カレントアウェアネス-E
No.512 2025.11.06
E2836
認定司書制度の15年とこれから
青山学院大学・大谷康晴(おおたにやすはる)
認定司書は、公益社団法人日本図書館協会(JLA)が実施している図書館法上の図書館に勤務する司書の専門性を評価する名称付与制度及びこの制度で認定を受けた司書を指す。この制度の基本的なアイデアは、1996年4月の生涯学習審議会社会教育分科審議会報告で提案されている。しかし、この制度の検討開始の契機となったのは、1998年9月の生涯学習審議会答申において、司書資格、あるいは司書の存在意義が問われたことによる。
JLAでは、公共図書館と大学図書館を対象に業務分析に基づいた高度な研修プログラムの開発と名称付与制度の創設について検討が行われ、公共図書館においては中堅職員ステップアップ研修事業として現在の研修事業に至っている(これらの経緯はJLA研修事業委員会のウェブページに掲載されている報告書を参照)。しかし、名称付与制度については、紆余曲折を経た後、2010年度に最初の審査が行われ、2011年度より認定司書制度が発足した。最初の構想が出てから14年経過しているため、「もう少しスピード感をもって実現させたかった」という意見が出るのも当然である。しかし、看護師に関する認定制度を見ても、1987年に厚生省の「看護制度検討会報告書」で提唱されて、制度が一通りの完成を見るのは1998年である。認定司書の発足に時間がかかったことは事実であるが、この種の課題について合意を達成することは容易ではないことも事実である(この点については筆者による『情報の科学と技術』72巻6号の記事を参照されたい)。
さて、発足には多くの時間を要したものの、その後JLAでは公益法人移行後の2014年度から認定司書を事業計画の中で重点事業として位置づけている。制度発足以降、第5期に認定司書が通算100人に到達し、第12期に通算200人に到達している。2025年10月時点で認定証が有効期間中にある認定司書は176人(認定更新38人を含む)となっている。全国各地で認定司書の誕生について地方のマスメディアで報道されており、ここ1~2年に限っても、あぶくま時報、朝日新聞(地方版)、北海道新聞、徳島新聞といった新聞で報道がされている。
認定司書が申請に至った動機等については、自らの体験を書いた文章、対談、アンケート調査、あるいは分析・調査した文献で確認することができる。アンケートでは認定司書を目指した理由として司書の社会的地位の向上、司書の仕事を継続するうえで役立つ、司書としての自分の能力を公的に確認、といった要素が選択されている。
また、同様にアンケートでは申請にあたって最も課題や苦労としたことには、論文・著作の作成が挙げられている。論文・著作の作成は毎年の『図書館雑誌』5月号に掲載される審査結果報告でも認定に至らなかった要因として特記されている。こういった事情を踏まえて、認定司書の申請を奨励する文献では著作・論文の作成について触れていることが多い。論文以外にも、司書職制がある自治体の図書館員が認定の必要性をあまり感じていない、図書館員にとって認定の直接的なメリットが見えないといった点は制度の発足前後からいわれてきていることで引き続き課題であるといえる。
たしかに認定司書制度は給与やポストといった分かりやすいメリットを直接的に提供するものではない。しかし、この国の図書館員および関係者は、自らのキャリアをデザインして深めていくという発想に欠けてきた。本来構成員がそれぞれ固有のキャリアを有している集団こそが専門職集団である。そして、その人に固有のキャリアを考えるための材料が認定司書である。公益法人発足当時の理事長が「『日本図書館協会認定司書』のバッチをつけた司書が、ワインのソムリエのように、全国各地の図書館で市民の相談に乗っている」と期待した光景が実現するように多くの図書館員がこの制度に申請することを希望する。
※筆者は、認定司書の制度設計から関わり現在認定司書事業委員長、認定司書審査会委員の立場にあるが、この文章はあくまで筆者の個人的見解である。
Ref:
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