E2361 - 英・デジタル保存連合と「デジタル保存賞」の来し方

カレントアウェアネス-E

No.409 2021.03.04

 

 E2361

英・デジタル保存連合と「デジタル保存賞」の来し方

聖学院大学基礎総合教育部・塩崎亮(しおざきりょう)

 

   英国のデジタル保存連合(Digital Preservation Coalition:DPC)は2001年に結成されたデジタル保存に関する啓蒙普及団体である。法的には非営利の保証有限責任会社という位置づけで,公式な設立年は英国下院で発足イベントが行われた2002年と公表されてきた。設立を牽引した一人ビーグリー(‪Neil Beagrie‬)氏によれば,その契機は1999年に英・ウォリックで開催されたデジタル保存に関するワークショップでまとめられた提言にさかのぼるという。設立の背景的要因として,公共・民間部門を問わず,資金提供者や社会にデジタル保存の意義を訴えていくには単独機関だけでは限界があり,技術的・組織的な課題の大半は共同して解決していく方が効率的・効果的であることなどが関係者間で共有されていたことを指摘できる。‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬‬

   欧米では同時期に類似の問題意識から,デジタル保存に関する国・国家間レベルでのネットワーク形成へ向けた動きが生じていた。たとえば米国議会図書館(LC)によるNDIIPP(2000年から2018年頃;E1170参照),欧州委員会(EC)によるERPANET(2002年から2004年;CA1490参照),オーストラリア国立図書館(NLA)を中心としたPADI(1993年から2010年頃;CA1494参照)などがあげられるが,それらのプロジェクトと異なり,DPCは参加機関の会費により運営される会員制組織として発足した。いまやDPCはアーカイブズ領域の国際研究プロジェクトInterPARES(1999年発足;E1715参照)に匹敵する,長寿コミュニティである。その事業規模は拡大傾向にあり,事務局員は初期の2人から9人に増員されるまでになった。もともとは英国・アイルランドが主対象だったが,近年では国際規模で事業が展開されだしている。正・準会員から成る参加機関は,2002年4月時点で3か国19機関のところ,2020年12月時点では12か国以上111機関(国立の図書館・文書館などの文化遺産機関のほか,銀行やメディア企業などを含む)を数えるまでに拡張してきた。このほか,デジタル保存関連企業がサポーターとして参画する仕組みも設けられている。

   核となる活動内容は,デジタル保存に関する啓蒙普及,コミュニティ形成,人材育成,参加機関間での情報共有などで当初から変わっていない。会員に限定した講座・ワークショップが多数提供されているが,成果の一部は『デジタル保存の手引き』や技術動向レポートなどの形で一般にも公開されてきた。近年では啓蒙活動の一環として,損失の可能性が高いデジタルコンテンツのリスト“BitList”の作成,「世界デジタル保存デー」制定なども確認できる。

   そのほかに以前から取り組まれている啓蒙活動として「デジタル保存賞」と呼ばれる表彰制度があり,2004年から2020年までに計9回開催されている(初期は英国保存修復学会と共催)。2018年からはGoogleが主要スポンサーに名を連ねていることも興味深い。当初は1つの賞しかなかったが,回を重ねるごとに,組織だけでなく個人へ,保存技術だけでなく連携協力の実践へと受賞対象は広がりを見せてきた。直近では7つの賞が設けられるまでに至り,歴代の受賞組織/者は30件にのぼる。たとえば,保存メタデータ標準PREMIS(CA1561参照),電子ファイル形式の識別ツールDROID,ウェブアーカイブへのアクセスプロトコルMemento(CA1733参照),Internet Archive(の創始者としてのケール [Brewster Kahle] 氏),電子メールアーカイブのソフトウェアePADD,米・国家デジタル管理連盟NDSA(E1170参照)によるデジタル保存対応レベルの評価ツールなどがあげられ,先駆的な技術や事例が主に英米から生み出されてきた歴史を追認できる。

   様々な領域で導入されている表彰制度と同じく,デジタル保存賞は,受賞(候補)者にとっての宣伝手段となるだけでなく,コミュニティ全体の信用・権威を高める効果をももつと言える。2022年はDPCの正式な発足から20周年にあたり,10回目の当該賞授与式が行われる予定だが,デジタル保存の国際会議iPRES(E2211参照)も英国であわせて開催予定であり,事務局をDPCが担う。予定通り開催されるよう新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の早期収束を願いつつ,世界中から立候補可能な賞である以上,日本からのノミネートも期待したいところである。

Ref:
Digital Preservation Coalition.
https://www.dpconline.org/
Beagrie, N. Towards a Digital Preservation Coalition in the UK. Ariadne, 2001, no.27.
http://www.ariadne.ac.uk/issue/27/digital-preservation/
Beagrie, N. An Update on The Digital Preservation Coalition. D-Lib Magazine. 2002, vol.8, no.4.
https://doi.org/10.1045/april2002-beagrie
McMeekin, S. “Securing Our Digital Legacy: An Introduction to the Digital Preservation Coalition”. bloggERS!: The blog of SAA's Electronic Records Section. 2019-08-13.
https://saaers.wordpress.com/2019/08/13/securing-our-digital-legacy-an-introduction-to-the-digital-preservation-coalition/
Baucom, E. A brief history of digital preservation. Digital preservation in libraries: Preparing for a sustainable future. ALA, 2019, p. 3-19.
渡辺悦子. デジタル保存連合によるデジタル保存スキルの普及にかかる取組について. アーカイブズ, 2020, no.78.
http://www.archives.go.jp/publication/archives/no78/10168
デジタル情報保存プログラムNDIIPP,設立から10年の報告書. カレントアウェアネス-E, 2011, (192), E1170.
https://current.ndl.go.jp/e1170
古賀崇. 米国アーキビスト協会2015年次大会<報告>. カレントアウェアネス-E, 2015, (289), E1715.
https://current.ndl.go.jp/e1715
工藤哲朗. 第16回電子情報保存に関する国際会議(iPRES2019)<報告>. カレントアウェアネス-E, 2019, (382), E2211.
https://current.ndl.go.jp/e2211
村上泰子, 齋藤健太郎, 松林正己, 清水裕子, 井田敦彦. 欧州のウェブ・アーカイビング. カレントアウェアネス, 2003, (275), CA1490, p.17-24.
https://current.ndl.go.jp/ca1490
原田久義. PADIとSafekeepingプロジェクト. カレントアウェアネス. 2003, (276), CA1494, p. 6-8.
https://doi.org/10.11501/287164
栗山正光. デジタル資料保存リポジトリの動向. カレントアウェアネス. 2005, (284), CA1561, p. 12-15.
https://doi.org/10.11501/287105
中島美奈. ウェブアーカイブの課題と海外の取組み. カレントアウェアネス. 2010, (306), CA1733, p. 12-15.
https://doi.org/10.11501/3050821