カレントアウェアネス-E
No.491 2024.11.21
E2751
第34回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会<報告>
利用者サービス部サービス企画課・松﨑宏樹(まつざきひろき)、
電子情報部電子情報企画課資料デジタル化推進室・井上佐知子(いのうえさちこ)
2024年9月11日から14日まで、日本資料専門家欧州協会(EAJRS;E2647 ほか参照)第34回年次大会が、ブルガリアの聖クリメント・オフリツキ・ソフィア大学でのオンサイト及びオンラインのハイブリッド形式により開催され、筆者2人はオンサイトで参加した。今大会には18か国から110人が参加し、うちオンサイト参加は75人、日本からはオンサイトとオンラインを合わせて59人が参加した。2024年は「デジタル・コネクティビティ及び人工知能の時代における日本資料」(Japanese resources in the age of digital connectivity and artificial intelligence)をテーマに掲げ、計28件の発表が行われたほか、複数のデータベースベンダー等によるワークショップや、ブルガリア国立図書館の修復室のオンサイト参加者向け見学会なども実施された。
国立国会図書館(NDL)からは、松﨑が、「国立国会図書館のデジタルデータでの資料提供サービス」というタイトルで、図書館向けデジタル化資料送信サービス、個人向けデジタル化資料送信サービスに加えて、今後当館でも開始予定の著作権法(昭和45年法律第48号)第31条第2項に基づく図書館等公衆送信サービスの概要や最近の動向について報告した。また、井上が「国立国会図書館が取り組む資料デジタル化及びテキスト化の全体像」というタイトルでNDLでの資料のデジタル化、テキスト化の進捗状況、課題、今後の展望について報告した。
また、井上は「図書館員スキル再考。オープンサイエンスへ向けて」というテーマで行われたパネルディスカッションへも参加し、人工知能(AI)リテラシーの必要性や図書館の役割、ツールの利便性と危険性を把握した上で利用することの重要性などを議論した。
その他の各発表では、書誌研究、歴史研究、デジタルヒューマニティーズ、データベース・事業紹介、コレクション紹介等バラエティに富んだテーマが扱われたが、以下では、今大会のテーマであるAIを利用した取組についての発表を紹介する。
米・コロラド大学ボルダー校の日本・韓国研究司書であるAdam H. Lisbon氏から、大学図書館における日本資料関係の司書業務を改善するための業務自動化の試みについて事例紹介があった。
国文学研究資料館基盤データセンターの小宮山史氏及び同館古典籍データ駆動研究センターの松原哲子氏から、2033年度までの大型プロジェクトである「データ駆動による課題解決型人文学の創成プロジェクト(国文研DDHプロジェクト)」の中で、古典籍画像データのテキストデータ化において、AIを用いたOCR処理に加え、一部の資料についてはAIを用いたテキストの校正も行っていることが紹介された。
国立歴史民俗博物館の後藤真氏から、近年の日本のデジタルヒューマニティーズ及びデジタルアーカイブの動向について発表があった。このうち、AIを活用した新しいサービスとして、Sakana AI株式会社が開発した浮世絵カラー化モデル「Evo-Nishikie」及び浮世絵風画像生成モデル「Evo-Ukiyoe」、人文学オープンデータ共同利用センターによる「IIIF Tsukushi Viewer(試行版)」、TOPPAN株式会社によるくずし字の利活用サービスである「ふみのは」が紹介された。
各方面でのAIの利用は確実に広がっており、引き続きその利用動向などを注視する必要があるだろう。
EAJRSでは、プログラムの内外で、意見交換が活発に行われる。海外における日本研究の実情把握や日本資料専門家の人的ネットワークの構築に最適の機会である一方、3割程度はオンライン参加である。しかし、オンライン開催は参加のしやすさという点でのメリットが大きいため、今後も併用しての開催が望まれる。
発表資料及び動画については、EAJRSのウェブサイト及びYouTubeチャンネルで公開されている。発表の詳細は、そちらを参照されたい。
次回の大会は、ドイツ・ハイデルベルグで2025年9月10日から13日まで開催される予定である。
Ref:
EAJRS.
https://www.eajrs.net/
データ駆動による課題解決型人文学の創成プロジェクト.
https://lab.nijl.ac.jp/humanitiesthroughddps/
“日本の美を学んだAI:浮世絵風画像生成モデルEvo-Ukiyoeと浮世絵カラー化モデルEvo-Nishikieを公開”. sakana.ai. 2024-07-21.
https://sakana.ai/evo-ukiyoe/
“IIIF Tsukushi Viewer”. 人文学オープンデータ共同利用センター.
http://codh.rois.ac.jp/software/iiif-tsukushi-viewer/
ふみのは.
https://www.toppan.com/ja/joho/fuminoha/
小川那瑠, 佐藤菜緒惠. 第33回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2023, (468), E2647.
https://current.ndl.go.jp/e2647