カレントアウェアネス
No.225 1998.05.20
CA1192
利用者ガイダンスに関するセミナーを開催−調査研究プロジェクト活動報告(10)−
従来,図書館は,蔵書やレファレンスツール・職員の知識や技術といった,「職員側」のスキルの向上を中心に,利用者サービスを考えてきた。しかし,図書館には,資料や図書館員以上に,多くの「利用者」が存在する。その「利用者」を視野に大きく取り入れ,図書館を主体的に使ってもらうためにはどうしたらいいかを考える,これが「利用者ガイダンス」及び「利用者教育」のテーマであろう。今回のセミナーは,このテーマについて,館種の違いを踏まえて議論し,その議論を整理するとともに,問題意識と蓄積してきたノウハウを互いに共有しようとするものである。
セミナーは,以下の構成で行われた。
- 異なる分野に渡る4人の報告者からの報告
- 報告のまとめとコメント
- フリーディスカッション
まず初めに,小田光宏氏(図書館経営研究所長)により,利用者ガイダンスをめぐる環境の総体的な把握がなされた。利用者ガイダンスは,従来,あまり注目されてこなかった分野だが,現在,図書館のみならず,図書館を取り巻く外部の環境からも要請の高まってきた分野である。それだけに,館種の違いを前提とした上で,出てきた議論を整理し,そのなかから,共通に利用できる方法を模索する必要があると述べた。また,情報化社会における図書館の役割を考慮した上で,利用者ガイダンスとして,何が求められているかを検討することが重要だとした。
次に,仁上幸治氏(早稲田大学図書館国際部図書室チーフ)により利用者(潜在的な利用者も含めて)に“図書館を売り込む”手段として,どのようなキーポイントがあるか,という話があった。図書館は,協同で利用者ガイダンスのためのツールを開発・活用すべきであり,その活動によって,図書館の存在を外部にアピールする必要があると報告した。また,現代の図書館は研究や学習を支援する機関からコミュニケーション支援を行う機関へと移行しており,行われるサービスも案内サービスから指導サービスへと変化していると述べた。
続いて,佐川祐子氏(杉並区立下井草図書館司書)から,実際に佐川氏をはじめとするスタッフの方々が,どのように地元の公共図書館で,利用者ガイダンスを実践されているかという例が説明された。ちょうど,新たに建設された図書館での実践例だったため,図書の配置やガイドの出し方など,公共図書館特有の利用者ガイダンスのあり方が,豊富に盛り込まれ,取り組むスタッフの方々の意気込みが感じられる報告だった。また,他の自治体の図書館紹介もあった。
最後に,丸本郁子氏(大阪女学院短期大学教授)から,大学図書館の視点での,総体的な現状分析とこれからの展開について説明がなされた。現在は,図書館のあり方自体が変貌しており,利用者教育も「学生に図書館の利用方法を教え,支援する」というものから,「大学の構成員すべてを,自立的な情報利用者として育成する」という情報リテラシー教育へと発展していると述べた。ただし,これらはまだ,業務として定着しておらず,実践するための環境も不十分であるため,今後,利用者教育の,業務としての組織化,体系化が必要であるとした。
報告が一通り終わった後,三輪由美子氏(国立国会図書館調査及び立法考査局調査資料課副主査)から,報告のまとめがなされた。公共図書館と大学図書館とでは,利用者ガイダンス及び利用者教育の取り組み方に違いがあるが,共通する点も多く,そこを手がかりに議論することができるのではないか,と提案された。
その後,時間は,限られていたが,フリーディスカッションへと移った。そこでは,利用者教育に関して,どのように予算措置を講じたらよいかという質問が出た。この質問に対しては,利用者教育は,大規模予算を用いずとも効率を上げることのできる分野であり,特に予算措置を重要視する必要はないのではないかという意見が出た。また,「利用者を教育する」という言葉に対する抵抗感が問題になったり,仁上氏の述べる図書館の時代区分とサービス領域の歴史的な移り変わりについての質問が出た。ただ,時間がなく,議論が熟さぬうちに時間となった。
今回のセミナーで明確になった問題として,大きく2点があげられるだろう。1点は,活動を組織化し業務として確立すること,もう1点は,図書館の存在意義を見直すことである。
いずれにしても,今回のセミナーのように,今後も,館種を越え,多機関の人間が一堂に会して,情報交換や討議を行い,全体の意識の統一と定着をはかっていくことが必要であろう。また同時に,連携協力して,具体的な活動を,利用者にわかる形で,展開して行く必要があるだろう。
伊藤 直美(いとうなおみ)