E2844 – 第35回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会<報告>

カレントアウェアネス-E

No.513 2025.11.20

 

 E2844

第35回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会<報告>

国立国会図書館収集書誌部外国資料課・伊藤りさ(いとうりさ)
国立国会図書館電子情報部電子情報企画課・池田功一(いけだこういち)

 

  2025年9月10日から13日まで、日本資料専門家欧州協会(EAJRS; E2751ほか参照)第35回年次大会が、ドイツのハイデルベルク大学でのオンサイト及びオンラインのハイブリッド形式により開催された。筆者2人はオンサイトで参加した。今大会には16か国から147人が参加し、うちオンサイト参加は102人、日本からはオンサイトとオンラインを合わせて85人が参加した。2025年は「日本研究と図書館の変遷: 江戸時代から現代まで」(Japanese Studies and the changing roles of libraries from the Edo period to the present)をテーマに掲げ、計29件の発表が行われたほか、複数のリソース・プロバイダー等による発表・紹介や、9月9日には大学共同利用機関法人人間文化研究機構DH推進室/DHコンソーシアムプロジェクト(DiHuCo)事務局主催によるプレイベントも実施された。

  国立国会図書館(NDL)からは、伊藤が、「デジタル・リソースを活用した人形浄瑠璃研究」というタイトルで、インターネットで提供されているリソース類のうち、義太夫節人形浄瑠璃の研究を行う際によく利用している当館及び他機関のオンラインサービスの報告を行った。また、池田はプレイベントのうち同志社大学の大井将生氏が講師を務める「ジャパンサーチのキュレーション活用ワークショップ」に参加し、マイギャラリー機能を活用したハンズオンで、ジャパンサーチの操作方法に関する質問対応や、今後の開発等に資する情報収集を行った。

  年次大会の各発表では、書誌研究、資料管理、日本関係資料、デジタルヒューマニティーズ(DH)、生成AI活用等バラエティに富んだテーマが扱われたが、以下ではそのいくつかを紹介する。

  カリフォルニア大学バークレー校C. V. スター東アジア図書館(米国)のToshie Marra氏からは、2023年に同館に寄贈されたDavid W. Condeのコレクションが紹介された。戦後、GHQで民間情報教育局(CIE)の映画部門の班長も務めたCondeのコレクションには、日本の映画会社が検閲用にCIEに提出した映画のあらすじや脚本、俳優の写真、ポスターやフィルム等、多岐にわたる資料が含まれている。

  リュブリャナ大学(スロベニア)のChikako Shigemori Bučar氏からは、スロベニア民族学博物館が所蔵する三十六歌仙絵の内容が詳しく報告された。これは、1959〜62年に当時のユーゴスラビア連邦人民共和国の大使として日本に駐在したFranc Kos博士が持ち帰った日本の美術品のうちの1点で、日本文では珍しいとされている左書きが14例含まれており、スロベニアで唯一の三十六歌仙絵であるとの紹介があった。

  「日本学におけるデータとは?」をテーマとしたパネルディスカッションでは、参加者間で課題意識を共有するため、事前アンケートで「データと聞いたとき何を想像するか」「どのようなデータを研究に使いたいか」「データに対する思い」などの質問が投げかけられた。チューリッヒ大学図書館(スイス)の神谷信武氏、オスロ大学図書館(ノルウェー)のマグヌスセン矢部直美氏、国際日本文化研究センターの江上敏哲氏、国立歴史民俗博物館の後藤真氏が登壇し、これらの事前アンケート結果を紹介しながら、日本学で扱われるデータの種類、デジタル時代における研究とリテラシー、データのマネジメントとアクセス提供、生成AIの学習データとその出力の特性など、幅広く議論が展開した。

  今回のEAJRSも、さまざまな機関の研究者や研究支援に携わる図書館員、リソース・プロバイダー等が参加し、オンラインを含めた参加者数はこれまでで最多となった。参加のしやすさという点でオンライン開催のメリットは大きいが、現地でのレセプションやブレイクタイムなど、オンサイトならではの和やかな雰囲気の中で得られた交流や知見は、プレゼンテーションや質疑応答などでの意見交換とはまた違った示唆を多く含んでおり、大変有益であった。

  発表の概要及び資料については、EAJRSのウェブサイトで公開されている。発表の詳細は、そちらを参照されたい。

  次回の大会は、オランダ・ライデンで2026年9月1日から4日まで開催される予定である。

Ref:
“2025 Heidelberg”. EAJRS.
https://www.eajrs.net/2025-heidelberg
“EAJRS2025連携 大会プレイベントを開催します/Announcement for the EAJRS2025 Pre-event”. NIHU DH. 2025-09-05.
https://dh.nihu.jp/news/post/20250509
“David W. Conde Collection”. University of California Berkeley Library.
https://guides.lib.berkeley.edu/Conde_Collection
松﨑宏樹, 井上佐知子. 第34回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2024, (491), E2751.
https://current.ndl.go.jp/e2751