E2015 – 日本図書館研究会第59回研究大会シンポジウム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.345 2018.04.19

 

 E2015

日本図書館研究会第59回研究大会シンポジウム<報告>

 

    2018年2月25日,神戸学院大学ポートアイランドキャンパスにて,日本図書館研究会第59回研究大会シンポジウムが「図書館員は専門性をいかに維持・確保するのか-各館種の現状と課題-」というテーマで開催され,基調報告と館種別の報告,そして討議が行われた。

    最初に,研究委員長の日置将之氏(大阪府立中央図書館)より,専門性の捉え方が変化し,雇用状況が厳しくなるなか,専門性の維持・確保に関する今後の在り方について考えてみたい,という趣旨説明があった。

    まず,廣森直子氏(青森県立保健大学)による「図書館職場における専門性の形成の現状と課題」と題する基調報告があった。近年,機械化,情報化が進むなかで司書の専門性や「職人技」スキルが司書の手を離れていき,新しい専門性が模索されている。司書の社会的認知度はさほど高くなく,図書館現場における非正規雇用が拡大するなかで,いかにして専門性を形成していくかについて,個人の努力と現場のOJTに依存するのではない在り方が検討されるべきと論じられた。

    公共図書館については,田中裕子氏(佐世保市立図書館)が「まちの公共サービスを支えるもの-非正規職員の専門性」と題した報告を行った。田中氏は地方公共団体の非正規職員であるが,個人として日本図書館協会(JLA)の中堅職員ステップアップ研修(1)・(2)を受講するなど研鑽を積み,JLA認定司書事業における長崎県初の認定司書となっている。その経験から,司書の専門性を,必要な情報・資料を必要な人に繋げる努力のほかに,継続的・計画的な経営の視点を持つことだと述べた。また,九州地方における,非正規の司書の学びをサポートする活動にも深く関わっており,研修と交流の場となっていることが報告された。そして,図書館サービスを支える個々の司書の日常的な学びを,司書一人ひとりの積極性だけに頼るのではなく,組織の支えが図書館の専門性の維持・確保の一番の近道になると結ばれた。

    大学図書館に関しては,德田恵里氏(株式会社紀伊國屋書店関西ライブラリーサービス部)が「実務者目線で考える専門性-大学図書館レファレンス担当として」と題して報告を行った。德田氏は現在,大学図書館に業務委託職員として勤務しているが,様々な館種の図書館に様々な雇用形態で勤務した経験を持つ。その過程で専門性の違いを意識したり,仕事に対するスタンスを変えたことはなく,ランガナタンの『図書館学の五法則』を信条としていると述べたうえで,現代の図書館サービスに適合したOCLC Researchによる再解釈の試みを紹介された(E1611参照)。本報告では実務者の専門性,特にレファレンスを行う場合に心掛けていることとして,図書館を知る,利用者を知る,リソースを使いこなす,さらに広い学びの場を求めることの4点について述べられた。そして,将来の図書館界を担っていく人材のためにも継続して働ける仕組み作りの重要性を説かれ,「IFLA倫理綱領」の「同僚と雇用関係」の一節を引用して報告を締め括られた。

    学校図書館については,武田江美子氏(岡山市立大野小学校)が「学校司書の専門性をどう考えるか-その維持・確保をも含めて-」と題して報告を行った。武田氏は岡山市の学校司書(嘱託職員)である。学校司書が他の図書館司書と異なる点は,複数校の兼務が多いことと児童・教職員に利用者が限定されていることである。そして,学校司書の専門性として,子どもたち・教職員への資料提供を中心とした図書館サービスを提供することと,あらゆる図書館サービスを駆使しながら知的好奇心を触発することの2点を核としていると話された。資料と資料提供の専門家という,教師とは違う立場で図書館教育がどう展開できるかを発信することが何より大切であり,そのためには校内での学校図書館業務への理解が不可欠であるとも述べた。そして,学校司書が入ると授業が面白くなることを発信していく必要性があると結ばれた。

    専門図書館については,千本沢子氏(大阪産業労働資料館 エル・ライブラリー)が「雇用形態を超えたスタッフのスキルの形成-労働関係専門図書館の実例から-」と題して報告を行った。専門図書館は多種多様であり,その内容と規模もまたそれぞれの館によって異なることを前提として,勤務館の実例を紹介された。問題点としては,職員が少なく,仕事のマニュアル化,共有化がそれほど重要でないため省略しがちなこと,専門知識やスキルの属人性が高いため代替できないこと,世代交代が進んでいないこと等を挙げられた。ボランティアの継続的かつ献身的な労力に負うところは大きいが,高度な専門性を保持する労力の無給での提供は,図書館界全体においても問題であると述べた。

    討議は,休憩時間に提出された質問に回答する形式で進められた。回答後に,他の参加者からも意見が出され,質問者も改めてコメントすることで議論がより深まった印象があった。専門性の問題は,ともすれば個人の能力に頼ることが少なくないが,組織における計画的な支援体制や仕組み作りが何より重要であることが再認識された。

    なお,本シンポジウムの発表原稿や討議の様子は,2018年7月発行予定の『図書館界』70巻2号(通巻401号)に掲載されるので,詳細はそちらをご覧いただきたい。

東京家政大学・芦川肇

Ref:
http://www.nal-lib.jp/events/taikai/2017/invit.html
https://togetter.com/li/1203075
https://www.ifla.org/files/assets/faife/codesofethics/japanesecodeofethicsfull.pdf
E1611