E2155 – Japan Open Science Summit 2019<報告>

カレントアウェアネス-E

No.372 2019.07.11

 

 E2155

Japan Open Science Summit 2019<報告>

 

 2019年5月27日から28日まで,学術総合センター(東京都千代田区)において,Japan Open Science Summit 2019(JOSS2019)が開催された。国内でオープンサイエンスに携わる関係者を対象としたカンファレンスであり,昨年(E2051参照)に続き2回目となる。19のセッションで構成され,各日最後に「まとめセッション」が設けられたほか,主催・協力機関等がオープンサイエンスや研究データに関する各々の取組について紹介するポスター展示が行われた。なお,本イベントはSNSでの広報を積極的に取り入れ,Twitterなどでの発信が推奨された。Twitterで#JOSS2019を検索するとイベントの一連の様子を知ることができる。本報告では,これらのうち,国立国会図書館が主催したセッションとそれ以外の3つのセッションの概要を報告する。

 国立国会図書館は「国立国会図書館をめぐるデータオープン化の現状と展望~データの利活用促進に向けた取組」セッションを主催した。2019年4月に開始した書誌データ利用の無償化について紹介するとともに,オープン化したデータの活用事例とオープン化することによる今後の活用の可能性を,DOI付与,APIを使った利活用方法,特に国立国会図書館サーチのAPIから取得できるデータ形式とその取得方法,IIIFの活用事例などを交えて紹介した。あわせて,国内のデジタルアーカイブと連携して多様なコンテンツのメタデータをまとめて検索できる「国の分野横断統合ポータル」である「ジャパンサーチ」(試験版)について,利活用への取組を紹介した。特に,利活用を考える上で,「見つかる,活かせる,辿れる」データという観点が示され,そうした点を追求した「ジャパンサーチモデル」を詳しく説明した。また,ジャパンサーチを使い,ジャパンサーチに搭載されたデータが実際にどのように利活用に優れているか実演し,その特徴を説明した。トークセッションや会場からの質疑を通じ,識別子の活用や利活用事例を把握する工夫等について議論があった。

 「オープンサイエンス政策と研究データ利活用のベストプラクティス」セッションは,オープンサイエンス政策の最新状況についての内閣府の報告から始まり,研究機関(海洋研究開発機構),大学図書館(京都大学附属図書館),出版社(Elsevier)が研究データの利活用に関する各々の取組を紹介した。長年研究データの公開に取り組み続けている海洋研究開発機構からは,データ管理の組織体制やデータ公開フロー・ポリシーの紹介に加え,データ分析コンペティションの開催や,公開している海洋データの利活用状況など具体的な事例についても報告があった。京都大学附属図書館からは,オープンアクセスリポジトリ推進協会が現在開発中である研究データ管理に関する新教材の試用プロジェクトへの参加を中心的な話題として,同館の研究データ公開支援活動についての発表がなされた。また,現在建設中の桂図書館での提供予定のサービスについても,上記新教材の試行を踏まえた検討が行われている旨の報告があった。Elsevierからは,今後10年間で見込まれる研究活動全般の世界的変化について,同社が作成したレポートに基づいた発表が行われた。

 「研究データのライセンス表示ガイドラインの実践に向けて」セッションは,研究データ利活用協議会「研究データのライセンス検討プロジェクト」小委員会が策定した「研究データのライセンス表示ガイドライン(草案)」について,実際に研究データの公開を行う各機関からのフィードバックを求め,それにより議論を深める目的で行われた。日本原子力研究開発機構,宇宙航空研究開発機構,データ統合・解析システム運営機関,京都大学等から,各機関のデータ利用規約や公開に係る課題,草案への意見等が発表され,論点のまとめに続き質疑応答により議論を深めた。オープン化が推進されている公共データとは異なり,研究データについては何らかの利用申請を必要とするものが多く,事務手続に煩雑な面がある。その一方,必ずしも著作権法による保護の対象とはならない研究データに対し,利用申請や契約によるデータ提供の形をとることによって,データ採取者のクレジット表示の実現,研究者間の情報交換や議論を通じた研究の前進といった利点もあることが指摘された。

 「研究ワークフローにおけるPIDの活用」セッションは,識別子の付与対象が論文から始まり研究データや研究者へと拡大し,研究の様々な局面で識別子が活用される中,多様な視点からの先進的な応用事例が紹介された。国際研究者識別子の付与機関ORCIDからは,永続的識別子(PID)付与に係る負担軽減と透明性向上を目的に,助成団体を対象に要望調査を実施して問題点の洗い出しを行い,データ再利用・自動化のためのワークフローを検討中であることが報告された。千葉大学からは,米国の非営利団体CHOR及び科学技術振興機構との連携事業として,PIDを介して学術出版社等と論文情報を共有し,オープンアクセスに資する仕組み(E1844参照)について報告があった。科学技術・学術政策研究所からは,公的助成とその成果を「体系的課題番号」でひも付け,可視化・分析の効率化を進める取組が報告された。学術コミュニケーションコンサルタントの宮入暢子氏からは,国際イベントPIDapalooza(E2017参照)2019への参加報告を中心に,PIDの機械可読性をサービスに活かしていく方向に国際的な潮流がシフトしつつあること等が紹介された。

 まとめセッションでは,各セッションの座長からセッション内容の概括報告が行われた。さらに,研究者,大学や研究機関,図書館,市民や社会との境界を超えた相互作用や相乗効果について,多岐にわたるセッションのテーマに基づき議論された。

 セッション内容や当日のスライド等は,一部を除いてウェブページから閲覧可能である。

電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室・木下貴文
電子情報部電子情報流通課・高品盛也,井上佐知子,横田志帆子

Ref:
http://joss.rcos.nii.ac.jp/
https://togetter.com/li/1360419
http://joss.rcos.nii.ac.jp/session/0527/?id=se_97
http://joss.rcos.nii.ac.jp/session/0527/?id=se_112
http://joss.rcos.nii.ac.jp/session/0527/?id=se_114
http://joss.rcos.nii.ac.jp/session/0528/?id=se_117
http://id.nii.ac.jp/1001/00195387/
http://id.nii.ac.jp/1001/00195388/
http://id.nii.ac.jp/1001/00195389/
http://id.nii.ac.jp/1001/00195390/
http://id.nii.ac.jp/1001/00195391/
http://id.nii.ac.jp/1001/00195392/
E2051
E1844
E2017