E2800 – 2026年度から始まる未管理著作物裁定制度について

カレントアウェアネス-E

No.504 2025.07.03

 

 E2800

2026年度から始まる未管理著作物裁定制度について

文化庁著作権課

 

  今日では、デジタル・ネットワークの発達に伴い、コンテンツの創作や発信、利用が容易になり、一般の人が創作しインターネット上に掲載したコンテンツや過去の作品の新たな利用ニーズが高まっている。こうした中で、2023年の著作権法改正により、著作権者等の許諾を得て利用するという著作権法の原則は維持しつつ、許諾を得て利用することが困難とされる、著作物等の利用の可否に係る著作権者等の意思が確認できないコンテンツについて、適法な利用を促し、それにより発生した対価を著作権者等に還元する仕組みとして、未管理著作物裁定制度が創設された。本制度は、2026年度から運用を開始する予定である。

●未管理著作物裁定制度の概要とねらい

  未管理著作物裁定制度は、集中管理がされておらず、その利用可否に係る著作権者等の意思が明確でない著作物等について、文化庁長官の裁定を受け、通常の使用料の額に相当する額を考慮して定められる補償金を支払うことで、3年を上限とする時限的な利用を可能とする制度である。

  本制度を活用することで、これまでは対価を支払って適法に利用したいと思いながらも著作権者等の意思が確認できないため利用を諦めざるを得なかった著作物等の利用が可能となる。具体的な利用場面としては、古いゲームソフトの復刻版を出したいが著作権者である会社が休眠状態で、連絡しても応答がない場合や、地方の博物館において地元の風土に関する書物をデジタルアーカイブ化する際に、著作権者は判明しているが連絡してもそのうち一部から応答が得られないことにより権利処理ができない場合、絵画をホームページに掲載したいが、著作権が相続された結果、一つの作品に複数の著作権者がおり、その一部から応答がない場合等が考えられる。

●対象となる著作物等

  本制度の対象となるのは、「集中管理がされておらず、その利用可否に係る著作権者等の意思が明確でない著作物等」であり、裁定の申請をしようとする際には、利用しようとしている著作物等がこれに該当するかを確認する必要がある。まず、著作権等管理事業者に管理が委託されている著作物等は対象とはならない。また、著作物(その複製物)の周辺(書籍の奥付その他の紙面や、CDのパッケージ、動画の概要欄等)や著作権者のホームページ等において、「無断転載禁止」や「営利目的でない場合は自由利用可」などの利用のルールや、特定の連絡先で利用希望を受け付ける旨が明記されているものも、利用可否に係る著作権者等の意思が明確であるため本制度の対象から外れる。そのため、本制度により自身の著作物等を利用されたくない著作権者等は、利用のルールや、特定の連絡先で利用希望を受け付ける旨を、著作物周辺や自身のホームページ、SNSのプロフィール欄等に明記することで、本制度の対象外とすることができる。これら以外の著作物等であって、連絡先が何ら明記されていないものや、連絡先に利用に関する問合せをしたものの14日間応答がなかったものが本制度の対象となる。

●裁定の取消しと著作権者等にとってのメリット

  申請が要件を満たし、裁定がなされたときには、その旨が文化庁のホームページで広く公表されることとなっており、自らの著作物等が裁定を受けて利用されていることに気づいた著作権者等は、文化庁長官に裁定の取消しを請求することができる。裁定が取り消された場合、裁定による利用は停止され、著作権者等はそれまでの利用に係る補償金を受け取ることができる。利用が停止された場合、その後の著作物等の利用は著作権者等と利用者の間のライセンス交渉によることとなる。そのため、本制度は、著作権者等にとっても、これまで気づかなかった著作物等の有償での利用のニーズを知るきっかけになり、その後のライセンスビジネスにも繋がるというメリットがあると考えられる。

●おわりに

  現在、2026年度からの制度運用開始に向けた準備を進めているところであり、運用の詳細については、今後ガイドラインなどを策定し、公表する予定である。並行して、文化庁では、簡素で一元的な権利処理の実現に資する分野横断権利情報検索システム、また、個人クリエイター等が自身の著作物等に関する意思表示をすることができる場となる個人クリエイター等権利情報登録システムの構築等を進めている。本制度を契機として、著作権者等による意思表示を含む著作物等の適切な管理が進むとともに、著作物等の円滑な利用と著作権者等への対価の還元が促進されること、ひいては我が国の文化の更なる発展につながることが期待される。

Ref:
“未管理著作物裁定制度”. 文化庁.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/tyosakubutsu/index.html