA!との出会いを面白がり、読書会への参加や会誌への寄稿をきっかけに会員として活動するようになった若者たちと共に、YAA!もまたYAブックス世界の探究を深めながら、繋がりの「場」としての可能性を探っていきたい。

 

(1)“ヤングアダルト&アート・ブックス研究部会”. 日本子どもの本研究会.
https://www.jasclhonken.com/研究部会/ヤングアダルト-アート-ブックス研究部/, (参照 2023-01-02).

(2) 日本子どもの本研究会.
https://www.jasclhonken.com/, (参照 2023-01-02).

(3)“2021年全国大会”. 日本子どもの本研究会.
https://www.jasclhonken.com/全国大会-他/2021年全国大会/, (参照 2023-01-02).

(4)“2022年全国大会分科会等”. 日本子どもの本研究会.
https://www.jasclhonken.com/全国大会-他/2022年全国大会分科会等/, (参照 2023-01-02).

(5) Book Swap Japan.
https://bookswapjapan.org/, (参照 2023-01-02).
東京都下の多摩川べりで日曜日に開催される青空ライブラリー。活動時間内ならいつでも誰でも来て見て読んで、欲しい本は持ち帰ることができ、また自分の本を寄贈することもできる。コロナ禍で公共図書館や学校図書館が使えなかった時期に、当時中学生だったYAA!会員の姉弟が立ち上げた。その活動は多くの賛同を得て全国へ広がりつつある。

(6)“YouTube版「本の海大冒険YA編」”. YouTube.
https://www.youtube.com/playlist?list=PLrD_20kU8zaezC57vZXy-q1_x5Q4hrXQs, (参照 2023-01-02).

(7) 子どもの本棚.日本子どもの本研究会. 2022, No. 650.

(8) ブーレグレーン,サッサ. 北欧に学ぶ小さなフェミニストの本. 枇谷玲子訳. 岩崎書店, 2018, 127p.

(9) カードゲーム『57577ゴーシチゴーシチシチ』。原案:なべとびすこ、ゲームデザイン:なべとびすこ・天野慶。

(10)“岩波ジュニアスタートブックス創刊!”. 岩波書店.
https://www.iwanami.co.jp/news/n38663.html, (参照 2023-01-02).

(11)“飯能高校すみっコ図書館へようこそ”. 埼玉県立飯能高等学校.
https://hanno-h.spec.ed.jp/zen/学校紹介/図書館, (参照 2023-01-02).
“シン・すみっコ図書館案内”. YouTube.
https://www.youtube.com/playlist?list=PL2mletznKogW9sWKHxT1_Zyvz304D4ZKg, (参照 2023-01-02).

 

[受理:2023-02-13]

 


大江輝行, 須藤倫子. ヤングアダルト世代と共に読書を考える試み:日本子どもの本研究会「ヤングアダルト&アート・ブックス研究部会」の活動. カレントアウェアネス. 2023, (355), CA2036, p. 5-7.
https://current.ndl.go.jp/ca2036
DOI:
https://doi.org/10.11501/12767606

Oe Teruyuki
Suto Tomoko
An Attempt to Think About Reading with Young Adults: Activities of the Society for the Study of Young Adult Literature & Art Books of the Japan Association for the Study of Child Literature