E2801 – Subscribe to Open(S2O)の現状と課題

カレントアウェアネス-E

No.504 2025.07.03

 

 E2801

Subscribe to Open(S2O)の現状と課題

東京大学附属図書館・尾城友視(おじろともみ)、横井慶子(よこいけいこ)

 

  近年、Subscribe to Open(S2O)と呼ばれるオープンアクセス(OA)出版モデルを採用する出版社や学術雑誌が増加している。従来、学術雑誌は大学等が年間購読料を支払い、購読者のみが閲覧可能であったが、誰もが無料でアクセス可能なOA誌への移行が進んでいる。S2Oもそうした流れの一つであり、比較的新しい出版モデルであることから、本稿ではその概要と動向、図書館の視点から見た課題を述べる。

●S2Oの仕組み

  S2Oとは、購読モデルを基に学術雑誌を年単位でOA出版へ転換する出版モデルである。一定数以上の機関が、対象となる学術雑誌の購読契約を行うことで、当該誌の年間購読収入が十分な額に達すると、その年に刊行される巻号がOAとして公開される。購読機関が十分に集まらない場合はS2Oが成立せず、従来の購読モデルが維持され、購読機関のみがアクセス可能となる。このように、購読収入に基づきOA化の可否が毎年判断される仕組みである。

  S2OではOA化の費用が購読収入で賄われるため、著者が自身の論文をOA化するために論文処理費用(APC)を支払う必要はない。研究費の多寡や助成の有無にかかわらず論文をOA化できるため、著者にとって公平なモデルといえる。購読機関や出版社にとっても、APC支払いに伴う管理コストは不要である。また、購読を続ける限り、S2Oの成否にかかわらず当該巻号へのアクセス権が保証されるため、購読機関にとっても受け入れやすいモデルである。

  一方、S2Oは購読収入に依存するため、OA化の持続可能性には不確実性が伴う。また、S2OによりOA化された巻号は非購読機関からもアクセス可能となるため、フリーライダーの存在が構造的に許容される。そのため、S2Oモデルは、既に一定規模の購読機関を抱えており、OA化しても購読を続ける価値が認識される権威誌にしか適さないとの指摘もある。

●出版社のS2O採用の動き

  S2Oは、米国の非営利出版社Annual Reviewsによって2020年に試験的に導入され、2023年には同社の全51誌に適用された。また、2020年にはS2Oの普及を目的として、出版社や図書館員などで構成される実践コミュニティ“S2O Community of Practice”が設立された。さらに、研究成果の完全かつ即時OAを目指し、欧州の研究助成機関を中心に構成されるイニシアティブcOAlition Sが、2021年にS2Oへの支持を表明した。S2O Community of Practiceの公開情報によると、近年では中小規模の出版社を中心にS2Oの採用が広がっている。ただし、Demography誌のように2年連続でS2Oが不成立となった事例も現れていることにも注意が必要である。

  研究助成機関等による論文のOA義務化の動きが強まる中、出版社もOA化への対応を迫られており、大手出版社のように包括的な転換契約の提示が難しい中小規模の出版社にとって、S2Oは一つの選択肢になっていると考えられる。しかしながら、その先行きは依然として不透明と言えよう。

●大学図書館から見たS2O

  学術雑誌の購読管理を担う図書館から見たS2Oの利点は、追加予算やAPC支払いに伴う管理負担なくOA推進に寄与できる点にある。自機関の研究者に対して、転換契約で行っているような細かな要件や制限なしに当該誌でのOA出版の機会を提供することもできる。

  しかし、S2Oの採用状況は図書館から把握しづらく、購読手続きを行う時期とS2O成否が確定する時期が異なるなど、複雑さがある。加えてS2Oモデルも多様化しており、出版社によって運用の細部が異なるため、自機関の研究者にOA出版の手段として情報提供するには図書館側の積極的な情報収集が必要となる。

  また、資料費の減少により、OA化される可能性があるS2O採用誌の購読継続が難しい状況も想定される。この場合、購読中止後にS2Oが成立しなければ、購読期間に空白が生じ、将来的にアクセスできない巻号が発生する可能性があるため、留意が必要である。図書館としては複雑な購読管理が求められる。

●今後の展望

  S2Oは、まだ新しいOA出版モデルである。安定したモデルとして定着するには、既存の購読機関が購読を続け、成立を重ねていくしかない。そのためには、出版社と図書館との関係性やコミュニケーションにも変化が必要だろう。図書館はまずS2Oの仕組みを理解し、自機関がOA推進にどう寄与すべきかを考え、より包括的な戦略の中でS2O誌の位置づけを検討することが求められる。今後も出版社と図書館双方の動向を注視する必要がある。

Ref:
Bosshart, S.; Cookson, R.; Hess, P. Open access through Subscribe to Open: a society publisher’s implementation. Insights: the UKSG journal. 2022, (35).
https://doi.org/10.1629/uksg.567
Hinchliffe, Lisa Janicke. “Subscribe to Open: A Mutual Assurance Approach to Open Access”. Scholarly Kitchen. 2020-03-09.
https://scholarlykitchen.sspnet.org/2020/03/09/subscribetoopen/
Crow, R.; Gallagher, R.; Naim, K. Subscribe to Open: A practical approach for converting subscription journals to open access. Learned Publishing. 2020, 33(2), p. 181-185.
https://doi.org/10.1002/leap.1262
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https://www.annualreviews.org/pb-assets/ar-site/about-us/annualreviews-impact-report-2023-digital.pdf
Subscribe to Open.
https://subscribetoopencommunity.org/
“cOAlition S endorses the Subscribe to Open (S2O) model of funding open access”. Plan S. 2021-04-27.
https://www.coalition-s.org/coalition-s-endorses-the-s2o-model-of-funding-oa/
Publishers Employing Subscribe-to-Open with Journal Counts Since 2020. 2025.
https://docs.google.com/document/d/1Me7X0HtV4n4Q-KWIu7HxORMGg8aWfC6mSGo8hRvlF5k/edit
Langham-Putrow, A.; Carter, S. Subscribe to Open: Modeling an open access transformation. College & Research Libraries News. 2020, 81(1), p. 18-21.
https://doi.org/10.5860/crln.81.1.18
船守美穂. 即時オープンアクセスを巡る動向:グリーンOAを通じた即時OAと権利保持戦略を中心に. カレントアウェアネス. 2023, (358), CA2055, p. 15-23.
https://doi.org/10.11501/13123926