カレントアウェアネス-E
No.516 2026.01.15
E2854
オープンアクセス推進に向けたOASEの取り組みと成果
OASE事務局(東北大学附属図書館内)・菅原真紀(すがわらまき)
OASE(オーエイス、Open Access for Scholarly Empowerment)は、「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」(2024年2月16日統合イノベーション戦略推進会議決定、以下「基本方針」)に基づき政府からの体制構築の支援を受け、グローバルな学術出版社等との電子ジャーナルの転換契約(CA2064参照)に関する集団交渉のために発足した、大学等を主体とする交渉チームである。本稿では、発足から2年弱にわたるOASEの取り組みと成果を紹介する。
●発足の経緯
「統合イノベーション戦略2023」(2023年6月9日閣議決定)において「学術プラットフォーマーに対する交渉力を強化するため、国としての方針に基づく大学等を主体とする交渉体制の構築を支援」することが示された。これにより、2024年1月、学術研究懇談会(RU11)を構成する大規模研究大学の理事・副学長級による交渉方針検討会合が内閣府主催で開催され、大学が主体的に学術出版社と交渉を行うチームを組織することとなり、同月に発足したのがOASEである。OASEは、大隅典子東北大学副学長・附属図書館長(当時)を代表とし、学術情報流通の問題に詳しい有識者4名で構成され、東北大学附属図書館に事務局が置かれた。2024年2月に公表された基本方針では、「誰もが自由に学術論文及び根拠データを利活用できる権利の確保等の観点から、学術プラットフォーマーに対する大学を主体とする集団交渉の体制構築を支援し、交渉の取組を通じて研究コミュニティの経済的負担の適正化を図る」ことが示された。政府からの体制構築の支援により、大学の経営層が検討に参画するという従来とは異なる交渉体制のもと、OASEは基本方針の実現を目指すこととなった。
また、交渉にあたっては、これまで国内で出版社との交渉を担ってきた大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)に対して、2024年2月にOASEから連携・協力を依頼し、知見の共有や交渉に関する助言を求めた。
●2025年契約に向けた交渉
2024年1月、内閣府は国際STM出版社協会を通じて加盟出版社にオープンアクセス推進への見解に関するアンケートを行い、それに回答した5社に事前ヒアリングを実施した。
OASEはこの5社を対象に2025年契約向け交渉を開始し、一部出版社との交渉はJUSTICEと共同で進めることとなった。数回の交渉を重ねたが、この時点では強い交渉材料がなかったため、2025年契約向け交渉をOASEが主体となって行うことは見送り、2026年契約向け交渉のための検討を進めることとなった。
●2026年契約に向けた交渉
2025年契約に向けた交渉の経験から、より多くの機関をまとめて強い交渉力に繋げるため、内閣府・文部科学省の支援により、2024年12月から国公私立大学、大学共同利用機関、国立研究開発法人へ、5社の転換契約に対する関心表明書の提出を依頼した。
また、2024年12月には交渉力強化のため、OASEに新たなメンバーが参画し、6名体制となった。
2026年契約向け交渉は、国内各機関の現行の転換契約が2025年末で終了するSpringer Nature社、Wiley社を対象とし、2025年1月から開始した。その後Taylor & Francis社からも提案があり、3社と交渉を行った結果、8月6日にWiley社、8月28日にSpringer Nature社、9月22日にTaylor & Francis社と合意した。2026年の国内における3社の転換契約機関数はいずれも前年より増え、現時点では以下となる見込みである。
- Springer Nature社:83機関
- Taylor & Francis社:29機関
- Wiley社:99機関
●総括
OASEが国内の従来の交渉体制と異なった点は、研究者が参画したことである。研究者と図書館職員が協働し、それぞれの経験や役割に基づき交渉にあたった。
また、出版社の許諾を得て、関心表明書を提出した機関(以下「関心表明機関」)から契約に関する情報の提供を受けて試算を行ったほか、交渉中の仮条件を関心表明機関に提示して各機関内の検討状況や契約可能性を調査し、出版社と協議するための判断材料とした。その結果、世界的な物価上昇傾向の下でも価格上昇率を抑制し、価格以外の条件も改善することができた。
関心表明書には学長・理事級の署名を要請したため、機関側に一定の調整を要した一方で、これまで図書館で抱えていた問題を機関内全体に提起する契機となったと肯定的に捉えた機関もあった。大学だけでなく、国立研究開発法人から関心表明を得たことも従来からの変化の一つであった。
今後については、本稿執筆時点で183の関心表明機関が参画する「学術出版社との集団交渉体制構築に向けた準備会合」において、引き続き検討が進められている。OASEの活動、そしてそこから得られた知見が、日本のオープンアクセス推進の一助となることを願っている。
Ref:
OASE.
https://oase.jp/
JUSTICE.
https://contents.nii.ac.jp/justice
RU11.
https://www.ru11.jp/
“研究DX(デジタル・トランスフォーメーション)-オープンサイエンス:学術論文等のオープンアクセス化の推進、公的資金による研究データの管理・利活用など-”. 内閣府.
https://www8.cao.go.jp/cstp/kenkyudx.html
統合イノベーション戦略推進会議. 学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針. 2024, 3p.
https://www8.cao.go.jp/cstp/oa_240216.pdf
「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」(統合イノベーション戦略推進会議令和6年2月16日決定)の実施にあたっての具体的方策. 内閣府, 2024, 5p.
https://www8.cao.go.jp/cstp/openscience/r6_0221/hosaku.pdf
学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針、及び学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針の実施にあたっての具体的方策に関するFAQ(令和6年10月8日更新). 内閣府, 2024, 6p.
https://www8.cao.go.jp/cstp/oa_houshin_faq.pdf
小陳左和子, 山崎裕子. 国内の大学における電子ジャーナルの転換契約をめぐる動向. カレントアウェアネス. 2024, (360), CA2064, p. 14-16.
https://current.ndl.go.jp/ca2064
船守美穂. 即時オープンアクセスを巡る動向:グリーンOAを通じた即時OAと権利保持戦略を中心に. カレントアウェアネス. 2023, (358), CA2055, p. 15-23.
https://current.ndl.go.jp/ca2055
尾城孝一. 学術雑誌の転換契約をめぐる動向. カレントアウェアネス. 2020, (344), CA1977, p. 10-15.
https://current.ndl.go.jp/ca1977
