E2648 – 第19回電子情報保存に関する国際会議(iPRES 2023)<報告>

カレントアウェアネス-E

No.468 2023.11.16

 

 E2648

第19回電子情報保存に関する国際会議(iPRES 2023)<報告>

電子情報部電子情報企画課・大沼太兵衛(おおぬまたへえ)、
関西館電子図書館課・依田紀久(よだのりひさ)

 

  第19回電子情報保存に関する国際会議(iPRES 2023;E2557ほか参照)が、2023年9月19日から22日の4日間にわたり、米国イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のカンファレンスセンターで開催された。前回に引き続きオンサイトおよびオンラインのハイブリッド形式で開催され、国立国会図書館(NDL)からは、オンサイト、オンラインそれぞれ一人ずつ参加した。当館からのオンサイト参加は、2019年(第16回)以来4年ぶりとなる。

  初日はPREMIS/METS(CA1690ほか参照)、電子情報保存のためのストレージに関する基準(Digital Preservation Storage Criteria;E2249ほか参照)、電子メールの保存ツール等のチュートリアルやワークショップが開催された。2日目にオープニングが行われ、以降、基調講演、研究発表、事例報告、パネルディスカッション等が開催された。各セッションは、「持続可能性」、「理論から実践へ」、「デジタルアクセシビリティ、包摂、多様性」等に分類され、六つのホールで並行して開催されるとともに、おおむね全てがオンライン参加者に同時配信された。以下で、参加したセッションから特に興味深かったものを紹介する。

  実践的な報告として、米国議会図書館(LC)からウェブアーカイブ事業における収集データの品質保証の取組について報告があった。同館のウェブアーカイブでは、Archivability(技術的な収集可能性の評価)、Relevance(データのサイズ等での適合性の評価)、Correspondence(視覚的、あるいは操作面での一致性の評価)の三つのアプローチから、アーカイブされたコンテンツの品質保証を行っている。このうち一致性の評価について、収集対象資料の選定に関わる職員等とともに品質のスコアリングを試みる新たな取組が報告された。

  また、米国大統領の任期満了に際し連邦政府のウェブサイトをアーカイブする共同プロジェクト“End of Term Web Archive”について、同プロジェクトを進める米・ノーステキサス大学等から、収集データをAmazon Web Service(AWS)のプログラム“Open Data Sponsorship Program”の一環としてオープンデータセットとして公開した事例の報告があった。同プロジェクトの収集データはこれまでもインターネット上で利用可能となっていたが、その収集データに加え、派生的に生成した各種データもあわせて公開したものである。

  これらの発表は、ウェブアーカイブ分野における収集の品質や、提供の利便性の向上を目指す着実な実践として興味深いものであった。

  一方、理論面に焦点を当てた発表も見受けられた。米・ハーバード大学のエイブラムス(Stephen Abrams)氏は“Rethinking Digital Preservation: Conceptual Foundations”と題し発表を行った。同学のデジタルリポジトリサービスのリニューアルプロジェクトである“DRS Futures Project”においては、まず理想的なデジタルリポジトリを哲学的・概念的に抽象化して構想・モデル化し、それを最終的に実現可能な設計に落とし込む流れでプロジェクトが行われたことの報告があった。また、デジタル保存連合(DPC;E2361参照)のポップハム(Michael Popham)氏は“Notions of value in digital objects”と題した発表を行い、アーカイブ機関が保存すべき資料として、アナログ資料と比べた場合のデジタル資料固有の「価値」は何かという論点をめぐって、過去の類似の議論ではデジタル資料の経済的な価値やコストをベースとした検討に傾きがちであったことを指摘し、より広い見地からの考察が必要であることを述べた。

  長期保存の分野に長年にわたり携わってきた両氏の発表は、この分野が理論と実践が両輪となって発展を続けてきたことを改めて感じさせるものであった。

  3本行われた基調講演では、アフリカ系アメリカ人の関係資料、米国統治下のフィリピンの関係資料、戦争下のウクライナの資料のアーカイブ構築に携わってきた3氏がそれぞれ講演を行った。いずれもコミュニティの資料をコミュニティの人たちとともにデジタル形式で保存していくことの意義や姿勢を伝える内容であった。特に米・ミシガン大学のプンザラン(Ricardo Punzalan)氏の講演は、フィリピン関係資料のアーカイブ構築の経験に基づき、資料に関係するコミュニティとの互恵的な在り方はどのようなものかを説くものであった。きめ細やかな関係の重要性を指摘するこの講演は、日本におけるデジタル化関連事業の今後の在り方を考えるにあたっても、示唆に富むものと感じた。

  なお、iPRES 2023のウェブサイトには、本稿で紹介したものも含め、各セッションの予稿が掲載されている。参照いただきたい。

  第20回となるiPRES 2024はベルギー・ヘントで、2024年9月16日から20日までオンサイトおよびオンラインのハイブリッド形式で開催される予定である。

Ref:
iPRES 2023.
https://ipres2023.us/
“Program”. iPRES 2023.
https://ipres2023.us/program/
“From Theory to Practice – 4”. iPRES 2023.
https://ipres2023.us/timetable/event/tp-4/
“From Theory to Practice – 6”. iPRES 2023.
https://ipres2023.us/timetable/event/tp-6/
“From Theory to Practice – 2”. iPRES 2023.
https://ipres2023.us/timetable/event/tp-2/
“From Theory to Practice -1”. iPRES 2023.
https://ipres2023.us/timetable/event/tp-1/
End of Term Web Archive.
http://eotarchive.org/
“End of Term Web Archive Dataset”. Registry of Open Data on AWS.
https://registry.opendata.aws/eot-web-archive/
“DRS Futures Project”. Harvard University.
https://sites.harvard.edu/drs-futures/
iPRES 2024.
https://ipres2024.pubpub.org/
木下貴文, 本田樹. 第18回電子情報保存に関する国際会議(iPRES2022)<報告>. カレントアウェアネス-E. 2022, (447), E2557.
https://current.ndl.go.jp/e2557
北島顕正. 「ごっこ遊び」で学ぶ電子情報保存:ボードゲームレビュー. カレントアウェアネス-E. 2020, (389), E2249.
https://current.ndl.go.jp/e2249
志村努. 2023年IIPC総会・ウェブアーカイブ会議<報告>. カレントアウェアネス-E. 2023, (460), E2615.
https://current.ndl.go.jp/e2615
栗山正光. 動向レビュー:デジタルリポジトリにおけるメタデータ交換の動向. カレントアウェアネス. 2009, (300), CA1690.
https://current.ndl.go.jp/ca1690