カレントアウェアネス-E
No.506 2025.07.31
E2810
筑波大学附属図書館ボランティアの30年
筑波大学学術情報部アカデミックサポート課・高島恵美子(たかしまえみこ)
筑波大学附属図書館は1995年に地域住民による図書館ボランティアを発足させ、2025年で30周年を迎えた。これを記念して、2025年6月2日に記念式典等を開催し、併せて記念誌『筑波大学附属図書館ボランティアの30年―これまで そして これから先へ―』の発行、ボランティア活動の成果を紹介する展示等の記念事業を実施した。
本稿では筑波大学附属図書館ボランティアの30年を振り返り、開始の経緯やあゆみ、活動の成果等を紹介する。
●導入の経緯
筑波大学附属図書館は、「開かれた大学」という本学の建学の理念に沿って「開かれた大学図書館」を目指し、 中央図書館開館以来、学外者に図書館を開放してきた。1992年の生涯学習審議会答申「今後の社会の動向に対応した生涯学習の振興方策について」を受け、大学の社会的要請に応えるため、生涯学習に対応した大学図書館サービスの実現を目指して図書館ボランティアを導入することとした。
本学では、図書館ボランティアを「附属図書館の利用者の援助を目的とし、生涯学習の一環として、自らの自由意思により、その知識・技能を無償で提供する者をいう」と定義している。職員の業務の下請けではなく、地域住民に生涯学習の場を提供するボランティア制度であるということについて館内の共通理解を得るため、1993年4月から2年余りの準備期間を要した。そして1995年6月から活動を開始した。
●制度の概要
現在の附属図書館ボランティア制度は以下の通りとなっている。
- 活動内容 (1)図書館総合案内(館内案内・蔵書検索案内・障害者の援助等) (2)利用環境整備(書架整理・図書修理) (3)特殊資料整理(国内美術館等の展覧会ポスターの整理とデータベース化) (4)図書館見学案内(学内外からの見学に対応。外国語での案内も実施) (5)対面朗読 (6)日本文化紹介(留学生向けのおりがみ講習会開催) (7)ボランティア活動の広報 (8)図書館環境整備
- 活動時間
1人あたり週に2.5時間~7.5時間程度。活動時間帯として設定している10コマ(平日午前・午後1コマずつ・各2.5時間)の中から、各自選択した1コマ以上の時間帯に活動する。見学案内などスポット的な活動は、その都度職員が調整する。
- 任期
1年ごとの登録制で更新を妨げない。
- ボランティアの自主組織
ボランティア全員が、会員同士の交流と充実した活動を目指すための組織「図・ボラ(ズボラ)の会」に所属し、定期的に代表者による世話人会や職員との打合せ、会報の発行等を行っている。
- 図書館側の体制
図書館の中に「多様化支援担当」という係があり、ボランティアの支援、見学対応、障害者や留学生へのサービス等を担当している。ボランティアの支援としては、日常の連絡調整の他、関連部署との調整、毎年の募集・更新業務、研修の実施などを行う。また、教員を含む筑波大学附属図書館ボランティア専門委員会を設置し、運営面での助言を受けている。
●30年間のあゆみ
大学図書館にとって初めての試みである生涯学習型のボランティア制度は、ボランティア・職員ともに手探りでの立ち上げとなった。当初は、カウンターでの利用案内における図書館職員とボランティアとの担当範囲の確認や、得意分野の違い、ボランティア側からの積極的な提案・要望と図書館側の事情とのミスマッチなど様々な課題があったが、時間をかけて業務を整理するなど、双方の理解を深め解決してきた。
数年をかけて活動が安定してくると、少しずつ新たな活動が加わり、現在のかたちになっていった。電子図書館化等めまぐるしい変化の中で、ボランティアは、職員が準備するフォローアップ研修の受講やボランティア同士の自主研修を行って対応してきた。
30年の間には、2011年の東日本大震災や2020年から始まったコロナ禍といった、社会的に大きな出来事にも遭遇し、いずれも活動を休止せざるを得ない事態となった。特にコロナ禍では2年半にもわたる活動休止を経て、ボランティアの人数が大幅に減少するなど、危機とも言える状況を乗り越えて現在に至っている。
●活動の成果と今後に向けて
当館の図書館ボランティアは、職員の労働力を補助するためのものではない。長い年月をかけて定着してきた活動により、職員では担いきれないきめ細やかなサービスや、個々人の能力を活かした図書館サービスへの付加価値が生まれている。たとえば活動日誌によると、5階建の広い図書館の中で資料にたどり着けない学生や学外者に付き添って一緒に資料を探し、感謝された様子が多く見受けられる。また、高校や海外からの来客の大学見学の1コースとして図書館が見学者を受け入れ、各言語で対応することで見学対応を充実させることができ、喜ばれるとともに、他部署の担当から信頼を得られている。
加えて、ボランティアにとっても附属図書館を学びの場として活用することができ、活動に満足しているとの声が上がっている。当初の目的である、生涯学習に対応したボランティア活動の場の提供を実現できていると考えている。
当館のボランティアは現在、40代から80代まで31人である。累計ではこれまでに延べ200人を超えるボランティアの参加があった。熱意と能力、個性に溢れるボランティアとの連携には、職員が減少する中で、日々丁寧なコミュニケーションを必要とする大変さもある。しかし、ボランティアのポジティブなパワーは図書館に新たな気付きを与えてくれる可能性を秘めている。大学図書館の機能やサービスが変化する中で、共に進化していくべく、今後もボランティアの活動を支援し充実させていきたい。
Ref: “附属図書館ボランティア30周年”. 筑波大学附属図書館. https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/lib/about/volunteer#v30th ボランティア30周年記念事業実行委員会, 筑波大学附属図書館編. 筑波大学附属図書館ボランティアの30年 : これまで そして これから先へ. 筑波大学附属図書館, 2025, 59p. http://hdl.handle.net/2241/0002015382 “筑波大学附属図書館ボランティア広報紙 「うたがき」”. 筑波大学附属図書館. https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/lib/ja/about/volunteer/utagaki “建学の理念”. 筑波大学. https://www.tsukuba.ac.jp/about/outline-concept/ 生涯学習審議会. 今後の社会の動向に対応した生涯学習の振興方策について(答申). 1992, 60p. https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/hakusho_nenjihokokusho/archive/pdf/93790601_03.pdf 氣谷陽子ほか. 筑波大学附属図書館における大学図書館ボランティアの活動. 大学図書館研究. 1998, vol. 53, p. 54-61. https://doi.org/10.20722/jcul.1017 大久保明美. 筑波大学附属図書館における図書館ボランティアの活動成果と今後. 大学図書館研究. 2005, vol. 75, p. 71-80. https://doi.org/10.20722/jcul.1195 原澤仁美. 「進化する図書館ボランティア」筑波大学附属図書館ボランティアについて. SALA会報. 2015, vol. 23, p. 4-5. https://sucra.repo.nii.ac.jp/records/14303