E1611 – 時代は変わり順序も変わる:『図書館学の五法則』再解釈の試み

カレントアウェアネス-E

No.267 2014.09.25

 

 E1611

時代は変わり順序も変わる:『図書館学の五法則』再解釈の試み

 

 OCLCの研究開発部門であるOCLC Researchが,2014年6月30日,S.R.ランガナタンの『図書館学の五法則』についてのレポート“Reordering Ranganathan: Shifting User Behaviors, Shifting Priorities”を公開した。上級研究員コナウェイ(L.S.Connaway)と准研究員ファニエル(I.M.Faniel)によるこのレポートは,現在の図書館員が最優先とすべき事項の検証を目的に,利用者行動の変化を踏まえ,五法則の順序変更と再解釈を提示したものである。

 1931年に示されたランガナタンの五法則は以下のとおりである。

 <ランガナタンの五法則>

第一法則:Books are for use.(図書は利用するためのものである。)
第二法則:Every reader his or her book.(いずれの人にもすべて,その人の本を。)
第三法則:Every book its reader.(いずれの本にもすべて,その読者を。)
第四法則:Save the time of the reader.(読者の時間を節約せよ。)
第五法則:A library is a growing organism.(図書館は成長する有機体である。)

 コナウェイとファニエルは,法則の順序を四,二,一,三,五の順に並べ替え,入れ替えた上位四つについて現代的な解釈を以下の様に示している。

 <順序変更後の第一~四法則とその解釈>

新・第一法則:Save the time of the reader.
解釈:Embed library systems and services into users’ existing workflows.(図書館システムとサービスを利用者の実際の情報行動に組み込め。)

新・第二法則:Every reader his or her book.
解釈:Know your community and its needs.(所属するコミュニティとそのニーズを知れ。)

新・第三法則:Books are for use.
解釈:Develop the physical and technical infrastructure needed to deliver physical and digital materials.(紙媒体や電子資料を提供する物理的,技術的なインフラを発展させよ。)

新・第四法則:Every book its reader.
解釈:Increase the discoverability, access and use of resources within users’ existing workflows.(情報行動の中で資料を発見しやすく,入手しやすく,使いやすくせよ。)

 第五法則は現代でも通じるもので,変更も再解釈もないとしている。さらに一~四の再解釈は,この第五の示す成長の具体的な事例であると述べている。

 五法則が誕生した当時,図書館は利用者に図書を「利用」させることよりも図書を「保存」する志向が強く,閉架書庫からの出納がサービスの主流であった。そのためランガナタンは第一法則を「図書は利用するものである。」とし,「保存」を「利用」と変える事で図書館の施設,スペース,図書館員等のすべての要素が大きく変わらねばならないとした。

 情報が不足していた当時ではこれが最優先課題であったが,レポートでは,情報が豊富になり時間の不足が課題となっている現代では,第四法則であった「利用者の時間を節約せよ」が最優先であるとする。当時からこの法則は我々図書館員に利用者がその人の図書を発見するまでの時間を節約するよう,利用上の面倒さや無駄な時間を常に排除するよう指示するものであった。しかしこのレポートでは,現代の人々の情報行動の中で図書館は小さな部分に過ぎないことを指摘し,もう一段階深い解釈をすることを提唱している。利用者の自然な情報行動に図書館や図書館サービスが組み込まれ,情報行動がさらに効率的に,シームレスに,時間をかけず行われるようにしなければならないと主張しているのである。

 この時間の重要性を軸にしながら,レポートは,以降の法則の再解釈を進めている。図書館員は自分たちが所属するコミュニティの事を知り,目指す方向を知らなければならないとし,そのための活動を推奨する。なぜなら利用者が求める資料を先回りして適切に提示できなければ利用者の「時間の節約」にならないからである。あらゆる形態の資料が利用者に届くようにするため,インフラの発展の必要性を指摘し,現状では,利用者が最初に頼りにするのは図書館ではなくGoogleやSNS等であることを逆に好機と捉え,新たな関係構築をすることを推奨する。また,資料が利用者につながるよう,他との協力関係を構築して発見可能性を向上させ,資料を多様なフォーマットで複数持つなど冗長性を持たせることによりアクセシビリティを向上させること等を提言する。

 さらに,今後も図書館が成長する有機体であることの重要性を確認した上で,成長可能な一つの領域として,“share of attention”を成長させること,すなわち,情報を得る上での人々のアテンションについて,図書館サービスに振り向けられる割合を高めることを挙げている(E1387参照)。そしてその成長を様々な観点から測定することの重要性を説いている。

 ランガナタンの『図書館学の五法則』は,約80年前の現場を土台としつつも,どこか抽象的な印象がある内容を含むものである。これに対し,このレポートは,現代の文脈に沿った解釈を試み,さらにそれを実現するための提案を示すことで,図書館の現場に具体的な示唆を与えている。我々は,自分の所属する共同体を知り,その中でのニーズを知り,そして構成員の情報行動を予測してサービスを構築するという大きな課題が突きつけられているのである。

 今年の9月27日で,ランガナタンが亡くなって42年である。この42年間,図書館や情報サービスは激変した。しかし,このレポートの著者も認める通り,この五法則は80年以上を経たいまでも図書館員の道標になるものである。もし彼が今生きていたら,現在の図書館を巡る今の状況を考慮して五法則に手を加えるのであろうか?そしてこのOCLCのレポートに対してどのような感想を述べるのであろうか?是非聞いてみたいところである。

宮城教育大学附属図書館・吉植庄栄

Ref:
http://www.oclc.org/research/publications/library/2014/oclcresearch-reordering-ranganathan-2014-overview.html
http://oclc.org/content/dam/research/publications/library/2014/oclcresearch-reordering-ranganathan-2014.pdf
E1387