E2016 – 第3回SPARC Japanセミナー2017<報告>

カレントアウェアネス-E

No.345 2018.04.19

 

 E2016

第3回SPARC Japanセミナー2017<報告>

 

 2018年2月21日,国立情報学研究所(NII)において第3回SPARC Japanセミナー2017「オープンサイエンスを超えて」が開催された。

 NIIの蔵川圭氏から,2017年度最後となる本セミナーについて,学術知識の生産と伝達様式がデジタル化とともに大きく変化したことを受け,オープンサイエンスの起源と現代の学術情報流通における取り組みを基に,今後の知識生産のあり方を議論したいと説明があった。

 米・スタンフォード大学名誉教授のデイビッド(Paul A. David)氏から,オープンサイエンスについて,成り立ちに関する見解と今後の課題が説明された。科学が,知識人が土地所有者に供したサービスとして発生したものであるという歴史的背景を受け,相互の信頼によって成り立っているオープンサイエンスは,貨幣経済において特異なシステムであり,商業化された科学市場によって科学知識の配分が均等に行われないことは,オープンサイエンスの発展に悪影響をもたらす可能性があると述べられた。また,オープンサイエンスの発展に伴い増加している剽窃を防ぐ手段として,検知システムの確立,法整備による処罰の明文化,教育の徹底が重要であると指摘された。

 情報通信研究機構(NICT)/国際科学会議世界科学データシステム(ICSU-WDS)の村山泰啓氏からは,国内外のこれまでのオープンサイエンスに関する提言を基に,今後の,学術情報流通を担う業界が有るべき方向性について説明があった。オープンサイエンスに関する施策はトップダウンで方向性が示されることが重要であるとし,その上で,図書館,学協会,出版社等がオープンサイエンスの構成要素として,法的強制力によるものではなく,自発的に機能していくべきであることが示された。また,研究成果の有用性を実証するために,図書館や出版社が,研究の支援者に留まらず,科学者と共存して研究活動の基盤を支えていくことが望ましいと述べられた。

 米SPARCエグゼクティブディレクターのジョセフ(Heather Joseph)氏からは,オープンサイエンスにおけるこれまでの動向及び今後の課題について報告があった。インターネットの普及により情報の入手機会が飛躍的に向上すると期待されたが,現実には政策的あるいは金銭的な制限が課せられており,違法ダウンロードによる論文入手や,無償で公開されている論文が優先的に活用されているなどの課題が生じていると説明があった。また,今後オープンサイエンスを推進していくにあたり,論文の引用数を研究評価の基準に加えてオープン化へのインセンティブ形成を図ること,論文購読のビジネスモデルを定額制から都度払い制に移行し,入手機会の公平性を図ることなどが提案された。

 慶應義塾大学文学部教授の倉田敬子氏からは,デジタル化による研究情報の変化と,大学図書館等に求める今後の研究支援の有り様について報告があった。研究に用いるツールの選択肢が増加した一方で,各ツールの統合,書類手続きの簡略化,研究分析の共有といった課題が指摘された。また,課題解決にあたり,大学図書館が,研究プロセスを共有するシステムの構築や,学内における管理システムの統合を推進することが望ましいと述べられた。

 慶應義塾大学三田メディアセンター事務長の市古みどり氏からは,デジタル化に伴う図書館業務の変化と,今後オープンサイエンスを図書館が支援するための方向性について報告があった。デジタル化に伴い変化した図書館サービスとして,電子資源に対応したシステムの構築や学修環境整備への着手などが挙げられた。また,総合研究開発機構(NIRA)のオピニオンペーパーに掲載された「智のプラットフォーム構築競争」図に触れ,多言語化やマルチメディア化による国内プラットフォームの改善が必要であると指摘された。

 講演に続き,横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授の深貝保則氏をモデレーターとしてパネルディスカッションが行われた。まず深貝氏から,オープンサイエンスがもたらす学術情報基盤の転換と,17世紀における印刷技術の革新との比較考察について説明があり,加えて,双方向的なコミュニケーションの実現により,情報の入手・発信機会が増えた一方で信頼性の担保が難しくなったと指摘された。

 また,日本語の研究情報は評価されないかという意見に対し,多言語に対応したツールを活用することで適切に評価される可能性が示された。そのほか,機械学習の手法としてディープラーニングの有用性が実証され,アルゴリズムによる研究が学術界の外で形成されているが,研究者のコミュニティに取り込みたいかという意見に対し,積極的に取り込みたいとする回答もある一方で,機械学習を行うには予め機械自体への教育も必要となるが,教育内容次第で機械学習が有用でなくなるといった可能性も指摘された。

 本セミナーでは,オープンサイエンス化あるいはデジタル化に伴う学術情報流通システムの変化に,大学図書館がどの様に応じ,機能し得るかということが示唆された。今後,他部署や研究者との連携を密にし,ニーズに対応した適切なサービス展開を実現していきたい。

横浜市立大学学術情報センター・山本一騎

Ref:
https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2017/20180221.html
https://www.icsu-wds.org/
http://www.nira.or.jp/pdf/opinion15.pdf