E2647 – 第33回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会<報告>

カレントアウェアネス-E

No.468 2023.11.16

 

 E2647

第33回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会<報告>

利用者サービス部サービス企画課・小川那瑠(おがわなる)、
電子情報部電子情報企画課・佐藤菜緒惠(さとうなおえ)

 

  2023年9月13日から16日まで、日本資料専門家欧州協会(EAJRS;E2445ほか参照)第33回年次大会が、ベルギーのルーヴェン・カトリック大学(KU Leuven)でのオンサイト及びオンラインのハイブリッド形式により開催され、筆者2人はオンサイトで参加した。今大会には14か国から約100人が参加し、うちオンサイト参加は74人、また日本からはオンサイトとオンラインを合わせて50人が参加した。2023年は「日本研究の時流に適応する」(Adapting to Changing Trends in Japanese Studies)をテーマに掲げ、計28件の発表が行われたほか、複数のデータベースベンダー等によるワークショップや、ルーヴァン・カトリック大学(UCLouvain)図書館が所蔵する日本関係資料のオンサイト参加者向け見学会も実施された。以下では今大会の発表から筆者が特に興味を持ったものを報告する。

  基調講演では、兵庫県立歴史博物館長の藪田貫氏が「日本の「旧家」に眠る資料-政事・文事・家事」をテーマとし、分野ごとに資料の整理、研究、デジタル化が進められてきたところ、各分野のデジタルデータを関連付けて元の資料秩序を再構築し、その中でいかに物事の本質を考えるか、デジタル時代の調査研究の在り方を問いかけた。

  これに続く各発表では、書誌研究、歴史研究、デジタルヒューマニティーズ(DH)、データベース・事業紹介、コレクション紹介、料紙研究等バラエティに富んだテーマが扱われた。英国図書館(BL)の大塚靖代氏とChris Dillon氏は、光学文字認識(OCR)を活用した冊子体古典籍目録のオンライン化について発表した。作成された書誌データは、国文学研究資料館の国書データベース(E2612参照)との連携も進められている。また、米・オハイオ州立大学図書館のAnn Marie Davis氏等は北米の特徴的な日本研究コレクションを地図上にマッピングしたダッシュボード、スイス・チューリッヒ大学図書館の神谷信武氏は日本学関連のデータベース等を横断検索するアプリケーションについて発表した。各地に点在する日本関係資料に関する情報の集約、可視化、アクセス可能化は、引き続き重要な課題である。

  国立国会図書館(NDL)からは、筆者(小川)が、パブリックドメイン資料を活用した新しい電子展示会であるNDLイメージバンク等について発表を行った。また、米・南カリフォルニア大学のRebecca Corbett氏は東海道五十三次をテーマに北米の三つの大学のコレクション中の画像データを集約して再構築する電子展示会、信州大学の速水香織氏と白百合女子大学の宮本祐規子氏は国書データベース収録の古典籍画像を活用した教材開発、米・ハーバード大学のKatherine Matsuura氏は同学のライシャワー日本研究所が運営する日本国憲法改正に関するウェブアーカイブプロジェクトについて発表した。これらはキュレーションや教育利用によりデジタルデータの利活用促進を図る取組であり、デジタルデータの社会への還元は、今後ますます注目される観点だろう。

  「未来を拓く知識と技術:ChatGPT・AIリテラシー・デジタルヒューマニティーズ」をテーマとしたパネルディスカッションでは、DHへの図書館の関与の仕方を中心に意見交換が行われた。パネリストの一人である国立歴史民俗博物館の後藤真氏は、「日本におけるDigital Humanities及びデジタルアーカイブの全体動向」と題した報告も行った。これらを通じて、日本研究へのDHの応用や生成AIの活用に関する課題が確認されたが、特に生成AIについては世界的な議論が続いているところであり、引き続き動向を注視する必要があるだろう。

  このほか、幕末の長崎で設立された商社による日欧間商業書簡、米・プリンストン大学が所蔵する関東大震災関連のポスターやビラ等のデジタル化について発表があった。また、欧州におけるキリシタン版・キリシタン写本の初期の所有者や、英・オックスフォード大学ボドリアン図書館が所蔵する嵯峨本謡本のルーツに関する研究報告は、在外日本資料を取り扱うEAJRSならではの発表であった。

  NDLからは4年ぶりのオンサイトでの参加であった。EAJRSでは、懇親会、エクスカーションといった機会を通し、意見・提言が活発に交わされる。海外における「日本研究の時流」の把握や日本資料専門家の人的ネットワークの構築に最適の機会であると言えるだろう。

  発表資料及び動画については、EAJRSのウェブサイト及びYouTubeチャンネルで公開されている。発表の詳細は、そちらを参照されたい。

  次回の大会は、ブルガリア・ソフィアの聖クリメント・オフリツキ・ソフィア大学講堂で2024年9月11日から14日まで4日間の開催が予定されている。

Ref:
EAJRS.
https://www.eajrs.net/
“Japanese collection”. DIAL.num.
https://dial.uclouvain.be/digitization/en/digital-collection/japanese-collection
国書データベース.
https://kokusho.nijl.ac.jp/
Notable Japanese Collections in North America.
https://tinyurl.com/njcna
NDLイメージバンク.
https://rnavi.ndl.go.jp/imagebank/
Constitutional Revision in Japan.
https://www.crjapan.org/
Die internationale Geschäftskorrespondenz von L. Kniffler & Co. (1859-1876).
https://kniffler.ub.rub.de/exist/apps/Kniffler/index.html
“@eajrs7149”. YouTube.
https://www.youtube.com/@eajrs7149
日向智昭, 大沼太兵衛. 第31回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2021, (424), E2445.
https://current.ndl.go.jp/e2445
片岡真, 飯沼邦恵. 日本古典籍を身近にする「国書データベース」. カレントアウェアネス-E. 2023, (460), E2612.
https://current.ndl.go.jp/e2612