E2017 – 永続的識別子に関する会議PIDapalooza 2018<報告>

カレントアウェアネス-E

No.345 2018.04.19

 

 E2017

永続的識別子に関する会議PIDapalooza 2018<報告>

 

 2018年1月23日から24日にかけて,スペインのジローナにおいて,Crossref(CA1481参照),DataCite(E1537参照),ORCID(CA1740参照),米・カリフォルニア電子図書館(CDL)の主催する永続的識別子に関する会議であるPIDapalooza 2018が開催された。今回が2回目の開催で出版社,図書館関係者,学会,研究助成機関,永続的識別子(Persistent Identifier:PID)運営機関などから150名程度の参加があった。これは2016年開催の1回目よりも大幅に増加したということである。基調講演が2つ,3会場で並行してのセッションが48,その他10枚程度のポスター発表という構成で,PIDに関する取り組み事例の紹介や分野・業種の枠を超えての意見交換が行われた。日本からは,科学技術振興機構(JST)および国立情報学研究所(NII)から計4人が参加した。

 本稿では,上述のとおり多岐にわたる多数の講演のうち,図書館に関係する話題に絞って報告する。

●査読におけるPIDの活用(PIDS in Practice: Peer Review)(Ed Pentz氏(Crossref),Alice Meadows氏(ORCID))

 論文が出版されるまでに経た履歴として,査読記録が論文と結びつけられてほしいというニーズが研究者や出版社からあった。また,査読によってその論文の出版に貢献した人を明示することが従来から要求されていた。そこで,Crossrefでは新たなDOIの登録対象として“Reviews”を2017年10月末に設けた。どのようなメタデータ項目が必要かということは,査読の記録という資産を特徴付けるものという観点から,関係出版社とともに検討した。最も重要なのは論文本体のDOIと査読記録のDOIとを結びつけることである。これについては双方の“relations”の項目でその関連を記述できるようにしているということである。

 オープンアクセス(OA)出版プラットフォームであるF1000Researchは査読記録のORCIDレコードへの自動反映に対応しており,これはORCIDを利用している研究者等があらかじめORCIDログイン画面から個別の出版社に対して許可を与えていくことにより実現される。査読記録が登録されたDOIの第一号は「https://doi.org/10.5256/f1000research.13189.r24792」であり,ORCID画面に反映された査読記録の第一号は「http://orcid.org/0000-0003-2161-3781」であるとのことである。

●機関IDの最新情報(OrgID Update)(John Chodacki氏(CDL),Trisha Cruse氏(DataCite),Laure Haak氏(ORCID),Ed Pentz氏(Crossref))

 コンテンツIDについてはDataCiteやCrossrefが,貢献者IDについてはORCIDが取り組みを進めているが,機関IDが存在しないことは学術情報流通促進の観点からはギャップとなっており,Crossref,CDL,ORCID,DataCiteでワーキンググループを結成して検討している。ワーキンググループの検討結果はウェブ上で公開している。これに対し,22機関からコメントが寄せられ,そのコメントへのレビュー,機関IDのホスト機関として名乗りを上げる機関からのプレゼンテーションについて議論したとのことであった。その後,ホスト機関として名乗りを上げている6機関(英国図書館(BL),CDL,Crossref,OCLC,IPアドレス管理機関のIP Registry,独・ノルトライン-ヴェストファーレン州大学図書館センター(HBZ))からのプレゼンテーションを受けたことが報告された(HBZはプレゼンテーションの場には参加できなかった模様)。今後,ホスト機関を決定するためのステップに進むということである。

●ライデン大学におけるPIDの導入(Adoption of PIDs at Leiden University)(Peter Verhaar氏(オランダ・ライデン大学))

 ライデン大学では様々な識別子を取り扱っている。機関リポジトリに入っている出版物や特別コレクションを電子化したものに対してはHandleを,データリポジトリに保存しなければならないデータセットにはDOIかURN:NBN(Uniform Resource Name及び全国書誌番号)を,研究者にはORCIDを登録している。今般,所属研究者にORCIDの普及を図るため,個人宛てメールの送付や大学ウェブサイトへのお知らせの掲示,プロジェクトメンバーによる訪問,説明会の開催,新入研究員や博士課程の学生に対するORCID ID作成の義務化などを行った。

 所属研究者がORCIDに登録することにより,大学はORCID APIを用いて所属研究者の業績を把握することができる。およそ半数の研究者はORCIDに掲載している業績がなかった。業績数が1のORCID ID数はおよそ90,業績数が2のORCID ID数はおよそ50であった。また,最近の展開として,ORCIDを経由して査読の業績も把握できるようになった。8人の研究者が査読の活動をしていることが分かったということである。

●実験装置や設備を特定するためのPIDのすすめ(Capturing facilities: PID recommendations for identifying scientific equipment and infrastructure)(Erin Arndt氏(Wiley),Laure Haak氏(ORCID),Crystal Schrof氏(米・オークリッジ国立研究所:ORNL),Susan White-DePace氏(米・アルゴンヌ国立研究所先端放射光施設))

 大型研究装置などの公共投資に対するインパクトの的確な評価が難しいという問題がある。ORNLは,アウトリーチ活動として投資に対するリターンの計算,ORCIDを通じての装置と研究者の論文との関連づけを目的として2016年から研究者のORCID IDの収集を開始した。まずはワークフローの検討からはじめた。装置の利用にあたっては,利用申請,利用許可,実験,実験結果についての論文の投稿,出版,報告という順でワークフローは進行する。この一連のフローにORCIDを用いることができる。「https://orcid.org/0000-0003-3126-7165」は,ORNLがORCIDを利用し,これが反映された例である。

 また,ORNLは論文出版のプロセスで研究助成機関や装置のIDを入れる可能性について検討した。著者のORCIDプロファイルから直接装置等の情報を取得する方法が考えられるが,もっとも装置情報に対応するためには,雑誌記事をXML形式で記述するための国際規格であるJATSを更新する必要がある。今後,著者が原稿を投稿した後,そのORCIDレコードから公開する研究助成機関,所属機関,使用装置を選択し,出版社はそれらをCrossrefに送付するメタデータに含めることができるよう検討しているということである。

●おわりに

 PIDapaloozaは分野や業種の枠を超えてPIDという共通のツールを介して新たな出会いを提供してくれる場であった。また,この会議は既知の事例の報告ばかりでなく,今後実施しようとしている新たな取り組みについて,関係者にお披露目し,ある種の合意形成をしている場でもあると感じた。まだリリースされていないPIDに関する未来の状況に触れることができ今後の施策の企画の参考となるため,今後も注視していきたい。

科学技術振興機構・余頃祐介

Ref:
https://pidapalooza.org/
https://doi.org/10.5256/f1000research.13189.r24792
http://orcid.org/0000-0003-2161-3781
https://doi.org/10.23640/07243.5402002.v1
https://doi.org/10.23640/07243.5402047.v1
https://orcid.org/0000-0003-3126-7165
https://orcid.org/blog/2017/12/07/using-identifiers-capture-and-expose-facilities-use
E1537
CA1481
CA1740