E2752 – 第20回電子情報保存に関する国際会議(iPRES 2024)<報告>

カレントアウェアネス-E

No.491 2024.11.21

 

 E2752

第20回電子情報保存に関する国際会議(iPRES 2024)<報告>

電子情報部電子情報企画課・木下貴文(きのしたたかふみ)、
関西館電子図書館課・松田恵里(まつだえり)

 

   第20回電子情報保存に関する国際会議(iPRES 2024;E2648ほか参照)が、2024年9月16日から20日の5日間にわたり、ベルギーのゲントで開催された。前回に引き続きオンサイト及びオンラインのハイブリッド形式で開催され、国立国会図書館(NDL)からは、オンサイト、オンラインそれぞれ一人ずつ参加した。

   初日は主にワークショップが行われた。2日目から4日目は、基調講演、論文発表、パネルディスカッション、ポスター発表、チュートリアル、ライトニングトーク等が開催された。5日目にはオンサイト参加者のみ、ベルギー国内の機関を見学する機会が設けられた。

   各セッションの内容は多岐にわたり、大方のセッションがオンライン参加者に同時配信された。以下、筆者らが参加したセッションから特に興味深かったものを紹介する。

   初日のワークショップでは、E-ARK CSIP(Common Specification Information Packages)に関するものが興味深かった。これは長期保存システムで扱われるコンテンツを含む情報のまとまり(情報パッケージ)の仕様を定めたもので、フォルダ構造や付与すべきメタデータ(特にMETSファイルが重要な役割を担う)について具体的に定めている。当該仕様の策定作業は欧州委員会(EC)によるeArchiving Initiativeの一環として位置付けられており、関連して、アップロードされたデータの本仕様への適合性を判定するバリデーションサービスの運用や、本仕様に適合する情報パッケージを投入可能である等の要件を満たすデジタルアーカイブの認証等も行っているとのことだった。

   なお、上記以外でも、情報パッケージの仕様に関係する発表はいくつか見られ、OCFL(E2314参照)に関するワークショップや、Preservica社によるOPEX/PAXフォーマットについての発表などがあった。

   テーマや保存対象が特徴的であったセッションも紹介したい。セッションの中にはアートを主題とするものがあり、特色のあるプロジェクトや調査研究の発表が行われた。例えばスイス・チューリッヒ美術館等からは、ある詩人の姿を3つの映像として映しながら彼の詩の朗読を流す20年以上前のメディアアートの一作品をハードディスクからバックアップした試みが紹介された。また、ベルギーのLUCA School of Arts等による幅100メートルを超す100年以上前の絵画「コンゴのパノラマ」のデジタル化の取組が紹介された。どちらのプロジェクトも、メディア保存やアートの専門家が組織を越えて集まり、協力して行われたものである。なお、「コンゴのパノラマ」はベルギー植民地時代の作品であることから、植民地時代の遺産をデジタル化することに対する倫理的な課題にも言及していた。

   そのほか、英国のアーティストを調査対象としたデジタル保存の知識と実践の現状に関する聞き取り調査の報告もあり、デジタル資料をアーティスト自らが保存していくことの難しさが示された。自主的なデジタル保存が困難であることは、アートの分野に限らず、知識や資金に乏しいコミュニティアーカイブ、小規模な組織や個人にとっても同様であり、デジタル保存の取組に向けたハードルを低くする努力の必要性も訴えていた。

   アート以外の保存対象として、米・ドレクセル大学からはオンライン広告、ベルギー国立公文書館からは政策決定過程で用いられたテキストメッセージやインスタントメッセージの保存に関する発表が行われた。両者とも、保存方法に関する技術的課題に加え、これらの特殊な資料の保存の意義にも触れていた。

   なお、NDLからは、ポスターセッションにおいて、2023年度に実施した図書付録の光ディスク(CD等)のマイグレーション作業について報告し、参加者との情報交換等を行った。その他、日本からは、人間文化研究機構の亀田尭宙特任助教らによるポスター発表があった。発表は、研究データのアクセシビリティと相互運用性を維持するために必要な手順やツールの特定を目的として、氏が関わる2つの事例(人文情報学分野の研究データ/デジタルアーカイブサービスのリンクトデータ及びIIIF)を考察されていた。OAIS参照モデル(CA1489参照)に沿った形での継続的な研究データ管理の実践方法や、重複するデータの扱い等について議論がなされていた。

   iPRES 2024のウェブサイトには、いくつかのセッションの予稿が掲載されているので、参照されたい。

   第21回となるiPRES 2025はニュージーランド・ウェリントンで、2025年11月3日から7日までオンサイト及びオンラインのハイブリッド形式で開催される予定である。

Ref:
iPRES 2024.
https://ipres2024.pubpub.org/
“Common Specification for Information Packages”. DILCIS Board.
https://dilcis.eu/specifications/common-specification
“eArchiving Initiative”. Shaping Europe’s digital future.
https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/activities/earchiving
“Using OPEX and PAX for Ingesting Content”. Preservica.
https://developers.preservica.com/blog/using-opex-and-pax-for-ingesting-content
The Panorama of Congo: Cultural Heritage and Colonial History.
https://congopanorama.filmeu.eu/
Kameda, Akihiro. Exploring Preservation of Research Data and its Context through Case Studies. Zenodo. 2024.
https://zenodo.org/records/13756258
iPRES 2025.
https://www.ipres2025.org/
大沼太兵衛, 依田紀久. 第19回電子情報保存に関する国際会議(iPRES 2023)<報告>. カレントアウェアネス-E. 2023, (468), E2648.
https://current.ndl.go.jp/e2648
松永しのぶ. 電子情報の保存・管理の標準手法“Oxford Common File Layout”. カレントアウェアネス-E. 2020, (400), E2314.
https://current.ndl.go.jp/e2314
栗山正光. デジタル情報保存のためのメタデータに関する動向. カレントアウェアネス. 2003, (275), CA1489, p. 13-16.
https://doi.org/10.11501/1012127