E2445 – 第31回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会<報告>

カレントアウェアネス-E

No.424 2021.11.11

 

 E2445

第31回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会<報告>

総務部支部図書館・協力課・日向智昭(ひゅうがともあき)
電子情報部電子情報企画課・大沼太兵衛(おおぬまたへえ)

 

   2021年9月15日から18日まで,日本資料専門家欧州協会(EAJRS;E2203ほか参照)第31回年次大会が,ロシア・サンクトペテルブルクのロシア科学アカデミー東洋古文書研究所でのオンサイトおよびオンラインのハイブリッド形式により開催され,筆者2人はオンラインで参加した。昨年2020年のEAJRS年次大会は,新型コロナウイルス感染症の感染拡大により中止されたため,今大会は2年ぶりの開催であった。今大会には19か国から約140人が参加し,うちオンサイト参加は25人,また日本からは58人が参加した。今年2021年は「日本資料における実質性・仮想性(Materiality and virtuality in Japanese studies resources)」をテーマに掲げ,計29件の発表(うちオンサイト12件,オンライン17件)が行われたほか,複数のデータベースベンダーによるワークショップや,オンサイト参加者向けのロシア国立図書館(サンクトペテルブルク)の見学会も実施された。発表資料及び動画については,EAJRSのウェブサイト及びYouTubeチャンネルで公開されている。

  国立国会図書館(以下「当館」)からは大沼が,“Developing new library services using AI (machine learning): an introduction to the Next Digital Library”(AI(機械学習)を用いた新たな図書館サービスの開発:次世代デジタルライブラリーの紹介を中心に)と題し,当館の次世代システム開発研究室が開発・提供している「次世代デジタルライブラリー」(E2154参照)について,その概要及び機能を紹介した。発表に当たっては,画像検索と全文検索の機能を中心に,実画面でのデモを併せて行った。また,関連事項として,当室が運営するNDLラボ(ウェブサイト),NDLラボ上にある実験サービスのソースコードをオープンソースとして公開している当室のGitHubアカウント,今年度進めている光学式文字認識(OCR)プログラム開発及びデジタル化資料のテキスト化プロジェクトの紹介を行ったほか,ジャパンサーチ(E2317参照)についても概要を紹介した。発表後の質疑では,英国図書館(BL)の大塚靖代氏から,BLにおける同様のラボ事業(E2370CA1854参照)等について言及があった。

  今大会の発表の一覧を概観すると,開催国ロシアからの発表が多い点が大きな特徴であり,ロシアの日本資料コレクションと日本研究の厚みを感じさせる大会となった。また,内容面では,コレクション紹介,歴史研究,データベース・事業紹介,デジタル人文学,日本語教育などバラエティに富んだテーマが議論された。以下に,そのいくつかを紹介する。

  ロシア科学アカデミー図書館のVarvara Firsova氏からは,19世紀を通じたロシア・日本両国における図書館発展の歴史が,比較歴史学の方法論により紹介された。発表では,公共図書館の動きに限らず,識字率の比較,貸本屋の存在,私設図書館の存在等について触れられたほか,日本の図書館史上における田中稲城や佐野友三郎の活動についても言及があった。

  全ロシア国立外国文献図書館のEkaterina Asadova氏の発表は,同館の日本コレクションの紹介に充てられた。同コレクションは図書約2万6,000点,76タイトルの逐次刊行物からなり,多数の全集類や各社の文庫等からなる充実した文学コレクションを所蔵しているほか,ロシア文学の日本語訳,尋常小学国語読本,経済書,法令資料といった多様な資料群も広く収集しているとのことであった。

  北米日本研究資料調整協議会(NCC)は,同協議会のComprehensive Digitization and Discoverability Program(CDDP)について紹介を行った。CDDPは,最新のテクノロジーを活用し,資料デジタル化の促進及びデジタル化した資料の共有を支援することを目指すタスクフォースであり,活動の一環として日本研究支援ツールの説明動画も公開している。公開動画の例として,当館とNCCが協力して作成したジャパンサーチの利用案内動画についても触れられた。

  「NIIワークショップ」では,国立情報学研究所(NII)から,CiNii ArticlesのCiNii Research(E2367参照)への統合,NACSIS-CATを始めとしたNIIのシステム業務の軽量化及び合理化(E2107参照),それによる利用への影響等,最近のNIIの事業説明が主に行われた。また,大学図書館における学術情報システムの整備に関し,「図書館システム・ネットワークプロジェクト2022」と称する新たなプロジェクトの紹介があった。

  次回の大会は,リスボン(ポルトガル)で2022年9月14日から17日の4日間を予定しており,可能な限りオンサイトでの開催を目指しているとのことである。EAJRSは,日本資料専門家の人的ネットワーク構築に格好の場のひとつである。オンライン参加には,参加のしやすさと引き換えに人的ネットワーク構築という点では大きな制約があるため,次回大会では従来のオンサイトでの交流の再開も期待されるところである。

Ref:
“2021 conference in Saint Petersburg: minutes”. EAJRS.
http://www.eajrs.net/2021-saint-petersburg-minutes
EAJRS. YouTube.
https://www.youtube.com/channel/UCaDvNifPoLWOsRrLUC2p-tg
NDLラボ.
https://lab.ndl.go.jp/
次世代デジタルライブラリー.
https://lab.ndl.go.jp/dl/
ジャパンサーチ.
https://jpsearch.go.jp/
Библиотека Российской академии наук.
http://www.rasl.ru/
Всероссийская государственная библиотека иностранной литературы имени М. И. Рудомино.
https://libfl.ru/
北米日本研究資料調整協議会.
https://guides.nccjapan.org/homepage
大島康作,鈴木宏宗. 第30回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2019, (381), E2203.
https://current.ndl.go.jp/e2203
青池亨. 国立国会図書館,次世代デジタルライブラリーを公開. カレントアウェアネス-E. 2019, (372), E2154.
https://current.ndl.go.jp/e2154
ジャパンサーチ正式版の機能紹介. カレントアウェアネス-E. 2020, (401), E2317.
https://current.ndl.go.jp/e2317
宮田怜. 英国図書館(BL)が展開する研究協力事業. カレントアウェアネス-E. 2021, (410), E2370.
https://current.ndl.go.jp/e2370
大波純一. 新しい学術情報検索基盤「CiNii Research」プレ版について. カレントアウェアネス-E. 2021, (410), E2367.
https://current.ndl.go.jp/e2367
佐藤初美. NACSIS-CAT/ILLの軽量化・合理化について(最終まとめ).
カレントアウェアネス-E. 2019, (364),E2107.
https://current.ndl.go.jp/e2107
東川梓. 国立図書館によるデジタル化資料の専門家育成:LCとBLの事例から. カレントアウェアネス. 2015, (325), CA1854, p. 5-7.
http://doi.org/10.11501/9497647