E2417 – Japan Open Science Summit 2021<報告>

カレントアウェアネス-E

No.419 2021.09.02

 

 E2417

Japan Open Science Summit 2021<報告>

電子情報部・中川透(なかがわとおる),
電子情報部電子情報流通課・関根美穂(せきねみほ),
横田志帆子(よこたしほこ),伊藤実(いとうみのる),
髙橋美知子(たかはしみちこ)

 

   2021年6月14日から19日までJapan Open Science Summit 2021(JOSS2021)がオンラインで開催された。オープンサイエンスに関する日本最大のカンファレンスであり,市民科学,テクノロジー,政策・ポリシー,図書館・大学のデータ管理,分野におけるデータ公開・管理等をテーマに,オープンサイエンスの動向や研究データの共有・利活用等に関する23のセッションが行われた。本報告では,これらのうち,国立国会図書館(NDL)が主催したセッションとそれ以外の3つのセッションの概要を報告する。

   NDLは「Wikidata×デジタルアーカイブ×LOD―国立国会図書館・東京藝術大学・大阪市立図書館のリソースをつなげてみる―」セッションを主催した。LOD(Linked Open Data;CA1746参照)とWikidataについての概要や美術館・図書館・文書館・博物館(GLAM)分野との関係についての解説に続き,Wikimedia CommonsやWikidataを利用した東京藝術大学音楽学部大学史史料室のデジタルアーカイブ公開,大阪市立図書館のオープンデータ活用(CA1925参照)とWikimedia Commonsへの登録の取組について講演が行われた。その後,NDLが提供する「歴史的音源」(E1186参照)のオープンデータや国立国会図書館デジタルコレクションの画像データをWikidataとWikimedia Commonsに登録し,登録したデータと東京藝術大学等他機関のデータとの関連付けを可視化するデモンストレーションが行われた。ディスカッションでは,ライセンス処理の考え方や,デジタルアーカイブを公開した経験を踏まえたWikidataやWikimedia Commonsへの関わり方について等の質問の他,NDLやジャパンサーチ(E2317参照)からのシステマティックなデータ投入への期待等が寄せられた。

  「個人発表セッション」では多様な分野の発表があり,オープンサイエンスというテーマの幅広さを示すものとなった。日本の研究者の論文入手状況に関する調査報告では,国際的にオープンアクセスが進展する一方で論文の入手可能性の低下や論文処理加工料(APC)の負担増等が起きているという状況が示された。また,組織における研究データ管理・整備の取組や,分かりやすく論文を解説する手法“Plain Language Summary(PLS)”等のSNSと親和性の高い手法を用いた論文広報の取組,デジタル化された地域資料のオープン化が不充分な現状などが報告された。NDLからは, 次世代システム開発研究室における研究活動について,次世代デジタルライブラリー(E2154参照)と資料画像レイアウトデータセットの公開を中心に紹介した。

  「PID-識別子の最新動向」セッションでは,学術コミュニティにおける永続的識別子(PID)の最新の取組と展望について,広く活用されるPIDの管理機関から発表が行われた。DataCiteから,PIDを付与された学術リソース同士の関係を視覚化するPID GraphとDataCite GraphQL APIについて紹介された。科学技術振興機構(JST)から,ジャパンリンクセンター(JaLC)による日本国内の学術コンテンツへのDOI付与と,ORCID(CA1740参照)との連携およびその他の識別子やサービスとの今後の連携拡大の予定について報告があった。米・カリフォルニア電子図書館(CDL)から,研究機関の識別プロジェクトResearch Organization Registry(ROR;CA1976参照)について紹介があった。米国エネルギー省(DOE)科学技術情報局(OSTI)から,研究成果や助成情報へのDOI付与とORCID付与を通じて研究ライフサイクルのセグメント同士をつなぐことで,DOEによる助成の成果を明らかにする試みが報告された。Crossrefから,オープンな学術インフラの原理を16の提言にまとめたThe Principles of Open Scholarly Infrastructureを採択し,一層オープンスカラシップに取り組むことが報告された。PIDはオープンサイエンス推進の要となるインフラである一方で,PIDを含むメタデータや,PIDを有効に活用するサービスの方が重要であること,またPIDはメタデータとつながって関係を表現してこそインフラとしての信頼性を獲得できるという意見がいくつかの報告に共通して挙げられた。

  「研究データ利活用にまつわる課題整理:研究データ利活用協議会(RDUF)小委員会活動による実践」セッションでは,RDUFの概要説明の後,3つの活動報告が行われた。研究データライセンス小委員会の活動を引き継ぐデータ共有・公開制度検討部会からは,「研究データの公開・利用条件指定ガイドライン」(E2250参照)の改定や研究データの品質表示に関する検討等の活動が報告された。小委員会終了後も部会として活動を続けるジャパン・データリポジトリ・ネットワーク(JDARN)からは,「研究データリポジトリ整備・運用ガイドライン案」の作成等の活動が紹介され,リポジトリリスト(どのような条件を満たすリポジトリにデータを寄託すべきかについてのポリシー)の策定を検討中であることが報告された。リサーチデータサイテーション(RDC)小委員会(CA1980参照)からは,学術出版誌の投稿規定における研究データの位置付け調査,リーフレット「研究データにDOIを付与するには?」(E2233参照)の作成等の活動成果が報告された。引き続き聴衆も交えたパネルディスカッションが行われ,研究データの保管場所選定に関して,分野別リポジトリと機関リポジトリの違い,大学の機関リポジトリの活用,JPCOAR(E1830参照)等との連携への期待,リポジトリ運営について専門職育成の必要性やその評価方法等についての議論が行われた。

   セッション内容や当日のスライド等は,一部を除いてウェブページから閲覧可能である。

Ref:
Japan Open Science Summit 2021.
https://joss.rcos.nii.ac.jp/
“セッション詳細”. Japan Open Science Summit 2021.
https://joss.rcos.nii.ac.jp/session/overview/
“Japan Open Science Summit 2021 国立国会図書館主催セッション「Wikidata×デジタルアーカイブ×LOD―国立国会図書館・東京藝術大学・大阪市立図書館のリソースをつなげてみる―」”. NDL Lab.
https://lab.ndl.go.jp/event/joss2021/
“The PID Graph”. FREYA.
https://www.project-freya.eu/en/pid-graph/the-pid-graph
“Powering the PID Graph: announcing the DataCite GraphQL API”. DataCite
https://doi.org/10.5438/yfck-mv39
The Principles of Open Scholarly Infrastructure.
https://openscholarlyinfrastructure.org/
“JAPAN OPEN SCIENCE SUMMIT 2021 セッション「PID-識別子の最新動向」”. JaLC.
https://japanlinkcenter.org/top/event/event_past.html
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https://current.ndl.go.jp/e1186
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https://current.ndl.go.jp/e2317
青池亨. 国立国会図書館,次世代デジタルライブラリーを公開. カレントアウェアネス-E. 2019, (372),E2154.
https://current.ndl.go.jp/e2154
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https://current.ndl.go.jp/e2250
能勢正仁, 大向一輝, 尾鷲瑞穂, 高橋菜奈子, 村山泰啓. リーフレット「研究データにDOIを付与するには?」の製作. カレントアウェアネス-E. 2020, (386),E2233.
https://current.ndl.go.jp/e2233
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https://current.ndl.go.jp/e1830
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蔵川圭. 著者の名寄せと研究者識別子ORCID. カレントアウェアネス. 2011, (307), CA1740, p. 15-19.
https://doi.org/10.11501/3050829
中島律子. 組織IDの動向−RORを中心に. カレントアウェアネス. 2020, (344), CA1976, p. 7-9.
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能勢正仁, 池内有為. データ引用を研究活動の新たな常識に:研究データ利活用協議会(RDUF)リサーチデータサイテーション小委員会の活動. カレントアウェアネス. 2020, (345), CA1980, p. 2-4.
https://doi.org/10.11501/11546850